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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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5.バブル崩壊の話

 こんなお菓子につられる私も情けなかったが、お菓子のせいで夢見先輩の話を聞く気になったのは確かだった。

 最初、お菓子と聞いた時は、どうせスーパーで売られている袋菓子か何かを想像していたわたしにとって、このトシ・ヨロイヅカのケーキは、テレビでしか見たことのない、一生口に出来ない食べ物との認識しかなかったからである。

 しかも、めちゃくちゃ美味しい。

 もう、天女になって空に舞い上がるぐらいに美味しい。

 また、紅茶のハロッズもショートケーキによく合っていた。


 「はぁぁぁぁ、しあわせ・・・」


 意識しないでそんな言葉が私の口から流れ出た。


 「ところで、デリ・・・デリバリー研究会でしたっけ、ここは一体、どんなことを研究するところなんですか?」


 いち早く、ケーキの美味しさによるトリップ状態から抜け出したゆかりが、ニコニコとしている夢見先輩に尋ねた。

 うん、そうだね、それを聞かなくちゃ。


 「デリバリー研究会じゃなくって、デリバティブ研究会よ。デリバリーだと、お料理の仕出しになってしまうから」


 うん、やっぱりデリバリーは、料理の配達で合っていたんだ。

 わたしは妙な所で自分の英語力に対してひそかに○を付けた。


 「デリバティブとは、金融派生商品のことよ」

 「金融派生商品?」


 またまた分からない言葉が出てきた。

 金融から何かが派生した商品?

 何のことだろう。

 すると夢見先輩はいきなり話題を切りかえた。


 「あなたたち、貯金しているわよね」

 「え、ええ、慎ましい金額ですけど」


 その質問に、幾分戸惑いながらもゆかりが答えた。


 「その貯金の利子って、今いくらぐらい付いているかしら」

 「えーと、たぶんゼロ円だと思います。小学生の時はもっと何円か利子付いていたんだけど、最近は全然つかなくなっちゃってます」


 わたしは自分のゆうちょ銀行の通帳を思い浮かべながら答えた。

 貯金が好きなわたしは、小学生の時から貯金する一方で、引き出すことはほとんどなかった。


 「そうね、今の日本では貯金に対する金利が普通預金で0.001%」

 「0.001%!」


 金利が低いとは思っていたけど、0.001%という数字にびっくり。


「そう、100万円預けていて、つく利子が僅か10円」


 100万円なんて貯金していない。

 わたしの小学生の時からせっせと貯めているお年玉やらお小遣いの貯金総額は、50万円くらいしかない。

 それにしても、100万円で10円かぁ。

 いまどき10円で何が買えるのだろう。

 駄菓子屋さんで飴玉一つくらい買えるだろうか。


 「しかも、ゆうちょの利子は10円未満は切り捨てになるので、99万9999円の貯金があっても、その利子は0円なのよ」


 どうりで、貯金通帳の利子の欄が最近はとんと見ない筈だ。

 せっかく預けていても利子がゼロ円では、タンスのへそくりと同じなんだ。

 わたしは、自分の貯金通帳の利子がつかない理由が分かって、なんだか安心した。

 そういえば、ずっと心の中でモヤモヤしていたんだもの。


 「でも、ゆうちょの利子の話と、デリバティブ・・・でしたっけ。それとどう結びつくんですか?」


 ゆかりが質問をする。

 確かに、ゆうちょの利子がどうして金融派生商品などと結びつくのだろうか。


 「あなたたち、こんなに利子が低くて、ほとんどゼロ%なのはどうしてか知ってる?」

 「えーと・・・それは・・・国がそう決めたから?」


 ゆかりが自信なさそうに答えた。

 んっ、そういえばテレビのニュースで金利の話を何か見たような記憶がある。

 確か・・・不況対策だとか・・・


 「分かったわ。不況対策で貸出金利をうんと低くして貸し出しを増やすため」

 「そう、その通り。よく分かったわね」


 えへへ。

 夢見先輩に感心されちゃった。

 でも、それがどうして不況対策になるのかはわたしはよく理解していない。


 「日本の金利が下がったのは、1990年のバブル崩壊の時から、そこから20年以上も低金利時代が続いているの」


 バブル崩壊って、テレビの解説で聞いたことがある。

 池上彰さんの解説で、その時はよく分かったつもりになったんだけど、もうすっかり忘れてしまっている。


 「1990年台は日本にお金が余っていた時代だったの。そのために土地などに法外の金額が付き、それでも飛ぶように売れていた時代だったそうよ。お給料はどんどん上がるし、贅沢品購入に海外旅行に、当時の日本人はお金を使いまくったそうよ」


 なんだか、今の中国みたいだ。

 日本旅行に爆買い。

 20年前の日本の姿が、今の中国の姿と一緒なのだろうか。


 「ところが、土地価格は何時までも上がり続ける訳がない。自宅を購入するならば、普通の人の年収の5倍くらいが限度と言われていたんだけど、年収600万円の人が買えるのはせいぜい3000万円くらいまで、ところがその当時の土地価格は6000千万とか、1億とか、とてもとても手が届かない金額にまでなってしまっていたの」


 土地ころがしとか地上げ屋とか、その時代に暗躍した連中の話は聞いたことがあった。


 「銀行もね、とてつもない好景気に浮かれてしまって、ろくに信用も資産もない個人に、無担保で数千万円のお金を貸していたところもあったそうよ。でも、どんどんと土地が売れなくなっていき、土地価格が値下がりした。それも一気に値下がりしたの。一気に日本の経済が停滞したわ。これがバブル崩壊。その時に破産などして貸したお金の回収が出来なくなった金額が100兆円とも200兆円とも言われているわ」


100兆円や200兆円って・・・金額の桁が大きすぎてピンと来ない。

1万円札で並べると、東京からどこぐらいまでいくんだろう。


「そこで日本政府は経営が苦しくなった金融機関に資金援助をしつつ、企業が工場を立てたり、店舗を立てたりする設備投資に使うお金の金利をうんと低くしたの。それで日本経済が立ち直ると思ったのね。でもだめだった。そこから20年近く日本経済は停滞したままだし、金利もどんどんとゼロに近づいていったの。これがゆうちょなどの金利が低い理由」


 うん、そうだったのか。

 そのように理路整然と説明してくれれば、なるほどそうかと思う。


 「でも、でも先輩はまだ金融派生商品デリバティブと利子の関係を説明していませんよ」


 何だか、ゆかりはこの金利の話に非常に興味を持ったみたいだった。

 ただ単に聞くだけではなく、疑問点をぶつけてくる。

 そりゃあ、わたしも面白い話だと思う。

 なんでそうなっているのかという理由が明確に説明されれば、なるほどそうだったのかと、目から鱗と言うか・・・アハ体験みたいになる。


 「そうね、実はこのバブルの発生と崩壊は金融派生商品デリバティブが引き起こしたものだったと言えば、どう思う?」


 夢見先輩はにっこりと笑みを浮かべ、想像もしなかったことを口にした。



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