第5話 マロンの任務
アタシはすでに『水晶核』がここで掘り起こされたと確信している。イシガミの反応のなかに何かを話そうとしない意思を感じたのだ。私は『水晶核』に関するデータを、同盟から支給されている折り畳み式の携帯端末で確認することにした。この端末で情報を確認するには、同盟員としての自身の識別番号と暗証キーが必要だ。
「めんどうくせぇな」
素の言葉遣いが出てしまったことに気づき、慌てて周囲を見渡す。周囲には誰もいないことを思い出した。当たり前だ。イシガミ達のいる発掘現場から徒歩で一時間程度は歩かなければ来れない場所に私は野宿する場所を取ったのだから。
このあたりは、長々と荒野が続くおかげで虫の被害も獣の被害も気にしなくていいのは助かった。
同盟から支給されている空気中の水蒸気を集めて飲料水にする道具を使って、アタシは水筒に水を詰め、残りの水は今日の汗を流すことにした。そう思い始めてあることに気づいた。
このあたりの気候は昼間が暑く、夜は寒いという砂漠などにみられる特徴をしている。そのため、冷水で汗を流そうとするのは極めて体に悪い。アタシはそのことに気づき、水をある程度温めることでお湯を作ることにした。
水を温めるには電気による方法と火による方法がある。アタシは火による方法を選択した。
そこら辺に転がっていた乾いた枯れ木にアタシが載ってきた車両の燃料を少量かける。もし、大量に使ってしまったら一気に枯れ木が燃えてしまい。お湯を沸かすことが出来ない。
ある程度燃え始めたところで枯れ木をさらに火にくべる。
「そろそろだな」
アタシが一抱えできる大きな鍋に水を注ぎ、ようやくお湯を沸かし始めた。
しばらくすると、水はぬるま湯に変わり、すこしずつちょうどいい温度になってきた。
「いいかんじね」
つい、外面をしてしまったが、アタシは特に気にしなかった。そんなことよりも、早く汗を流したかった。もう一度、周囲に人の目が無いことを携帯端末で探知した。周囲に生命反応は一つも無かった。
「よし、誰もいないな」
アタシは一応、周囲から見えにくいように組み立て式の天幕を組み替えて、四角い筒状にし、横からはアタシのそれなりに整っている(つもりの)身体が見えないようにした。(周囲からは見えないはずなので)車両の扉を開いてにアタシは着ていた服を脱いで投げ込み、大鍋の中のお湯を使って汗を流し始めた。
「やっぱり、この気温だと水は無理」
しみじみとそう思う。
ある程度、汗を流し終えるとアタシは車両に置いている替えの下着を手に取った。
「遠出するときは、汚れるのも覚悟しないといけないな」
替えの服があるうちは大丈夫だが、そうじゃなければ我慢するしかないことは分かっている。そんなことを考えながら先ほど端末にダウンロードしていた情報をに目を通す。
そこには『水晶核』に関する機密事項と一般的な事項について載っていた。
「まったく、報告書ってクソ長いんだよな」
――『水晶核』に関する事項――
公歴1035年 4月 30日
水晶核は情報端末の一種であり、その数は極端に少ない。同盟が使っている端末の数段階以上の情報処理能力と権限を持っている。
そのため、その取扱いに限っては慎重に行わなければならない。水晶核として確認されている機体は「レッドノード」「イエローエルドラド」……
〈省略〉
端末の保持者は危険思想を持たない者である限り、同盟ではその者の保護を行うことを決めている。なお、保護する場合においては一定権限以上を持つ同盟員が保持者の登録を行わなければならない。
――この規定は機密事項とする。同盟員以外に見せてはならない。――――
「長い」
私は同盟から正式に出されている辞令に文句を言いたかった。それにしても『水晶核』には色の名前がついているものが多い。というか現在確認されている個体には色の名前の付いたものしか存在していない。
「色の名前か……、今度の個体は何色だろうか」
アタシはその場でそうつぶやいた。
荒野の夜は暖まった体には寒かった。