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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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3.部活紹介

入学式が学校の体育館で行われる。

始業時間になって、入ってきた中年の先生と若い女性の先生が、わたし達にそう告げた。

ふーん、この人たちが主担任と副担任になるんだ。

クラス全員の自己紹介は後回し。

そこで新一年生の全員が、ぞろぞろと体育館に向かって移動を始めたのだ。

わたし達のクラスは男女がそれぞれ半分ずつだった。

新一年生が全員集まると結構な人数になる。

特別進学や進学クラス、アスリートクラスあわせて10クラス380名である。

全部で400名近いの新入生がゾロゾロと体育館に集結した。

移動の途中で、毛呂中の時の同級生の顔を何人か発見し、わたしは手を軽く振って挨拶する。

もっとも挨拶するのは女の子だけ。

男の子は、なんとなく挨拶しづらい。


体育館には椅子が人数分並べられていた。

そして体育館の壁際には、多分先生達なのだろうが、並んで座っている。

クラス順に順々にその椅子に座っていく。

なんか、緊張する。

あまり私語を交わす子達もいないのは、やはり全員が緊張しているからなんだろうな。


入学式は粛々と開始された。

校長先生の挨拶。

県のお偉いなんとかという役職の人の挨拶。

PTA会長の挨拶。

何だかがんばれとか、希望とか、そんな言葉が多かったように思う。

最初の内は熱心に聞いていたのだが、そのうち飽きてきてしまった。

だが、面白かったのはここからだった。

部活動の紹介。

運動部、文化部、それぞれが部の紹介をするのだ。

トップバッターはゴルフ部だった。

いきなりゴルフの道具を持った生徒が壇上に現れ、ゴルフを始めたのだ。

それもかなり真剣にゴルフボールを打っている。

それを見た新一年生の席は、一斉に歓声と笑い声に包まれた。

うん、掴みはOKってやつね。

しばしゴルフが続いた後、ゴルフ部のキャプテンがマイクを掴む。


「新一年生の諸君、来たれゴルフ部へ。1年からでも大会の活躍は夢ではない。何故ならばゴルフ部員は今8人だからである。しかも3年が3人なので、今年のアマ大会に出られる確率は・・・ええっと凄いのである」


このセリフに、講堂全体がわあっと湧いた。


「勿論、女子マネージャーも大歓迎なのである。是非青春をゴルフボールにぶつけようではないか」


ここでゴルフ部の紹介時間は終わった。

生徒会の役員がベルをチーンと鳴らす。


「おもしろーい」


あちらこちらから声が上がった。

次に出てきたのは演劇部。

鎧に兜を被った3人組がいきなり寸劇を開始する。

でも、段ボール製の鎧が動き回っているうちに破れ、ずり落ちてしまう。

それもまた、一年生の笑いを誘った。

あっという間に持ち時間が終わってしまう。


「週三日、月水金の部活動です。時間とれますよ」


多分、演劇部の部長らしき段ボールの鎧武者はそれだけ叫んで部隊の袖に消えていった。

その後も次々と部の紹介が続く。

料理部、サッカー部、テニス部、音楽部は軽音楽部と二つある。

どれもこれも面白そうで、楽しそうな部活動の紹介だった。

部の紹介は40個近くも続いただろうか。

文化部よりは運動部の方がずっと多い。

流石は私立なので、部活動に力を入れているのだろう。

漫画部や検定部なんてものもある。

そして最後に生徒会役員・・・名前は忘れてしまったけどイケメンの、多分生徒会長がマイクを握った。


「えー、それでは一通り部の紹介が終わりました・・・えっ?まだ残っている?・・・ああ、あの同好会ね。じゃあ、最後にお願いします」


何だか、あまり優遇されていないんだろうな。

そんなことが伺わせるような紹介のされ方で出てきたのは、目を見張るような美少女だった。

その美少女っぷりに、講堂の一年生のざわめきが消えていく。

黒い流れるような黒髪、透き通るような肌色。

そして、制服をすらりと着こなしたその姿は、ファッションモデル?と思ってしまうぐらいだった。

その少女は、落ち着いた動作で壇上のマイクを握ると話し始めた。

案の定、姿と同じように美しい可憐な声。

男子生徒達が座っている席から、ため息が聞こえてきそうだった。


「みなさんこんにちは」


その少女は透き通るような声で挨拶した。


「わたしはデリバティブ研究会の会長の夢見麗華ゆめみれいかです」


んっ?

デリバティブ研究会?

聞きなれないその名前に、静まり返っていた会場がすこしざわついたようだった。

デリバティブって・・・なんだっけ。

注文されたお料理を配達するのが確かデリバリーとか言うはずだから、料理配達の研究会なのだろうか?

いったい、料理配達の何を研究するのだろう。

汁がこぼれない岡持ちの研究とか、料理が冷めないうちに配達する方法の研究とか、そんなものなのだろうか。

わたしは、そんなことを想像した。

あんまり楽しそうな同好会ではなさそう。

だが、次に夢見麗華さんの口から出てきたのは、わたしが想像もしなかったことだった。


「デリバティブとは、金融派生商品のことです。今、世界は金融と言う大戦争が起こっています。相手のファンドの裏をかき、いかに相手に損をさせ自分が利益を出せるか。それは、昔の領土をめぐる帝国主義の戦争に似ています。そして、わたし達の研究会はその金融戦争の真実を知り、どのような戦略と戦術で世界の構造が変化しているのか、その中でわたし達はどう行動し生き抜くべきかを研究しているのです」


うっ・・・ううっ。

言っていることが全然分からない・・・。

戦争が起きているんだって?

朝のNHKニュースでも、新聞でも、そんな記事は見たことがない。

周りをみても、全員が何のことなのか分からずにきょとんとしている。

なにしろ、ほのぼのとした部の紹介の最後に、いきなり戦争だの生き残りだのという話が出てきたのだ。

全員が戸惑うのも無理はなかった。


「はい、時間です。デリバティブ研究会、ご苦労様でした」


何だか、生徒会長は夢見麗華先輩にあんまり話をさせたくなかったようだ。

時間も他の部よりは短いような気がした。

夢見麗華先輩は一瞬、悔しそうに唇を噛んだようだったが、そのまま大人しく部隊の袖へと消えていく。


「はい、これで部の紹介は全部終わりました。興味のある方は、それぞれの部室がどこにあるのか見取り図を教室に用意していますので、それを見て部室に直接尋ねて行って下さい。皆さんの高校生活が有意義で楽しいものになりますことを心から祈っています」


これで入学式の式典は全部終了だった。

わたし達はまた来た時と同じようにぞろぞろと自分の教室に戻る。


「ねえ、チェリー、入る部、決めた?」


途中でゆかりが尋ねてきた。


「うーん、どうしようかな。音楽部もいいけど、料理部というのも美味しそう。お菓子とか作れるようになるし。ゆーちゃんは?」

「あたしもまだ決めかねているの。運動部なんか、部員の多いところと、結構こじんまりとしているところとがあって、そんなところは楽しそうだしさ」

「じゃあさ、後で気になっているクラブちょっと二人で尋ねてみようか」

「うん、そうだね、そうしよう」


こうして、わたし達はこの後に運命的な出来事を迎えるのであった。


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