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出会い

十七歳の夏休み。高校三年生。受験の年。気の重い夏。部活も終わり、あとは勉強一直線。毎日図書館と家の往復。つまらない夏。 

しかし、事件は起こった。それは、いつからか、少しずつ少しずつ起こった。初めは気のせいだと思った。しかし、確かに起こっている。家に帰ったとき、戸を開けようとすると、すっと開く。飲み物を飲もうとすると、勝手に注がれる。脱いだ服は勝手にたたまれている。どうやら、おふくろでもないらしい。俺は・・・俺は、どうやら、超能力者になってしまったようだ。浮かれていた俺は、家の前にいた、不審者に気付かなかった。

模擬試験の帰りだった。もしかすると、テストの答えも、透けて見えるかも・・・と受けた結果は散々で、うなだれて家に帰ると、おふくろが騒ぎながら飛びついてきた。

「なんだよ、気持悪いな」

俺は、母親を押しのけた。

「元輝、あんたの部屋、おかしいわ。お化けいるわよ」

「えっ」

「母さん見たんだから」

話はこうだった。たまには部屋が綺麗か、チエックを入れようと、部屋を覗いたお袋は、勝手に本が浮いて、片付けられている様子、タンスの中のものが、勝手に出されている様子を目撃したのだ。驚いて母が部屋に入ると、浮いていたものは、ドサッと落ち、何事もなかった様に静まりかえってしまった。

「お化けだよ。お化け。ご近所さんも皆そういってたよ。霊媒師かなんか、呼ぼうかね」

うええ、超能力じゃなくてお化けだったのか、俺のお世話を勝手にしてくれていたのは・・・

「あのー」

ふと声がして振り向くと、そこに明らかに怪しい小柄な人が立っていた。深い帽子、長い髪、ダボッとした服、顔ばかりでなく、男か女かも分からない。

「私、霊媒師なんですけど、ちょっと、この家から、冷気が漂っていたんでねえ。調べさせてもらってもいいかしら」

「えっ、やだ、ちょうどいいですわ」

おふくろは明らかにあやしい奴の話に飛びついた。

「その前に、名前とか素性とか言えよ。帽子とって顔見せろよ。」

俺は、常識者として怪しい奴に向かってすごんだ。そいつは、ひょうひょうとしながら、帽子をとって髪を掻き揚げた。へえ、結構綺麗な顔してるじゃん。若い女か?

「失礼しました。私、駆け出しの霊媒師で、肩書きはないんですが、名前は、榊愛美。千田高校の三年生です。はい、生徒手帳」

千田高校、俺が、届かなかった県内一の名門じゃねえか、こんな変な女が?なんかムカつくなあ。偽装手帳じゃねえか?

「まあ、あの有名な。すごいのねえ」

おふくろは、生徒手帳をマジマジとみて、すぐ信用した。おいおい。

「じゃあ、すぐ、あがって見てくれます?あっおいくらかかるのかしら」

「いえ、お金は頂きません。駆け出しなので、修行の一つになれば」

「まあ、悪いわねえ」

おふくろはホクホク顔で、そいつを家に上げた。

「こちらなのよ。ちょっとくさいかも知れないけど」

おふくろは、断りもせず、俺の部屋に通した。くさくて悪かったな。愛美は部屋全体向かってに軽く手を振ると、したり顔で言った。

「ああ、確かにいますねー。ちょっと、霊とお話したいんですが、いいですか?ドア閉めてもらっても。」

おふくろは恐る恐るドアを閉めた。

空気がピンと張り詰めた。彼女の顔が変わる。口の中で何かごにょごにょ言い始めた。

ゆらりと、彼女の髪が上がった。マジかよ。本物?そして、急に元に戻った。

「分かりました」

「えっ」

彼女は、振り向くと、神妙にこういった。

「あなた、元輝君でしたっけ?お化けに取り付かれています。どうやら、好かれているみたいですね。」

「どうすれば、いいんですか?」

おふくろは、榊にすがった。

「一週間時間をください。私が、捕まえて見せましょう」

その日から、榊は一緒に住むことになった。

おいおい、俺の了承は得ないのかよ。


「おっ綺麗なお嬢さんだね」

帰ってきた親父の第一声はそれだ。風呂から、上がったばかりの若い娘に鼻の下のばしちゃって、みっともない。

「元輝にとりついたお化けを追い払ってくださるそうなの、一週間泊めてもいいかしら。」

おふくろはすっかり、榊を信用してしまってる。

「もちろん、いいとも」

親父がデレデレと鼻の下を伸ばした。親父は、女の子が泊まるのが嬉しいだけじゃないか!

