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第8話 進入禁止区域1

 それから二日間、私たちは旅の支度をした。学会と発掘現場には二カ月ほど、休暇を取ることを申請し、荷物は食料、衣料、水、といった旅には必要なもろもろだった。

 出かける日の朝、その荷物を見てマロンは「『水晶核』を使えば、必要なものなんて手に入りますよ」と言っていたが、黒い黄昏がその記憶領域に故障を抱えていることを説明すると、「それはしかたがないですね」と言っていた。

 出かけるにあたり、マロンの車両を使うことになった。彼女の車両は先日見たものとは異なり、六人ぐらい乗れるものになっていた。

「前に使っていたのは私が一人で行動するための小型のものです。今回のは避難用に同盟から支給されている車両です」

 と言っていた。

そして、荷物の積み込みが終わり、シシガミ、マロン、黒い黄昏、私という、三人と一人で車両に乗り込んだ。

 運転手はマロンだ。

 

旧文明の街道を走ることになった。旧文明期は車両が行き交う活発な道路だったらしいが今では東へ向かう車両は殆んどない。ある程度、走らせると私たちの乗っている車両以外走る車はなかった。古い街道とは言え、瓦礫などは取り除かれていたが凸凹になっている場所がたまにあり、そのたびに車内は揺れた。


「しかし、ここらへんに来ると誰もいないな」

 私は車内から外を観ている。周りにあるのは、基礎だけの残った建築物や穴ぼこだらけの土地だ。たまに街道の端に大きな穴が開いていることがあったが、マロンは軽快に避けて走らせた。

「そうだな。ここらへんは禁止区域に近いこともあって近づくものも疎らだ」

 シシガミは私と同じように車内から、外を見ながらそう言った。心なしか楽しそうだ。

「楽しそうだな」

「……まあ、出かけるのは案外好きだったりする」

シシガミはそう呟いた。 

マロンが運転席から、

「あのー、楽しそうで悪いんですが。あと三十分程度で着くと思います」

 と言った。

「もうそんなにも来たのか。出発してから――四時間か。 結構、経ったな」

「……先生。そろそろ着きそうですか」

そう黒い黄昏は寝ていたのだ。彼女は一時間経過してから、あまり代わり映えのしない風景とシシガミと私の難しい話のせいかどうかわからないが、いつのまにか寝ていた。「ああ、あと三十分ぐらいだ」

「そうですか、ふあああ」

 欠伸をしているところを見ると、彼女が『水晶核』であることをしばしば私に忘れさせる。

「もうしばらく寝いていても問題ない。着いたら起こす。それからは私を手伝ってくれ」

 私がそう言うと、嬉しかったのか黒い黄昏は笑いながら、

「わかりました……」

 そう言って再び眠りに落ちた。


 それから、十分程度が経過した。街道沿いには、「この先、進入禁止。引き返せ!」といった政府による看板を見付けた。

 ここら一帯が死の荒野と言われるのは土に微量な毒が含まれているとされているからだ。見たところ動植物もなにもいない。

 私は心配になって

「本当に大丈夫なのか?」

 と、運転席のマロンに尋ねた。

「大丈夫です。政府による看板として立てられていますが、同盟が申請して政府に立てさせたものですし、政府の許可ももちろん取っています」と言って、マロンは車両を止め、車両に備え付けられていた荷物入れから許可証を出しひらひらと振ってみせた。

 そういうことを聞いたわけではないんだが。と思った瞬間、そんな私の表情を読み取ったのか、

「微量の毒といっても、長期間いるわけではありませんしそれに車内は締め切ってます。今から向かう場所はけっこう安全ですよ」

「まあな」

「気になることはそれだけですか、では再発進させます」

 車両は再び走り始めた。看板からある程度進んだところから、少しずつ景色が変わっていった。例えば十層以上の建物だったのだと思われるものが見えてきた。

 つまり都市の瓦礫の大きさが、かなり大きいものになってきたのだ。

「ここらへんはかつての主要都市なのか」

「おそらくな。こんな建物、何のために使っていたかはわからんが、人がたくさんいたことが窺える」

 私はシシガミとそんな話をしていた。

「たしかにここはかつてこの島の、経済を支えていた場所です。もちろん、他にも支柱と言える都市はありましたがここが大黒柱だったことは確かです」

 マロンは彼女が知っている史実の範囲でそう答えていたようだ。

「そうか。なぜ同盟はここを立ち入り禁止にしているんだ」

 私がそう尋ねると

「それは……、今から向かう場所に向かえばわかります」


◆◆◆


 イシガミとシシガミを乗せ、アタシはこの棄てられた都を走らせていた。

 現在、向かっているのはかつての避難所、シェルターと言われた場所だ。

 かつての終末戦争により多少の不備があるようだが、同盟により整備が続けられている。

 おそらく、もう一度ぐらいは耐えられるというのが同盟の見解だ。

「そろそろ着きますよ」

 アタシはイシガミ達にそう伝えた。

「そうか、もう着くのか……」

 なにかを考えるような、神妙な表情を浮かべていた。

「どうしたんですか」

 アタシは尋ねる。

「ただ、ここにあった都市が戦争で消失したことが私には想像しがたいのだ」

 無理もないだろう。今までの通説では旧文明は隕石によって滅んだとされていたからだ。本当の歴史が戦争の歴史だと知らされてから数日しか経っていない。

「まあ、それが真の史実ですから……」

「そうか……」

 隣に座っているシシガミも

「俺もそう主張していたが、こんな都市群が戦争で滅ぶということがどれだけ恐ろしいことか想像がつかない……」

 そう言って、体を震わせた。

 アタシはそんな彼らの反応を見つつ寝ている『水晶核』、(端末固有名はおそらく)黒い黄昏は呑気に寝息を立てていた。

人間ではないはずなのに、どこまでも人間らしい。それが『水晶核』なんだろうか。正直、あれが旧文明を滅ぼす要因だとはアタシにも想像がつかない。同盟が伝える史実はそういう記録だったし、前後の出来事も伝えられているが、それでも実感は湧かない。


 それから、目的地まではアタシたちは一言も話さなかった。相変わらずシシガミは興味深そうに周囲の廃墟を見ていた。イシガミはというと、なにかを思案しているようだった。黒い黄昏はと言うと、ときどき揺れる車両に体をふらつかせながら寝ていた。

 アタシはそんな彼らを見つつ、車両を走らせていた。

 走らせるうちに、周囲は廃墟の山の中のある大きな建物にたどり着いた。ここが目的地でアタシが案内する先だ。目の前の建物の上部は崩れている。

「ここが、目的地か……。崩れているが本当にそうなのか」

 イシガミからすると、何も無いように見えるみたいで、訝しんでいる。

「マロンさん。ここが目的地なんですか?」

 シシガミも私にそう尋ねる。彼もアタシを怪しむような目をしている。

「ふふっ。まさか私が彼らの一員とでも思っているんですか、疑う前に目の前を見てください」

 アタシはこの廃墟の入り口に施された施錠を解くために、壁際に設置されている制御卓(コンソール)を操作した。

 廃墟の建物の床が、音をたてて動き始めた。


「ここが、シェルター01と呼ばれるかつての避難場所です。ここなら盗賊の襲来にも耐えられるとは思いませんか」

 



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