パーの会
一週間たった。榊は学校にも来ていない。怪我が長引いているのか・・・だが、申し訳なくて・・・というより、行くタイミングを逃してしまい、相変わらずヘタレの俺はお見舞いさえ行けない状態だ。かと行って、どこへ行くともしない情けない俺は、庭で花を眺めてはため息をついていた。
「男らしくないねえ」
この耳につく高い声は・・・やっぱ、人間界での凜だ。姿なんて・・・と言う割には、小さくて可愛い姿をしている。それなりにコンプレックス丸出しだな。
「久しぶりだな、凜」
「えっらそうに言うな!この一週間、一度も愛実の見舞いに来ないで、何してるかと思えば、爺さんみたいに庭で呆けている」
「呆けているはないだろ。落ち込んでいたんだよ」
「落ち込む?終わったことを悩むのは脳が暇している証拠だよ。くよくよする暇があるなら、愛実に会ってマイナスをプラスにする努力でもするの!」
励まされているのか、けなされているのか分からない言い方だな。
「榊、意識が戻ったのか?」
「戻ったどころか、今日、病院も退院したよ。わざわざ私が知らせてあげたんだよ。退院祝いなんだから、早くおいで。」
「まっ待って・・・」
帰ろうとする凜を俺は呼び止めた。
「なに?元輝君っていつも一歩遅いよね」
「うるさい。ちょっと着替えてくるから、それから花も・・・」
「そんなのどうだっていいよ。せっかく、誠がいるのに私呼びにきたんだよ?先帰るから早くね。場所は愛実の家よ。知ってるでしょ」
相変わらず、自己中だなあ。でも・・・榊に顔合わせにくいなあ。
「そうそう、良い情報。愛実ったら、うわごとで何度も元輝君の名前呼んでたよ」
ええっマジ?おっ俺何着ていこうかな。俺は、家に入って母さんを呼んだ。
「パーティなんだ。パーティ!何かいい服無い?」
「えっ、パーなの?パーの会って何それ?」
何でパーの会なんだー!
とうとう来てしまった。俺は榊の家の前でチャイムが押せずにウロウロしている。相変わらず、大きな古風な家だ。
俺の姿は、タキシードに花。こんな目立つ格好では、皆じろじろ見ていてもしょうがない。が、視線が痛い。
ガラガラガラ。玄関の開く音が聞こえた。まっまさか、榊。反射的に隠れる俺。
「あら、もしかして元輝君かしら」
どっかで聞いたような綺麗な声が聞こえた。振り向くと、ふわふわの綺麗な女の人がニッコリ笑っている。
「はっはい、そうです」
「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいのよ。私は榊百合。みんな中で待っているわ」
ああ、県庁での声だけ百合さんですか。なんてお上品なんだ。それに優しそう。これが榊の姉か?暖かな手にひかれ、俺は一歩家の庭に入った。が、そこで俺の足は止まってしまう。
「あの・・」
俺のうつむき顔を見て、きれいな女の人は優しそうに笑った。
「私、買い物に行くとこだったの。一緒にいきましょうか?」
「・・・」
「素敵なお花ね。愛実ちゃんにあげるつもりなのよね。痛むといけないから、玄関に置いておくわね」
百合さんは花を受け取ると中に入り、すぐに戻ってきた。そして俺の手をとり歩き出した。
あったかいなあ。女の人と手をつないで歩くなんて初めてだよお。
「元輝君は、愛実ちゃんと同級生なの?」
百合ざんはお店でケーキを頼みながら聞いた。
「はい、榊・・・いや、愛実さんがいろいろ勉強教えてくれて」
そうだ、榊が俺の為に頑張ってくれたんだっけ。それなのに俺、榊にひどいことを。
「そう、愛実ちゃん、元輝君のこと気にしてたわよ」
「俺のことを?」
「会ってあげてくれる?」
「・・・ええ、会うつもりで来たんです。でも、行きにくくて・・・」
「今はつらいと思うけど、飛び込んだら、きっと良いことあると思うな」
「・・・・」
「一緒に家入るから」
「いや、いいです。僕、先行きます。百合さんはのんびりきてください」
俺は走り出した。こんなことでイジイジしているのも男らしくない。ヘタレはヘタレなりに勇気を出してみるか。
ガラガラガラ。俺はチャイムも鳴らさずに榊の家の玄関を開けた。
「あっいらっしゃい、元輝君」
扉を開けて俺は固まった。榊がいたからだけじゃない。榊が二歳くらいの男の子を抱いていたからだ。何―なんだその子!
「やあ、元輝、来たか」
誠が部屋から出てきた。
「パパー」
男の子は誠に手を伸ばした。パパだと!