「ただ、元輝の部屋とは離したほうがいいんじゃないか」

「親父、俺そんな気ないから」

俺は、そういって、席をたった。

「元輝もお風呂入りなさい」

お袋が声をかけた。

「わあってるよ」

そりゃまあ、ほんの少し、恋の期待はあるが、受験で忙しい時期だし、あんな変な女に気を取られている場合じゃないよな。

風呂で体を洗いながら、俺は風呂を見た。お湯が目一杯張ってある。榊の後の風呂だと思うと、少し照れる。いやいや、綺麗でも、変な女だぞ。騙されるな俺。風呂につかると、水がザアーとこぼれた。うん、この水の音が、気持いいんだよな。

ザアー、ザザザアー

おいおい、こぼれ過ぎじゃないか?俺、太った?っておおい!

 見ると、俺の隣にもう一つ、空間が、脚に何か触った。

「うあああああ」

透明人間でもいるのか!?叫んで扉を出ると、榊が、俺を押しのけて、何かを捕まえようともがいた。が、その榊も突き飛ばされて、何かが、横を逃げていった。

お袋は大騒ぎだし、親父はアタフタするし、てんで頼りない。俺は、急いで、榊を助け起こした。

「なにするのー!」

榊は叫んで、俺を突き飛ばした。なんで?って俺、裸じゃねえか!アホー、俺のアホー。俺は、手近の何かを尻に巻いた。

「なにするのー!」

榊は俺の腰に巻いた何かを奪い去った。お前が何するの!だ、と思ったら、なんたることだ、俺は榊の脱いだ服を腰にまいてた。

「パンツ、履きなさいよー」

榊が部屋を飛び出した。そりゃないぜ、俺だって好きで裸で飛び出したわけじゃないし、見られてショックなんだからな。

とにかく、何かいるのは、分かった。二階の自室で、髪を乾かしながら俺は思った。なんか、やばいもんがいる。

トントン

ドアがノックされ、榊が入ってきた。

「さっきはごめん」

少し、頬が赤い。おお、可愛いところあるんだな。

「もう・・・寝るの?」

少し、うつむきかげんに、榊が話す。えっ何?期待していいわけ?

「いや、少し、勉強してから寝る」

なるたけ、平静を保って言う。

「寝る前に、ちょっと、したいことあるから、呼んでほしいんだけど」

ドッキーン!やばくないこれ、やばいよ。そんなこと言うから、その後の、勉強全然手につかねー!悶々としながら、一応、一時間教科書を眺めた。眺めただけだが・・・。おいー、なんで、今年受験なんだよー。

そして、悶々としながら、一階に用意された客間にいった。

「あの・・・勉強終わりました。もう・・・寝ます」

俺、絶対、顔真っ赤だあ。

「ちょっと待って、この問題解いてから」

真面目に勉強していた榊は振り向きもせずそう言った。俺はちょっと覗いて驚いた。なんだこれ、めっちゃ難しいじゃん。こいつ・・・焦りに似た何かを感じた。

「じゃあ、あなたの部屋いきましょうか」

榊が鉛筆を置いて、そう言った。髪からシャンプーの匂いが運ばれてくる。バックン、バックン。勉強の焦りなんて、飛んでいった。俺の部屋に行くと、榊は部屋をグルッと見渡した。いや、でもまさかな。ハハまさか。そう思いながら、俺の胸はドキドキだった。

「あの、何するんだよ」

沈黙に耐えきれず、ぶっきらぼうに俺が聞く。

「あ、うん、誰もいないか確認」

まさかな、まさかな。

「さ、寝て」

えーっ、マジで?

「そっそれ、やばくない?」

「なんで?もう寝るんでしょ」

「えっだって、親もいるし」

あ、俺、もう少し背中押されたら、榊押し倒しちゃうかもな。

「何言ってんの」

榊は、俺の背中をドーンと押した。俺は、そのまま、ベットに。やばいなあ、こんなとこで、初体験か?しばらくうつぶせになってワクワクしてたが、榊はちっとも来ない。

俺は、体制立て直して、起き上がろうとしたら、見えない何かにぶつかった。

「えっ何?」

何か、ベットを囲うようにして、壁がある。

「術かけたの、トイレの時には、術とくから、携帯で呼んでね。これも、お化けから身を守るためのものよ。お休みなさい」

榊は電気を消して、部屋を出て行った。そりゃないぜ、俺の気持ちは・・・どうなるんだよー。

朝から俺は携帯をガンガン鳴らした。何してるんだ榊、小便漏れそうだぞ!

