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最初の選択

穴から落ち、気を失っていたハルキが目を覚ましたのは街の大広場のような場所であった。そこでハルキが最初に感じたのは都会の中心にいるかのような喧騒であった。

最初は人生初のVRMMOに興奮したプレイヤーの声だと思った。しかし、どうにも様子がおかしい。


そのような歓喜の叫びではなく怒りの叫び。

プラスではなくマイナスの叫びであったのだ。


 (おいおいこりゃーどういうことだ?)

 周りのプレイヤーのあまりの醜態ともよべるそれを目にしたハルキは事態の把握に努めるように周りの声に耳を傾けた。

 「何でログアウトできないんだよ! 責任者出て来いよ‼」

 「九時になればログアウトできるかもしれないだろ! 少し静かにしてろ‼」

 そんな声が聞こえ、なぜ周りのプレイヤーが起こっているのかを理解したハルキはその現象のさらなる理解の為に自分のメニューを開いた。しかしそこにはログアウトとコールの項目は暗くなっておりハルキがタッチしても何の反応もなかった。

 (確かにログアウトが出来なくなっているな……しかしこれはどういうことだ? 漫画や小説みたいにゲームから出れなくなっちまうなんてよー)

 ハルキはログアウトできないことが事実であること理解し、少し驚いたが周りのように喚き散らしたりはしなかった。


それは周りの醜態をみて、あんな風になりたくないという思いとサービス開始時間になればどうにかなるのではないかという考えによるものであった。

 現在の時刻が八時五十九分であることを確かめたハルキはその場で黙って待機していることにした。

 大広場には大きな十字架が奥の方で鎮座しているだけで他には何もないと言っていいほどに殺風景だった。

 待っている間に周りが明るいことに気づいた。

 現実の世界では夜だったことからゲーム内と時間が同じということではないようであった。他にも、周りを見渡すと誰もが同じみすぼらしい布の服を着ていること、そしてハルキも同じ服を着ている事に気が付いた。おそらくこの布の服が最初に渡される初期装備という物なのだろう。



 『人間のみなさーん。おっはよーございまーす!このゲームのマスターなんかをやっちゃってるものでーす!』

 時刻が九時を回ると、広場の中心にいつの間にか現れたモニターに不気味にデフォルメされたウサギの絵が映し出されており。モニターから何処か幼い男とも女ともとれる中性的な声が聞こえてきた。

 プレイヤー達は何が始まるのかとモニターに目を向ける。ハルキもそちらに目を向ける。

 『これからchoice worldをはっじめるよー。まずはみんなメニューを開いてくれるかな?』

 指示通りハルキがメニューを開くと依然変わらずログアウトとコールの項目は暗くなっていた。

 「ログアウトできないままだぞ! どうなっているんだ!」

 先ほど騒いでいたプレイヤーがに向けて叫ぶ。


 ゲームマスターはそんなプレイヤー達の騒ぎを楽しんでいるかのような口調で言う。

 『僕がログアウトの機能なくしちゃったんだ! だって人間たちはこういうゲームから出れないっていう状況の創作物大好きでしょ? 漫画とか小説とかいっぱいあるもんね!』

 冗談ではない、ああいう創作物は自分の身に起こり得るはずがないものだからこそ楽しいのだとハルキは思う。

此処にいる誰もが自分の身に起こるとは思っていなかっただろう。



 「ふざけるな! 俺には仕事や家庭があるんだ! ゲームの中にずっといるなんてことできないんだよ!」

 このプレイヤーの叫びは当たり前のものだった。ハルキにも大学の授業や部活という大事なものがありゲームの中にずっといることなど許容できるものではなかった。


 『君たちプレイヤーはこのゲームをプレイすることを自ら選択したんだ!

