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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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2.新しいクラス

入学式の始まる前に、クラス分けの大きな紙が玄関の突き当りに掲示されていた。

多くの新入生がそれを覗きこみ、一緒のクラスだの別のクラスになっちゃっただのとわいわいがやがやとやっている。

身体の大きな男子生徒が沢山前に居るので、自然とわたしとゆかりは背伸びをしたり、ぴょんぴょん飛び上がったりして、自分のクラスがどこなのか確かめようとする。


「やった、チェリー、一緒のクラスだよ」


いち早くその掲示を覗き込んだゆかりが告げた。


「ほんとう?やったね」

「うん、やった。1年3組だって」


わたしとゆかりは満面の笑顔で手の平をパチンと打ち合わせた。

初めてのクラスだから、知っている人がいた方が心強い。

でも、どんな子がクラスメイトになるんだろう。

なんだか、ドキドキする。


「こっち、こっち、あたしたちのクラス、こっちだよ」


ゆかりが、わたしの手をぐいぐいと引っ張っていく。

一年生のクラスは、どうやら3階のようだ。


「3階だったら、きっと眺めいいね」

「うん、越生の街が一望できるところだといいよね」


わたしたちは、階段を登り3階に辿り着いた。

うう、自転車、久しぶりに乗ったから足が痛い。

筋肉痛になんなきゃいいけど・・・。


「あったよ、1年3組」


ゆかりが教室に掛けられていたボードを指さした。

そこには確かに、掠れた古ぼけたボードに1年3組と書かれている。


「いくよ、チェリー」

「うん」


わたしは、ごくんと唾を飲み込んだ。

何だか部活の大会にでも臨むかのように緊張する。

ゆかりと一緒じゃなかったら、きっと教室の前でドキドキ、おたおたしていたに違いない。

ゆかり、ありがとう。

どんな子がいるんだろう。

仲よくなれるといいな。


ガラッガラッ。


ゆかりが教室の戸を開けようとした時、いきなり戸が大きくスライドした。


「きゃっ」


小さな悲鳴をあげたのはわたしだった。

なにしろ、扉の向こうに居たのは、ものすごく背の高い男子生徒だったからである。

扉の桟に頭が付きそうになっている。


「なんだよ、人の顔見て悲鳴上げやがって」


その男子生徒は私の顔を見下ろして文句を言った。


「あ、あ、あの・・ご、ごめんなさい」


しどろもどろになるわたしを、ゆかりがかばった。


「なによ、いきなり戸が開いたからびっくりしただけでしょ」


気の強いゆかりが、男の子に食って掛かる。

それが気に入らなかったのか、その男子生徒はプイと横を向くと私達の脇をすり抜けて出ていってしまった。


「なによ、あいつ」


ゆかりが、その男子生徒の後ろを睨みつけながら言った。


「ゆーちゃん、ゆーちゃん、登校初日だよ。あんまり喧嘩しないで」


わたしは、小声で言いながらゆかりの制服の袖を引っ張りながら教室の中に入った。

まだ登校しているのは半分くらいなのだろうか、机には空きが目立っている。

そして教室の中は、けっこう静まり返っていた。

みんな、それぞれにぼんやりと窓の外を眺めていたり、手持無沙汰に両肘をついていたりしている。


「えっと、どこに座ればいいのかな」


わたしは、黒板に貼ってある紙を見つけた。

近づくと、それは座席表だった。


「ええと、わたしが二番目の列の、前から3番目で、ゆーちゃんがその前、やったね、お隣同士だ」

「えっ、本当?ラッキー」


親友が同じクラスで、しかも席は前後してお隣なんて、なんて偶然でしょう。

わたしは、さっき男子生徒に睨まれたことも早々に忘れて、とてもいい気分だった。

自分の机に座り、その座り心地を試してみる。

うん、特に問題はない。

今日は入学式とその後の部活勧誘があるらしい。

部活動は、全員が必ず入らなくてもいいらしいけど、どうしようかな。

何か面白そうなクラブがあればいいんだけど。

中学時代は吹奏楽部だった。

わたしのパーツはクラリネットだったけど、それほど熱心だった訳ではない。

この越生南には音楽部と軽音楽部があるらしいけど、高校でも引き続き楽器をやるのはどうしようかと迷っている。

もともとは、ちょっと音痴の所があって、それが治るのではと思って吹奏楽部に入ったのだけれども、クラリネットを吹くのと、自分が声を出して歌うのはまったく違うと気づいたのは中学2年の後半だった。

かくして、わたしの音痴はいまだに完治していない。


そんなことを考えていると、私の隣にでっかな人影が立ったのが分かった。

横を見るとさっきの、のっぽの男子生徒だった。

うぎゃ。

ひょっとして、わたしの真横の席?

その男子生徒は、わたしに気づくこともなく隣の椅子に座った。

だが、手足が長すぎてあちらこちらはみ出してしまっている。

なんか、蜘蛛みたい。

前の席に座ったいたゆかりも、わたしの隣の席が、さっきの男の子だと気が付いたようだった。

だが、ゆかりはどうやら無視を決め込むようだった。

身体を捩って私の方を向き話しかけてくる。


「ねえねえ、チェリー、同じクラスの出身者でこのクラスに一緒になったの、あたし達だけみたいだよ」


そういうところの情報収集は、ゆかりは早い。

そっかー。

地元に一番近い高校なのに、結構バラバラになるもんなんだ。

わたしたちがそんな会話をしていると、隣ののっぽがこちらをチラチラと見ているのが感じられた。

でも、ゆかりは気づいていながらガン無視をしている。


「でね、冴ちゃんも、愛ちゃんも越南おごなんのはずなんだけどな。吉田君も大谷木君も、越南(おごなん)って言ってたよね」


そんな会話の最中に、そののっぽの男の子が割り込んできた。


「お前ら、ひょっとしてケロ山かよ」


その言葉に、ゆかりがむっとする。


「なによ、失礼ね。ケロ山じゃなくて、正式に毛呂山もろやまって言いなさいよ」

「あっ、悪い悪い。ダチの間でケロ山って言い続けてたんで、つい癖になっちまった」


男子生徒は悪びれもなくそんなことを口にする。

口調と言い、態度と言い、ヤンキー予備軍だ。

わたしはそう判断した。

今の所、制服のブレザーはちゃんと着こなしているし、髪型も普通の学生のように散髪されていて、ぱっと見た目には当たり前の男子高校生のように見える。

ただ、その背丈のやたら高いことを除いてはだけど。

でも、わたしの鼻はちょっと不良がかった臭いを嗅いでしまう。


「ふーん、で、毛呂中もろちゅうの出身だからって一体、なによ」


ゆかりが喧嘩腰で突っ込んでくる。

あわわわわ。

と、止めなきゃ。

登校初日で、クラスの一人と気まずい仲にはなりたくない。

高校初日から、わたしの高校生ライフは、波乱含みだった。


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