「ごめん、ごめん」

榊がドアを開けて、指をパチンと鳴らした。

「起きられなくて」

言い訳なんぞいらん。俺は急いでトイレのドアを開けた。その時!誰かが、後ろで寝巻きのズボンを引っ張った。お腹が・・・膀胱が押されるー!振り向くと、榊がそこにいた。

「アホかー!漏れるだろ!」

やばいやばい!ズボンがずり落ちる。ええいままよ。俺は、そのままズボンを脱いで、急いでトイレのドアを閉めた。尻を見られるのは2回目か・・・もうどうとでもなれ!

「間に合ったー」

ホッとした瞬間、恥ずかしさがこみ上げ、その後、恥が怒りに変わってきた。なんで、俺だけ、こんな恥ずかしい思いをしなければいけないのだー。トイレの外では、ドタバタと音がする。何をやっている?とにかく、パンツだけでも返してもらわなければ。

俺は、ほんの少し、ドアを開けた。

「榊―、俺の下着とズボン・・・」

言い終わらないうちに、トイレのドアが内側にバンと開いた。俺は、鼻先を勢いよくぶつけた。

「何するーぅぅぅ」

怒りたいのに、あまりのショックで声が弱弱しくなってしまう。

「追い詰めたわよー」

榊が仁王立ちで現れた。頭がカッと熱くなった。

「お前、何すんだよ!」

大人気なく、榊をトイレの外に押す。

「イタッ。あなた、どきなさいよ」

榊がつっかかってくる。

「ああ?俺が、初めからトイレにいたんだろうが」

顔を近づけてすごむと、何者かが、俺の背中をドンと押た。俺の顔は・・・やば、キスは避けねば、と思ったら、榊の胸に。

「いやぁ!」

榊が叫んだ。親父とお袋がやってくる。なんだこの状況。下半身脱げているし、圧倒的に俺、悪者だろ。

最悪だ、最悪だろ、これ。親父もお袋も榊まで気まずいこの朝食。あれ?だって俺悪くないよなあ。結構紳士的だったよなあ。まあ、紳士的は「?」付くかな。

「勉強してくるから」

朝食もそこそこに、俺は自室に行った。最悪だ。最悪。やっぱ変な女だった。かわいいとか思わない方がいい。親父が会社に言ったあと、ノックが聴こえて、榊が入ってきた。

「あの、さっきはごめん」

榊の謝罪に、俺は振り向きもせず無言で怒りを表してみた。でも、なんで俺の顔ゆるむー!来てくれてうれしいとか思うなよ俺。

「実はね、私が捕まえようとしている妖怪って透明人間なの」

「ふーん」

まあ、なんとなくそんな気はしたよ。榊も悪くはないんだろうな。しっかし、この数学の問題分からないなぁ。俺は鉛筆とトントンと叩きながら透明人間のことを聞いた。

「で、いつ捕まえてくれるんだ?」

机に向かいながら、つっけんどんに聞く俺。ああ、我ながら性格悪い。生理前の女みたいだ。

「実は、何回か、捕まえてるんだけど、敵の力が強くて、振りほどかれちやって・・・」

ここで、初めて俺は榊の方を向いた。

「勝算はあるんだろ」

「うん。こうなったら、術でトラップを仕掛けて捕まえようと思うんだけど、そこに誘い込まないといけないの」

「ああ、あのベットから出られなくした危険な術か」

「ごめん」

俺のいやみに榊が肩をすくめた。

「でも、なんで俺が狙われるんだ?何か悪いことしたのか俺」

「あなた、その子に好かれちゃったみたい。私、ある程度、気配で分かるのだけど、あの子からの恋のオーラ、すごいよ」

「恋?」

ああ、俺にね。っていうと女の子か。透明だけど、触れるってある意味おいしくない?ヘラヘラしてると、榊が寄ってきた。

「今、あの子いないから、ちょっと計画立てようかと思って。あの子、朝の事件で逃げちゃったみたい。でも、また戻ってくると思うな。本当に好きみたいだったから」

へえ、そうなんだ。もっと早く気づいてれれば、おいしい事もできただろうにな。そんなことを想像して、にやけてると、榊が後ろから、俺の解けなかった問題を見た。

「これ、この計算間違っているよ。その前にここ。そこから攻めるんじゃなくて、この考え方が楽だよ」

榊が鉛筆を取って、さっさと解き始める。なるほど、気が付かなかったな。ってもしかして、お前も実は俺に惚れてないか?にやつき顔で榊を見ると、俺の考えに気付いたのか、榊は軽くため息をついてから、ニッコリしてこういった。