「こら、愛実は病み上がりなんだぞ。だっこを迫っちゃだめじゃないか」
誠は男の子を受け取る。これは・・・何事?頭がクラクラしてきた。まるで理想の夫婦像。俺は玄関に置いてあった俺の持ってきた花束を差し出した。
「退院おめでとう。俺帰るから」
いやいや俺何いってるの?まず、榊にあやまらなきゃ。とは、思うけど・・・俺は玄関を飛び出た。そのとき帰ってきた百合さんと顔が合った。俺は恥ずかしいことに涙目だった。
「あっ百合・・・」
誠の声が聞こえる。百合さんまで呼び捨てとは、モテモテでいいですねえ。俺、かっこ悪い。父さんの一張羅のタキシードが憎たらしいよ。
「ちょっ待ってよ」
家の門を出ようとしたところで、俺は榊の縄に捕まった。そして榊の側まで引きずられて、手を握られた。熱い手だ。
「おい、愛実。ここで技は・・・」
誠の声を無視して、俺は庭の奥に連れて行かれた。広い庭だな。庭園ですか?ここは。
「座って」
榊が命令した。俺は従った。
「大丈夫なの?」
榊が俺を覗きこんだ。えっそれって俺の台詞だよね。
「妖怪になったショックが大きかったんじゃない?会いに来てくれなかったから心配したわ」
「俺は、お前が・・・」
お前に合わす顔が無くて・・。
「ごめんなさい」
俺は素直に謝った。謝るしかないよな。
「責めてるんじゃないのよ。ただ、大丈夫だという様子が知りたかっただけ」
俺ったら、情けないなあ。逆に榊に心配かけて・・・俺は臆病なだけだったんじゃないか。
「怪我させて、ごめんな」
もう一度謝った。これが、言いたかった言葉だ。
「もう、大丈夫だから、気にしないで」
優しいなあ、榊。もう一個聞いちゃおうかな。今なら聞けるし。
「誠とは、夫婦だったんだな」
「なんで?やだそう見えた?」
榊はケラケラ笑った。えっ違うの?
「誠は実の兄よ。」
本当?ホッとしたー。そうかそうか、それであんなに榊の事、大事にしてたのか
「でも、あの子は?ほら、2歳くらいの男の子いたでしょ」
「あの子は誠と百合さんの子。」
えー!それはそれでショックなんですけど。くそー誠めー。美人の妹と嫁に囲まれ、おまけになんちゃって美人の凜もいるし、ハーレムじゃねえか。
「せっかく用意してくれたんだから、元輝君も退院祝い祝ってくれるよね」
榊は椅子から立ち上がった。榊にここまでしてもらって、断る理由もないよな。
「ああ」
榊が家に歩き出す。
「元輝君にはね、これからも私と凜とチームを組んでほしいの」
「榊と、凜と?」
「・・・もう、愛実でいいわ。榊っていうとややこしいから」
「それって付き合ってるみたい」
俺は恥ずかしそうに小声で言った。
「なーに?別にいいでしょ」
榊もちょっと照れてる。かわいいなあ。
「ああ。・・・じゃ、俺も、元輝君じゃなくて元輝でいいから。でも、愛実だけな」
俺も調子にのって言った。榊は庭に面した部屋の襖に手をかけた。やっぱ、横顔もかわいいなあ、榊。いや、愛実。ここは努力もしないでって言われる前に、少し努力しておくか。
「俺が開けるよ。」
俺はさっと手を同じ襖にかけた。手が重なる。俺は榊と近い距離にいたせいか舞い上がってしまった。
「好きだ。付き合ってくれ」
愛実が固まっている。気が付くと、襖は思いっきり開けられてて、中の部屋にいた皆も固まってこっちを見ていた。あっこの部屋でパーティする予定だったのね。
「アハハハハハハ」
凜が最初に大笑いした。誠も、百合さんまで笑っている。やっちまった。
「公開告白か?元輝、お前勇気あるなあ」
誠が膝を叩いて喜んだ。
「よほどの自信が無いと、みんなの前で告白はできないよ。どうなの愛実」
凜まで悪のりしてる。穴があったら入りたいー。
「ごっごめ・・榊、いや、愛実。その・・・」
俺はあたふたした。
「みんなやめなさい」
百合さんがピシャンと言った。
「そういうときは、見て見ぬふりをするものよ。このことを話題にするの禁止。本人達の問題なんだから」
百合さーん。ありがとうございます。天使に見えます。さっき一緒に笑ってたのは気のせいですよね
「さ、パーティよ。グラスに飲み物ついで」
百合さんのしきりによってつつがなくパーティは行われた。だた、愛実の返事は聞けなかった。
帰り道、誠の計らいで俺は駅まで愛実と歩いていた。何を話せばいいか。無言を破る言葉が見つからない。
「あ・・・の元気になってよかったよ」
俺は言った。必死の言葉だ。だが、返事がない・・・。はあ
「あそこで」
愛実が話し始めた。
「何?」
「あのタイミングで告白されるとは思わなかったわ。これから、一緒に仕事しましょというとこだったのに」
そっか、愛実としては、断りづらくなるんだな。落ち込むなあ。
「私達が付き合ったら、仕事もうまく回らなくなるでしょ。三人で仕事するんだし」
「えっそれはどういう・・」
愛実はこっちを向いて、にやっと笑った。
「教えなーい」
星の輝く夜。俺は幸福の予感でいっぱいになった。




