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街の外という意味

 二人と別れて噴水に近くまで行くと門の前に人だかりが出来ていることに気が付いた。ハルキは門へと近づくことにした。


 門の前に立つ高校生ぐらいの中性的な見た目の美形の少年を囲んで人だかりが出来ているようであった。人だかりの最後尾につくと少年の声が聞こえてきた。


 「僕は今からこの門をくぐる!」

 『おおー』 

 (どうしてこんなに周りは驚いているんだ?)

 ハルキは周りが少年の門を出るという発言に対してそれほどの関心をよせる理由わからなかった。


 「まだこの門をくぐって外に出たプレイヤーはいないと聞きます! その門をくぐり僕は外の世界へと行こうかと思います!」

 「あっ」

 ハルキは驚き思わず声が漏れてしまった。

 驚きの声に前に立つ少年はこちらの方を一瞬向いたような気がしたが、すぐに視線を大衆に向けたようだった。


(うわー、俺が先にその門くぐっちゃっているわ。なんだか申し訳ない気分になるな)

 ハルキは自分が悪いのではないことは分かっていたが何とも言えない申し訳なさで前に立つ少年に対しいたたまれない気持ちになった。


 そして、ハルキは演説を聞いて自分が思っているよりも門をくぐるということにプレイヤー達が恐怖を抱いていることを知った。

(まずい状況だな……俺以外にも街を出た奴もいるかと思っていたんだが)

 ここにいるプレイヤー達は相も変わらず下を向いているものの、門まで来る気力があったプレイヤー達である。

 早く現実世界に帰りたい者、血気盛んな者、新しい地で名前を挙げようとする者、様々な思惑があるだろうがそういう活動的になれているプレイヤー達が門をくぐれていないというのはこのゲームのクリアが遅くなってしまうことにつながるとハルキは思った。


 少年の演説は続く。

 「必ず僕が街へと帰ってきて街の外のことを皆さんに伝えます! だからいつまでも下を向いていないでください! 僕たちがこのゲームを出るためにみんなで協力しあいましょう!」


 『おおー‼』

 周りにいた多くのプレイヤー達は少年の言葉に鼓舞され、興奮しているようだった。

 少年はその様子をみて満足そうにうなずくと門の外へと飛び出していった。

 彼の勇姿が他のプレイヤー達のことを勇気づけてくれることを願いながらハルキはその場を離れようとした。


しかしハルキの脳内で最悪な光景が思い浮かぶ、それは少年がゴブリンの前で立ち尽くし、なすすべもなく無残に殺されてしまう物であった。


 (このまま少年を一人で行かせてしまっては殺されてしまうだけだ)

ハルキはその足を止め門へと向かい少年に続いて街の外に出た。


外に出ると先ほどの少年が門の近くで宙に指を動かしているのが見えた。



(他の人がメニューを開いても他の人には見えないんだな)

 ハルキが少年へと近づくと少年の方もハルキに気づいたようだった。

 「あなたも街を出てくれたのですね! よかったら一緒に戦いませんか?」

 「いや、俺はそういうのじゃなくてな……」


 ハルキは自分のレベルを見せて、自分が門を出て戦ったことがあることを説明しようとメニューを開いたが、他人には見せられないことに気づきどうにか見せられないかと考える。


 『レベルを開示しますか?YES NO』


 ハルキがどうしたものかと思案をしているとメッセージボードが現れた。

 (こんな事までできるのか、割と自由度があるみたいだな)

 「YES。少年これが見えるか?」

 ハルキは設定が変わったかどうか確かめる為にメニューを開き少年を呼んだ。

 少年は不思議そうにしながらもハルキのメニューをのぞき込んだ。


 「レベル3……もしかしてもうモンスターと戦ったのですか‼」

 少年はハルキのレベルに驚くと、興奮気味にハルキに詰めるかのように顔を近づけた

 「あ、ああゴブリンを倒したらレベルが上がったんだ」

 ハルキは少年の勢いにタジタジになりながらもなんとか答えた。

 「すごい……僕より先に門をくぐったっていうのもそうだけどそれよりすでにレベル3なんていつから狩っていたのですか‼」


 先ほどより興奮気味に少年はハルキに問いかける。

 「いつからってあの大広場での騒動が終わってすぐにだが……顔近いんだよ! 邪魔だ離れろ!」 

 ハルキは少年の顔をむんずと手で掴み少年の事を遠ざけながら答える。

 しかし、少年は興奮冷めやらぬようでハルキに対しキラキラとまぶしい視線を送っていた。

 そしてハルキに対して頭を下げる。

 「是非とも僕に戦いのご指導をお願いします!」

 「もとからそのつもりで街を出たんだよ。無駄に疲れさせやがって」


 ハルキは頭を掻きながら少年に応える。少年は自らがした恥ずかしい行動に気づいたのか顔を赤くしてハルキに頭を下げる。ハルキが「気にするな」と一言いうと少年は顔をあげる。