「言っておくけど、憑いている透明人間は男よ。いや、オカマさんかな。そいつ捕まえたら、私も出て行くからね。」

えぇぇぇぇ!マジで?捕まえてほしいような、ほしくないような。


「オカマさんは、どんな格好が好きなのかしら?」

俺をマジマシと見ながら、榊が聞いた。

「マッチョが好きって聞いたことあるけど」

俺は少し無愛想に答えた。男と分かったからには、どうでもいいよ。ってよくないか・・・

「元輝君はマッチョなの?」

「俺、こう見えても、着やせするタイプでさ。7月まで水泳部だったんだぜ。見ろよ、この筋肉」

俺はここぞとばかり、腕をまくって見せびらかした。

「もしかしたら、泳いでるときに惚れられたのかしら」

「ええっ迷惑だな」

「でも、これはいい情報よ。水着に着替えてくれない?」

「ええっ、ここで?」

「だめ?」

えっいや、だめというか・・あーそんな可愛い顔で見つめないでくれよー

 「でっでも、親もいるし、見られた変に思われるんじゃないかな」

焦りながら言うと、階下から、お袋の声が聞こえてきた。

「元輝―、お母さん買い物行ってくるから」

うおーお袋いろんな意味でナイスタイミング!榊を見ると軽くほくそ笑んでるように見える。

「・・・わかった」

観念した俺は、タンスから水泳パンツを取り出し、上着を脱いだ。そして、ズボンに手をかけると、榊をチラと見た。そのとたん、俺はマクラを顔に投げつけられた。

「なんで、私の目の前で着替えるのよ!」

赤い顔して、榊がどなる。

「はあ!?お前がここで脱げと言ったんだろうが!」

「水着に着替えてとは、言ったけど、目の前でとは言ってないわよ」

「ああ、そうかよ!俺だって恥ずかしかったさ。ああ恥ずかしかった。じゃあ、さっさと出てけー!」

怒鳴ったあと、ハッとして榊をみると、榊は怯えた顔をして、小さい声で謝って扉の向こうへ行った。ああ、なぜか自己嫌悪。

「もういいぞ」

着替え終わったあと、俺は榊をよんだ。なぜか恥ずかしくて、前屈みで水着の上から、手で下半身を隠してみる。

「普通に立てないの?」

えっ・・・そうですね、はい。

「ちょっと、ベットに座って。そう。あなたの前に罠を仕掛けるわ。誰かが触ったと思ったら、声を出して、前にいるものを閉じこめるから」

「俺が、捕まえる方が早いんじゃないか?」

「・・・そうか、それを恐れて、前から来ないかもしれないわね。うーん」

榊は少し考えると、何か閃いたように、手を打った。

「ねえ、もっとベットの上の壁側に行って、そう、これで、後ろからは、来ないわ。そして・・・」

榊は俺の手を持ち上げると、(どこに持っていたのか)ロープを出して、俺の両手の手首を重ねて縛り、上につるした。なんだこりゃー!しかし、俺は、もう怒鳴る元気もなく、ため息をついた。

「あの・・・榊さん?これって、虐待なんじゃないでしょうかね?」

けれど、榊は満足したように微笑んだ。

「うん、大丈夫!なんだかそそるわ」

そりゃお前だけだー!意外とサドだったんですね榊さん。

「しっ、誰か玄関の扉をあけたわ。お母さんじゃないみたいよ、奴ね。私は隠れてるから、誰かに触られたら、声をだすのよ」

榊はそそくさとベットの下に潜んだ。まるで、狼の罠のウサギの心境だぜ。こんなベタな罠に誰もかからねえよ。

 扉が、開いた。誰も見えないのに、ベットがへこみ、見えない足が目の前にきた。声を出そうか、迷ったその瞬間、誰かが、口を塞いだ。そして、クククと静かに吹き出す笑いが聞こえてきた。ああ、この人も隠れサドさんですか!俺は、何とか手をどけようと、必死に体を動かした。けれど、強靱なその手は、びくともしない。それどころか、見えないもう一つの手が、胸のあたりを探った。ひえー。

