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プロログさん

 何となく書きました。取り敢えずむしゃくしゃしたのでムッチャクチャ主人公が暴れる話が書きたくなって。


……はい。すみません

――――――追いかけなくては死んでしまう。

――――――逃げ切れなくても殺される。


 二つの思いが少年の足を突き動かしていた。

 うっそうと茂る森の中、道なき道をひた走り、奥へ奥へと進んでいく。

 まだ年端もいかない少年の柔肌は先ほどからの全力疾走でぶつかった鋭利な草の刃に刻まれ、そこらかしこにグロテスクな虫が張り付いては、流れ出した栄養満点の血を吸い上げていく。

 パンパンに膨れ上がったヒルに似た生き物が少年の足の動きを阻害して、疲労で動きの鈍くなってきた体を更に縛るように動けなくしていく。


 流れていく血液。吸われていく血液。酸素の足らない肺。乳酸が溜まりまともに動かない筋肉。そして何よりも精神を擦り切っていく恐怖が、少年をこの世から一歩一歩確実に遠ざけていく。


 ズルリ、と音を立てて足を掛けた樹の根っこから滑り落ちる。顔面から地面に突っ込んだ少年は、その衝撃をもろに喰らい、とうとう立ち上がる気力さえ持たなくなる。

 ぶちゃり、と倒れるときに潰した体に引っ付いていた虫達の生ぬるい体液を体の下に感じて、いくばくかの嫌悪感を感じたが、もう少年には指一本動かす気力が無い。


 否、体を動かそうとはしているのだ。満足に動かない体でも、指が時折痙攣し、体も偶にひくつかせて、それでも顔を何とか上げて、前に進もうとしている。顔面には地面にぶつけてた時の鼻血が流れ始め、口の中も多少切って鉄の味が口に広がっていたが、少年はそんなことに嫌悪感を感じられるほどの精神の余裕がない。


――――――逃げなくては死ぬ。

――――――殺さなくては殺される。


 それが少年があの瞬間、眼の前を歩いて自分を奴隷として扱っていた傭兵を喰らった”何か”を見た時に一番最初に思ったことだ。

 突然前方を歩く傭兵の側方から出てきて、彼の体に突進したように見えるや否や、それはあっという間に傭兵の体内に侵入し、生きたまま体の内部を貪っていった。


 今のように、周囲に音がしない状況では、先ほどの妙な何かが捕食するような音が耳に幻聴としてよみがえってくるような気がする。


 ガタガタと意識しないうちに体が震える。気を抜けば、あの時に聞いた体を生きたまま食われ続ける傭兵の叫び声も耳に浮かんでくるようだ。こっちに来い、俺だけが食われるのなんて理不尽だ許せない、と


 ふざけるんじゃないと少年は叫びたかった。自分が三歳の時に村の中からさらわれて四年。まともな食事も与えられず、こき使われ、命の危険のある戦いを強制され、あまつさえ加虐趣味の変態に言いように拷問されてきた彼の四年間は、まともな思考と本性を彼に残していない。


 今まで散々自分勝手に生きてきたのだ。理不尽に奪われるのもまた節理。貴様なんざそこで死んでおけとあの傭兵の目を見たままにはっきりと言い切れる自信がある。


 だからこそ少年は逃げた。自分とあの傭兵が同じ死に方をするということには耐えられない。たとえそれがどんなにみじめな死にざまでも、あんな傭兵と同じ死に方をするなんて反吐が出る。


 今までは生き方を選んでこれるような人生では無かったし、そのほとんどの記憶は何もかもを奪われてきた人生である。彼がまともに持っていると断言できるものは、思考するのに必要な他の奴隷たちから教えてもらった知識と文字、そして彼が戦いの中で必死に身に着けた戦闘技術だけである。


 傭兵が死んだ後、一目散にこの魔の森から逃げていった他の少年たちの後について森を抜けようと思っていたが、それも成功しなかった。恐らく自分は、今夜一晩を生きたまま超すことすらできずに死んでしまうだろう。


 まともな人生ではなく、ロクに上等なものを持ってもいないただの奴隷だった子供。だがそれでも最後まで足掻いて足掻いて足掻きぬいた後の死亡だったらまだ受け入れられる。そう思って走り続けて走りぬいたが、どうやらとうとう限界が来たらしい。


 だんだんと意識に靄がかかるように黒い幕が視界の上から降りてくるのを感じる。


(……ああ、懐かしいなあ。とうとう黒い幕につかまる時が来たのか)


 今まで何度となく自分の命の危機合わせて降りてきたこの死の幻覚も、もうこれで見るのが最後だろう。今の今まで何度も見てきた死神の鎌は、とうとう自分を捕えたらしい。何処かへ眠るように意識が落ちていこうとしている中で、次の瞬間、ドンッ、という音が鼓膜を揺らす。


「カハッ」


 最早まともに呼吸も行えていなかった少年の口から、最後に残った空気が漏れだした。

 沈み切った思考の最中、どうやら今の音は自分に何かが思いっ切りぶつかった音だったのだと認識した次の瞬間、


「ひぎゃぎぎがああぎゃがああああああああああああああああああああああああああああ」


 少年は生きたまま体を貪られるような激痛に、強制的に意識をこの世に閉じ込められた。



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