 これは僕から君たちプレイヤーへの選択への報酬だとでも思ってくれるとうれしいな』

 「ばからしい」

 吐き捨てるようにハルキはそうつぶやいた。ログアウトできないなんてことは報酬でも何でもない、むしろこのゲームをプレイしたプレイヤーの選択に対する罰であるように感じ呆れてしまい、思わず言葉がこぼれてしまった。

 周りのプレイヤー達から発せられる暴言を気にもしないかのように明るい声でゲームマスターは言う。



 『ゲームから出る方法はこの世界に点在するボスモンスターを倒すことだよ! じゃあみんなクリア目指して頑張ってね! ばいばーい。 あ、あと武器は町の外に出るとメニューから装備できるようになるよ! 説明面倒だから後のことは自分たちで調べていって! それじゃあ今度こそばいばーい』

 ゲームマスターがどこか慌ただしく別れを告げるとモニターはプツンと音を立て真っ暗になってしまった。




 (おかしなことに巻き込まれてしまったな)

 ゲームから出られないという異常な状況。

周りのプレイヤー達はこの状況に頭が追い付いていないのか先ほど騒いでいた者も含め押し黙っている。しかしハルキにはそれが嵐の前の静けさのように感じた。

 (これはすぐにこの場を立ち去るべきだな……じゃなきゃ混乱の渦に巻き込まれちまう)

 ハルキはこの場から立ち去るために移動を始めた。ヒロにはその場から動くなと言われていたがここから逃げることの方が何よりも優先すべきことだと考えたからである。



 ハルキが大広場から去りしばらくすると、瀕死の動物のような悲鳴が大広場の方から聞こえ、ハルキは足どりを早めた。

 ハルキは大広場から離れた後、これからのことを考えるために大きな門の近くにあった噴水のベンチに座っていた。

 ベンチに座り周りを見渡していると、ハルキ達プレイヤーが最初に着ている衣服とは違うものを着ている人が幾人も歩いていた。

 (ありゃNPCってやつか。衣服が同じだったらプレイヤーとの違いなんかありゃしねえな)

 笑いながら歩いている親子を見ながらハルキは次にやることへと思考を変える。

 (まず最優先にするべきことはヒロとの合流なんだが。このまま待っているのは得策じゃねえな……)

 大広場から聞こえてきた悲鳴、そこから想像できる大広場で起きているであろう惨状、そしてヒロという男があの場にいたらどうするかなどを考えると待っているのが正解ではないように感じた。

 (あそこには中学生くらいの子供がいたのが見えた、ヒロの性格じゃあ子供たちを見放すわけがねえよなー。まったく)

 ハルキはそんなことを思いながらもちいさく笑みを浮かべる。

 ヒロという男は優しい。

 その優しさはこのようなヒロ自身も辛い状況でこそ発揮されることも長年の付き合いのハルキには分かっていた。

 (それなら俺がすべきことは門を出てモンスターと戦って情報を得ることだな)

 ハルキはそう思いベンチから立ち上がり、門へと足を向けた。

 門を出ること。それは安全で敵が出てこない死ぬことのない街の中から、敵が出てくる死ぬ危険性が伴う危険な外の世界へと行くということである。そのことをハルキは理解していたからこそ門へと行くハルキの足取りは重かった。

 門の前にハルキがつくとチュートリアルの時に現れたものと同じメッセージボードが目の前に現れた。

 『街を出ますか?

YES NO』

 たった六文字の言葉が持つ意味は計り知れない。「ゲームだから死んだって生き返る」などという楽観的な考えが出来るほどハルキは考えなしではなかった。

デスゲームとはゲームマスターは言っていなかったが、死んだ後のペナルティーなどの話もしていなかった。


もしかしたら死んだらそのままじゃないのか? もしかしたら死んだときのペナルティー取り返しのつかないものだったら? そんな悪い考えばかりがハルキの頭のなかでグルグルと回り、門の前でしり込みをする。



 「だあああーっ‼」

 ハルキはそんな考えを振り払うかのように、腹の下にある丹田のあたりに力を入れ思いっきり叫んだ。

 (だらしねえ‼俺はチームの為に前に進むのが役目だっただろうが! ゲームの中の見えねえ敵におびえてるんじゃあねえぞ!) 


 迷っていた自分に活を入れるかのように頬を叩くとハルキはメッセージボードのYESをタッチした。

 そうするとメッセージボードに新たに文字が現れた。

 『この世界で初めての恐怖に打ち勝ち、勇気ある選択をした貴方には〈称号 初めての勇気〉が与えられます。』

 ハルキは称号という新たなワードにハルキは興味を持ったが目の前の門をくぐってから確認すべきだと思い、門の外へと足を踏み入れた。


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