「あら、まるで、釣り針にかかった毛虫のようね。」

不意に榊の声がした。カチンとくる台詞だ。お前のせいだろー!いつの間にか、榊がベットから出ている。

「もう少し、見ててもいいんだけど・・・縛」

榊が術をかけると、透明な奴が動けなくなるのが分かった。俺はホッとため息をついた。手の紐を解いてもらい、俺は、やっとその場から、逃れられた。

「仲間に連絡したわ。もうすぐ、ここにきて、彼連れ出し・・きゃ」

見えない何かが、榊の服を捲った。もう一人いるんだ。っていうか、もう一人を連れてきていたのか!

ブー!

俺の鼻血が飛び散った。ああ悲しきかな男の性、目の前に迫った榊の下着姿に、俺は不覚にも鼻血を出してしまった。

「いいわ、やったわ」

榊がノリノリの声を上げた。見ると、俺の鼻血を浴びて、うっすら、透明人間の姿が見える。俺は、榊の服を持ってる敵の手をとり、押さえ込もうとした。ビリィ、榊の服が破けた。それどころじゃない。もうこんな騒ぎは沢山だ。逃がしはしない。俺は、そのまま奴をふんじばった。


「もう、家にいないかな?透明人間」

俺は玄関で榊に聞いた。榊の仲間が見えない誰かを車に乗せている。榊も荷物をもって新しい服で立っている。

「もういないと思うわ。」

「・・・行くのか?」

「うん、ご両親に挨拶できなくてごめんなさい。仕事が終わったら、すぐ去るのは規則なの」

「もう、会えないのかな」

いろいろ、迷惑だったけど、いなくなるのは寂しい。

「榊、行くぞ」

榊の仲間が車からよんだ。榊は急に顔を近づけてきて、耳打ちした。

「予備校で上のクラスまでいったら、会えるかもしれないわよ」

そして、ニコッと笑い、お礼を言って去っていった。

榊がそんなこと言ったのは、もしかすると、榊もまた会いたいと思ってくれていたということで、とにかく、追いつけば、また会える可能性がある・・・俺は去っていく車を見ながら思った。絶対追いつくからな。


冬だった。追い込みが一段と激しくなる受験の冬。少しずつ、試験も始まり、皆がそわそわとしてくる冬。あいつ、榊愛美に会うために、俺は得意科目一つに絞り、夏休み勉強に明け暮れた。おかげで、本当に一つだけ、一番上のクラスにいけた。それは、数学。しかし、よく考えたら、榊が文系だったら、この授業とってないんじゃないか・・・などという心配は杞憂におわり、おそるおそる教室に入っていた俺をみると、すでに席についていた榊は目を合わせてにっこりした。それだけで、俺は天にも昇る心地だった。さあ、一言、声をかけるんだ俺・・・できん。何故だ。そのためにここまで来たのだろう。俺のヘタレ。いやまて、授業が終わった後、声をかければいいんだ。ブツブツ考えながら、俺は、新しい教科書を見ていた。新入りで友達のいない俺は、さぞかし孤独に見えただろう。授業が終わったあと、さっさと教室を出て行った榊を目で追い、自己嫌悪と後悔に打ちひしがれた。よしっ来週こそは・・・。教室を出たところで、声をかけられた。

「元・輝・君」

心臓が、飛び出すほど驚いて振り向くと、榊が笑っていた。

「おめでとう。がんばったんだね」

「いや、それ程でも・・・」

なにモゴモゴ言ってるんだ俺―!榊はニッとして他の教科も聞いてきた。聞かないでくれればよかったのに・・・。そして数学だけだと分かるとフッと笑った。

「他のもがんばんないとねえ」

嫌みな奴―。

「他の教科、教えてあげよっか」

えっ、まじ?でもなんか悔しいなー。でも、まあ一緒にいられるんだし。モジモジしてると、榊がイライラしながら聞いてきた。

「どうするの?」

「おっお願いします」

ああ、どこまでも情けない俺。なにはともあれ、事実上つながりをつかめた!予備校からの帰り道、いつも帰っている友達に冷やかされながら、俺は、榊と歩いていた。これって、彼氏彼女みたいじゃない?

