赤い髪の女②
大広場に向かう道中でハルキは自分が立ち去った後に、大広場で起きた事件のことをユミエから聞いていた。
最初にユミエが聞いたのは男の怒号であった。叫び声の主を探すため周囲を見渡すと一人の体の大きい男のプレイヤーがもう一人の細身の気弱そうなプレイヤーに掴みかかっているのを発見した。
「もう一回言ってみろテメェ‼」
「ひいいい!」
大きな体の男は激しく怒っているようであった。ユミエは近くにいた女性プレイヤーに事の起こりを聞くことにした。
「すみません。これはどういう状況ですか?」
「あの掴まれている男が『このゲームは最高だ!』なんて言っちゃって。それを聞いた掴みかかっている方の男が怒ったみたいだわよ」
くだらないわね。彼女はそう続けて件の二人の方を見ている。
(本当にどっちも下らない。バカなこといった方もそうだけど、掴みかかっている方も怒りに任せて今すべきことを読めていないわ)
ユミエはゲームマスターが去ったあと自分の中でするべきことを整理している時に、すぐに動き始めた人を数人見かけた。彼女もその後を追おうとしたらこの騒ぎが起きた。
ユミエも事の成り行きを見ようと未だに言い争っている二人の方向に顔を向ける。
「このゲームが最高だって? どこが最高か言ってみやがれ!」
「だ、だって最高じゃないか! 仕事もない! 僕のことも見下す奴もいない‼ こんな世界で生きられるなんて最高だよ!」
「どこが最高なんだ! 俺はあっちに嫁を残してんだ! 訂正しろ!」
「し、知るかよ!」
「なんだとこの野郎‼」
ゴンッと掴みかかっていた男が怒りに任せて細身の男を殴る。体格差もあり男は地面に倒れる。その光景をマスミはついに殴ったか―と思いながら見ていた。
ブーブーブーブー、そんなけたたましいサイレンのような音が大広場に流れた。
あたりにいたプレイヤー達は何事かと慌てている。
「傷害罪を発見、直ちに加害者を殺害します」
そんなアナウンスが繰り返し流れると大きな槍を持った重厚そうな鎧が突如何もない場所から現れた。
「な、なんだよ」
殴った男は突然の出来事に反応が出来ずにうろたえる。
掴まれていた男は何かに気づいたのかへらりと笑っている。
先ほどまで興味なさげにしていた他のプレイヤー達も何事かと鎧に目を向ける。
『死刑を執行します』
無機質な声で鎧が言うと持っていた槍で男の腹部を貫いた。
槍で貫かれた男は叫ぶこともできずにその場で光の靄となって消え去る。
もしも、ハルキがこの光景を見たら気づくだろう。
この光の靄がゴブリンを倒したときに出るものと同質であると。
『きゃああああ』
遠巻きに見守っていたプレイヤーが悲鳴を上げる。近くにいた者から我先にと大広場の外へと周りを押しながら向かった。
(今動くのは得策じゃないわね)
目の前に広がるプレイヤーの波を見て、ユミエは逆に騒ぎの中心から動かないことによって難を逃れた。
大広場にいるプレイヤーが数少なくなり、ユミエはそろそろ自分も動くかと思っていた時、一人で俯いている少年を発見した。
「ぼく、ひとり?」
ユミエは心配になり話しかける。
「お姉さん誰?」
少年――ナツトは顔を上げて涙目でマスミを見つめる。
「はうわっっ‼」
ユミエはナツトの顔を見て奇妙な悲鳴を上げる。
(今のこの子を見たときの心の高鳴りはなんですか! 可愛い! これは可愛いわ、ぜひお持ち帰りしたい!)
ハアハアと息を荒げている目の前にナツトは不思議なものを見るような目でユミエを見る。
「あのー」
「お姉さんの名前はユミエって言うの! これからよろしく!」
「俺の名前はナツトって言います。こちらこそお願いします?」
これから? と疑問符を浮かべるナツトをしり目にユミエは「写真を撮りたいのに携帯がない……恨むぞ運営ィィ」などと怨嗟の言葉を言い、さらに妄想を加速させていく。
ユミエが落ち着くまで待ちナツトは双子の姉とはぐれてしまった事を話した。
「それなら私と探しましょう!」
事情を聴いたユミエは食い込み気味にそう言った。
「へ? いいの?」
ナツトは上目遣いで目の前にいるユミエを見る。彼女は自分を見つめるナツトに興奮したのか息を荒げて両手をワキワキとさせている。
「うんうん! 行こう!」
そう手をワキワキとさせながら近づくユミエ。現実世界では警察に見つかったら逮捕されるような表情である。
ナツトは戸惑いながらもユミエが伸ばしていた手を取り二人は歩き出した。
貴重な時間を使って読んでいくださっている読者様の期待を裏切らないように努力していきたいと思います。感想評価お待ちしております。
光の粒子から光の靄へと修正しました。