しゃぼん玉
地の文無し。しゃぼん玉で遊んだ時に思いついたので。
「なぁ、ちょっと俺の話聞いてくんねえか」
「俺はよぉ、これでも昔は結構やり手の傭兵だったんだ」
「実力もあった、気力もあった、気概もあった、努力もした、何より才能があったんだろうな」
「とにかくよぉ、当時の俺は、恥ずかしい話、鼻高々に生きててな」
「何でもかんでも、突っぱねて生きていた、そして、」
「どこかで不安だった」
「他人と比べて劣る自分がいやだったし、他人が自分を見下すのもいやだった」
「だから、常に他人を見下して、いつ追い越されないか怯えて生きていた」
「当時は何に不安がってたのか解らなかったけどな、はは」
「その怯えを、守るはずの民に、いつも内心でぶつけていた」
「何故のうのうと生きていられるんだ、と」
「何故そんなに笑顔で生きられるんだ、と」
「何故自分お前たちは何もしていないんだ、と」
「無邪気にしゃぼん玉で遊ぶ子供を横目に、そんな事を考えていたから」
「俺はしゃぼん玉が嫌いになった」
「そんな奴にも転機ってのは必ず来るもんで」
「とある時に、一人の女性と出会った」
「まあ、いっちまうと俺のワイフになる女なんだが」
「とある村で出会った傭兵の女でよ」
「不安を押し殺すために、受けた上級の依頼で、」
「そんな精神状態で受けたもんだから、まあお察しの如くヘマをした」
「そんなピンチに、圧倒的な力で全てを飲み込んで、俺を助けた英雄」
「それが俺とそいつとの出会いでよ」
「まあ、鼻高々でプライドの塊だった俺は、当然の如く反発し、決闘をその場で申し込んだ」
「命助けられてるのに、よくもまあと思うが、そんな俺にも真摯に対応して、」
「圧倒的力でねじ伏せられた」
「それでも諦めず何度も何度も挑戦し続けて」
「気付けば結婚していた」
「お互い、金だけは持っていたから」
「すぐに田舎に家を買って、それからすぐ子供が生まれた」
「畑作業はきつくなかった、どちらかって言うとワイフが怖かった」
「何せ傭兵界最強のワイフだぜ」
「でも、まあ幸せだった。とにかく幸せだった、」
「我が子と庭でしゃぼん玉で遊ぶ日々が」
「好きになった」
「まあ」
「その三年後、全部潰されたんだがな。」
「俺は復讐者となった。全てを奪っていった存在に」
「んでま、それから十年」
「沢山の出会いも別れも、努力も何もかも全て復讐の為だけに使ってきた」
「」
「ああ、悪い悪い、んでなんだっけか」
「そうだそうだ、んで」
「俺は今その復讐を終えた訳だ」
「へへ、人間その気になればよ」
「世界だって、引っ繰り返せるんだぜ」
「」
「」
「あー、そろそろきっついかもな」
「そうだ、これ」
「しゃぼん玉の割っか。もう十三年もたっちまって、ボロボロなんだけどな」
「息子とワイフの型見、てかこれしか残って無かっただけなんだけど」
「しゃぼん玉ってよ」
「綺麗で」
「見る角度で色が違って」
「息を吹いただけで、どっかいっちまって」
「まるで、夢みたいで」
「まるで、幸せの様で」
「でも」
「結局割れちまう」
「俺は」
「そんなしゃぼん玉が」
大嫌い、だったよ。