「最近、変わったことない?」

堅くなっている俺に榊が話しかけてきた。げっ、またこの間みたいなことがあるわけ!?「無い・・・と思うけど」

無いよな、無い。榊はくるっと、こちらを向いて、俺の手を取った。

「最近、寒いけど、一人で火の側には近づかないでね」

はぁ?この寒さで火の側に近づかないではつらいんじゃない?・・・あっそうか、やっぱ、俺の身近で、また何かあるわけだ。俺は、フッとため息をついた。

「で?次はどんな奴が俺に惚れている訳?」

「あっ分かった?」

榊が悪戯っぽく笑った。そりゃ分かるよ。

「なんかさあ、あなた、妖怪が近づく臭い?みたいの出してるんだよね」

えっ臭い?俺そんなに臭いわけ?っていうか、やっぱり、また仕事がらみかよ。ガックリ。

「あのなあ、俺、今何も異変は起きてない訳、何で、火に近づくなとか言うわけ?」

「あなたに近づいてるのが、火の精だからよ」

キビキビと言う榊に俺はガックリした。はぁーなんの為の再会だったんだよ?俺、クラス上げるために頑張ったんだよ。

「で?なんで、火の精が近づいてるってわかるんだよ」

「・・・教えない」

ほー教えないわけですか?俺にあんなに迷惑かけといて。・・・なんて言えないなあ、惚れた弱みだな。

「また、俺の家に泊まるの?」

ちょっとドキドキしながら調子に乗って聞いてみた。

「ううん。今受験で大事な時期だしね。だから、火に気をつけてって言ってるのよ」

ああそう。俺は泊まってくれてもよかったのになあ

「でも、勉強教えてくれるんだろ?」

しつこく聞いてみました。つながりだけは持ちたいしね。

「うん、事情聴取を兼ねてね」

「ああ、そうですか、あくまで、仕事ですか」

不服そうに言って俺はハッとした。やばっ、声でちゃったよ。

「なるたけ早く捕まえるね」

榊は申し訳なさそうに言った。違うんだよ。俺は、そこが嫌だったわけじゃないんだよー。

自己嫌悪に悩まされながら、家に帰った俺は、夕食を食べ、自室に言った。榊の話を忘れた訳じゃない。だけど、夕食の時、ストーブをつけていたけど、何も起こらなかったし、いつもの癖で、つい、自室のストーブに火をつけたんだ。それも、一人でいるときに。

勉強中、少し暑くなりすぎて、ストーブを消そうと振り向いたその時、女がベットに座っていた。榊をフランス人形みたいにした女だ。ドキッとした。が、すぐに分かった。この女が火の精か。

「あー、わざと似せてるんだろ、榊に」

ピーンときて、そう聞いた。女はコクンと頷いた。大人しそうな、可愛い女だ。

「お前、どっか行った方がいいぞ。俺に近寄ると、榊っていう、怖い女がお前を捕まえにくるぞ」

女はクスと笑った。けど、目が笑ってない。どこか不気味さを感じた。

「好きなの」

女は言った。榊に言われたみたいで照れる。だけど、そいつが化け物だと分かっていた。というか、本能が近づくなと危険信号を発していた。女は立ち上がり、近寄ってきた。女に迫られたことのない俺は、こういうとき、どうしていいか分からない。

「あなたを・・・食べた・・い」

甘ったるい声で女が俺の左手を取った。

「あちーっっっ」

俺は、その手をふりほどき、大声を上げた。お袋が飛んでくる。女が消えた。

「元輝、あんた何してるの?この部屋暑すぎじゃない」

お袋がストーブを消した。耳元で誰かの舌打ちが聞こえた気がした。

「やっ、やけどしたの?真っ赤よ。早く来なさい、水で冷やすわ」

お袋が急いで俺を水場に連れて行った。気がつくと、汗びっしょりだった。

「こいつは、あのときより、ずっとひどい相手だ。」

俺は、所々水ぶくれになった手を見ながら呟いた。


「聞かなかったわね、忠告」

包帯の巻かれた手を見ながら榊がため息まじりに言った。日曜日、図書館の自習室で並んで勉強している最中だ。

「早く捕まえてくれよ榊、俺、このままいつまで火の側に近寄れないんだ?」

ほとほと、参っている俺は榊に泣きついた。何せ、この三日間、あのことがトラウマになって、ストーブはおろか、カイロにまでびびってしまう。

「早めに捕まえたいわよ。でも、今回は私も苦手な相手で、攻略方を考えてるんだけど、勇気がでなくて」

「えっ、勇気?」

「う・・・ん、まあいいわ。なんとかやってみましょう、このままにしておけないとは思っているのよ」

榊はノートを閉じて、立ち上がった。

「今日、私の家に来てほしいんだけど」

えっ、俺たちの仲も進展するわけ?