 「ありがとうございます! 僕はマスミって言います! これからよろしくお願いします!」

 「ああ、俺はハルキだ、これからって言っても俺も仲間との約束があるから少しの時間になっちまうけどな」


 ハルキは自分が短い時間しか一緒にいることが出来ないことを告げると申し訳なさそうな顔をした。

 「仲間……。いえ! それでも助かります」

 そうするとマスミは恐縮してしまったのか手のひらをぶんぶんと振る。

 マスミが仲間という言葉を聞い少し反応していたのが気になったが、とくには追及しなかった。 


 二人はこれからどうするか話し合い、先にハルキがゴブリンと戦い、マスミに見せることにした。

 「いいか、よく見ていてくれ」

 「はい!」

 ハルキはマスミに声をかけると、思考を戦闘へと切り替え近くに歩いていたゴブリンへと殴りかかった。

 先ほど戦った時は日が出ていて明るく戦いやすかったが、今は日も暮れていて少し視界が悪かった。

 ハルキは一度殴り、ゴブリンのHPがほとんどなくなったのを確認するとマスミがゴブリンの戦い方を見やすいようにステップを踏んで避けたり、いなしたり、上体を逸らして避けたりと手を変え品を変えてわざと時間をかけて戦う。

 (もういいか?)


 ハルキはゴブリンの動きを十分にマスミに見せられたと思ったのでゴブリンに止めを刺した。ハルキは思考を切り替えてマスミに近づいて声をかける。


 「と、こんな感じだ。わかったか?」

 「もしかしてハルキさんって現実世界だと伝説の傭兵かなにかですか?」

 「伝説の傭兵って……只のスポーツマンだよ」

 「戦いなれすぎですよ! ゴブリンを子ども扱いって……」

 マスミはハルキが戦い慣れしていることに対しての質問に納得してない様であった。


 「現実世界じゃこんなことできなかったと思うぜ、レベルが上がると身体能力上がるみたいだしな。あと厳密にはラガーマンだな、大学でラグビーやっているんだよ」

 「ああー道理で大きな体だと思いました。ラグビーならちょこっとなら知っていますよ」

 マスミは納得したかのように何度も頷く。「あの楕円球のボールを前に投げるやつですよね?」とハルキに聞いているところを見るとアメリカンフットボールと間違っているようであった。

 ラガーマンにとってアメリカンフットボールと間違えられるなんてことは日常茶飯事であったが、日本でのラグビーの知名度の低さには悲しくなるものがあった。 



 「そりゃーアメフトだ。後俺なんか部内では別に大きい訳じゃないぞ」

 「マジですか……」 

 「マジだ……さあ次はマスミが戦う番だが緊張は解けたか?」


 ハルキがそういうとマスミは驚いた。

 「ばれていたんですね、恥ずかしいな」

 ハルキはマスミのもとに戻ってきた時に微かに震えるマスミの手に気づいていた。だからこそマスミの軽口に付き合っていたのである。


 「俺が戦った時は日が出ていて明るく戦いやすかったんだが、今は日も暮れていて戦い難い、明日出直したっていいんだぜ?」 

 ハルキとしてはそっちを勧めたかった、只でさえ初戦闘なのに暗い中で戦うというのはいささか難易度が高いと思ったからである。


 「いえ、戦います。戦わせてください!」

 ハルキの提案を押しのけるようにマスミは声を荒げる。


 (門の前で演説しているのを見たときも思ったがマスミは勇気がある。俺が戦っている時にゴブリンの殺気を肌で感じただろうにそれでも戦おうとする勇気は素直に凄いって思うぜ。中々できることじゃない)


 近くに戦闘経験者のハルキがいるということを考えてのことだとは思うが、それでもハルキの妥協案に乗らなかったことにハルキは好感を持つ。


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