↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
PR
69/586

69.セバスチャン、またまた大活躍

 暗くてよく見えなかったけど、それは登おじさんではなかった。

 登おじさんよりずっとずっと、大きかった。

 その男は、危ういところでわたしの脇を掠めていく。

 通り過ぎた瞬間に、わたしはその男の顔に何かが貼りついているのが見えた。

 玄関の常夜灯の淡い光の中で見た物、それはセバスチャンの白い体だった。

 セバちゃんが男の顔面に爪を立ててへばりついているのだ。

 男の方はたまったものではない。

 何に襲われたか分からないまま、玄関から飛び出そうとしているのだ。


 ドゴーン。


 物凄い音がした。

 男が玄関の閉められた扉に激突したのだ。

 その衝撃で、家全体が揺れた。

 物凄く揺れた。

 あちらこちらがミシミシと不気味な音を立てる。

 そして、その衝突の衝撃で、セバちゃんが男の顔面からぽとりと落ちた。


 「きゃ、セバちゃん」


 玄関に激突した男は、顔面からセバスチャンが落ちたせいで、まともに目が見えるようになったのだろう、今度はものすごい勢いで玄関のドアを開け、外に飛び出した。


 「セバちゃん、セバちゃん、大丈夫?」


 その時になって、わたしはようやく電気をつけることを思いつく。

 玄関のスイッチを付けると、目が痛いほどの光。

 玄関のドアは大きく開け放たれ、どんどんと走りながら遠ざかっていく足音が聞こえる。


 「きゃ、セバちゃん、セバちゃん、血まみれじゃない」


 セバスチャンの白い毛並みは、血がべっとりと付いていた。


 「大変、どうしよう」


 わたしはセバちゃんを抱え上げた。

 そして急いで居間に駆けこむ。

 たしか、救急セットがあったはず。

 わたしは、血まみれのセバちゃんをソファーに降ろすと、救急箱が置かれている棚に駆け寄った。


 ゴン。


 「痛い!」


 わたしの足の小指が何かにぶつかったのだ。

 見下ろすと、小さめ真っ黒なスーツケースが置かれていた。

 こんなもの、ここに置いた覚えがない。

 というか、家のものではない。

 ぶつけたのは足の小指。

 もう、信じられないぐらいに痛い。

 でも、痛いと言っている場合じゃなかった。

 わたしは、棚から救急箱を取り出すと、セバちゃんの元に戻った。


 「セバちゃん、今、今治療するから、待っててね」


 そう言ってセバちゃんを見ると、平気な顔をして体に付いた血の汚れを舐めとっている。


 「セバちゃん、どこ? どこ怪我したの、見せて」


 わたしはそう言いながら、セバスチャンの身体を持ち上げ、あちらこちら見た。

 見た。

 傷を探した。

 ・・・・でも、傷がない。

 どこも怪我していない。


 「・・・よかったぁ」


 わたしは、思わず床にへたり込んでしまった。

 けっこうな量の血だったのだ。

 大怪我では済まないくらいの血。

 それがセバちゃんのものではないことが分かり、わたしは心の底からほっとした。


 気が付くと、床に点々と血の跡が付いている。

 でも、セバちゃんは怪我一つしていない。

 玄関で男の顔から振り落とされた時も、猫本来の本能で、うまくクルっと回って着地したのだろう。

 ・・・と、いうことは、この血は、侵入してきた謎の男の物に違いなかった。

 おそらく、わたしが2階で寝ている時に、男が居間に侵入したのに違いない。そしてそれに気づいたセバちゃんが、思いっきり爪で男の顔を引っかいたのだ。

 セバちゃんの体についた血や、床についている血の量から見ると、セバちゃんは相当な深手を男に与えたのに違いなかった。


 ・・・・外から、サイレンの音が聞こえる・・・。


 と、その時だった。


 「さくら、さくらちゃん、無事か!!」


 居間に血相を変えて飛び込んできたのは、登おじさんだった。


 「あっ、おじさん」


 わたしは、呆けたようにおじさんの顔を見た。


 「さくら、血、血が・・・やられたのか!」


 おじさんの言葉に、自分の胸を見ると、白いパジャマにべっとりと血が付いている。

 あっ、そうか、さっきセバちゃんを抱えたから・・・。

 でも、おじさんは、わたしの呆けたような表情と、胸に付いた血ですっかり勘違いをしてしまった。


 「きゅ、救急車、早く、救急車を!」


 おじさんが玄関に向かって叫んだ。

 ドタドタと足音がして、警官が顔を出す。

 そして、直ぐにマイクを口に当てる。


 「こちら毛呂山3、通報のあった家に、怪我人の女性がいます。至急、救急車の手配を」


 えっ? 通報のあった家?

 わたしは通報していない。

 おじさんが通報したのだろうか。

 居間の異変に私が気づいてからおじさんがかけ込んでくるまでに、時間にして10分もかかっていない。

 いや、5分ぐらいだったかも・・・・。

 その短い時間に誰かが通報したのだろうか。


 「おじさん・・・」


 おじさんはわたしに駆け寄り、肩をしっかりつかんだ。


 「さくら、何も言うな。今、救急車を呼んだから、もう少し、もう少しの辛抱だ。気をしっかり持て」


 ううっ、まるで私が今にも死ぬかのようなセリフ。

 わたしは、おじさんの足元を指さした。


 「おじさん、土足。おまわりさんも」


 そう、慌てて家の中に駆けこんで来たおじさんとお巡りさんは、しっかりと土足だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。