「いいよ」

照れてぶっきらぼうに答えると、榊は、前に立って歩き出した。おーい待ってよお。

 榊は隣の駅の高級住宅地にいくと、一件の家の前で手招きした。でかい、家でかいなあ。そして古風だ。もしかして家柄の言いお嬢様?

門に入ると、大きなドーベルマンが二頭庭からやってきた。俺がビビッてると、榊が、犬をその場に座らせた。

「犬ぎらい?」

「そんなことないけど」

犬好きでも、あれはビビルよ。榊は鍵をだし、戸を開けた。

「入って。誰もいないから、気を遣わなくていいわ」

まじで?ドキドキするー!これってやっぱ期待大!?

「人に聞かれたくない話なのよ」

榊は一室に入り、座布団を渡しながらそういった。

「そっそうなんだ」

落ち着け俺、どもってるぞ。俺は軽く深呼吸したて、出された茶に口を付けた。

「今回は、あなたも命がけになるわ。会っておきたい人いる?」

俺は、榊の爆弾発言に思わすお茶を吹き出した。

「いやいやいや、なんの話?そんなに命がけなの?会っておきたいとか言う前に、計画に問題ない?」

「今回は相手が悪かったわね。まさか私も火の精が出るとは思ってなかったから。でも、あなたは、これから先もこういう目に会うんだから」

何決めつけてるの?狙われたのは偶然なんだろ?俺は、目をパチクリして榊を見た。

「こうなったら、全て話したほうがいいわね。受験が終わるまで、黙っていようかと思っていたんだけど」

「何の話だよ」

「あなたの話よ」

榊はこちらに向き直って、ジッと目を見た。俺は何故か照れて、横を向いた。

「きちんと、聞いて」

榊は、俺の頬を押さて顔を戻した。ううっ、顔が近いぞ。

「あなたの血はね、妖怪に力を与えるのよ。だから狙われるの。この間の透明人間もそうよ。あなたを食べに来たの」

「えっだって惚れられてるって言っていたじゃないか」

「あれは方言よ。本当のこといったら、怖がるでしょ」

いや、充分怖かったよ。

「で、今度は、火の精ですか?レベルアップ過ぎない?」

「しかたないでしょ。逃げちゃったんだもの」

榊はぷうと膨れた。

「えっ、逃げた?」

「あわわわ、何でもないのよ」

「なんだよ、言えよ」

俺の迫力にまけ、榊はため息をついた。俺も、意外と貫禄あるんだな。

「ごめんなさい」

まず、あやまった。なんか、榊に頭を下げられると気分がいい・・・じゃなくて

「怒らないから、言え」

調子に乗ってみた。普段きつい女に上から物言えるってきもちいな。俺隠れサド?

「実は、私の一族が入っている組織があるんだけど、その組織が管理してる妖怪の国から、逃げ出した妖怪を追っていたの。最近、火の精が逃げ出しちゃったのよ。これが、レベルs級の危険妖怪で、何でも燃やしちゃうし、捕まえることもできないし、消すこともできない。どうしようかと思ってるんだけど・・・」

「妖怪の国っていうのが、あるんだー」

「うん、極秘でね。正確には、未確認生物をそこに集めているの。」

「知らなかったなあ、で、そこのs級妖怪に俺、狙われてるんだよね。超怖いんだけど」

「だから、あやまってるじゃない」

いや、逆ギレされても・・・

「でも、元輝君が火に近づかなければいいわけなのよ」

「いや、今冬だし、少なくとも、試験会場には、ストーブあると思うよ」

「やっぱり覚悟を決めるしかないみたいね」

榊はグッタリとうなだれた。そして俺も同時にうなだれた。榊は急に顔を持ち上げると、覚悟を決めた様に言った。

「分かったわ。次の日曜日までにいい計画をたてるから、それまで火に近づかないで。その日が、勝負の日よ」

もしかすると、次の日曜が俺の命日か・・・。頼むぜ榊。



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