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第3話 目覚め2

目の前に現れた黒い服の女の子をこの寒い倉庫の中に寝かしておくわけにはいかない。とりあえず、運ぶことにした。

 背負ってみる。とくに重いとういうことはない。見た目の割にはかなり軽い。年の頃は自分よりも下、おそらく上級学舎を卒業するぐらいの年齢だと思われる。上級学舎は十代後半の子供が通う教育機関の1つだ。

 ふと、背中に何らかの感触があることに気づく、脂肪だ。自身よりも幾分か年齢が下だと思われる女の子とはいえ、この状態は普段からの平静さに揺らぎが生じていることを感じる。

 それにしても、この女の子が言っていたタンマツとはなんなのだろう。新しい樹の種類だろうか。今考えるのはそんなことではなく、女の子がどこからこの簡易家屋に入れたのかだ。

 どこを探しても簡易家屋には私が入って来たドア以外に出入り口が無い。それにこの娘を背負ったままで、外に出ると警備員に私が簡易家屋に女の子を連れ込んだと勘違いされる可能性がある。

 ここは思い切って、警備員に事情を話すべきなのだろう。そうすれば、多少は誤解されそうだがある程度の説得力でもって私が彼女をここに連れ込んでないということが弁解できるかもしれない。

 私は簡易家屋の出入り口の扉を開いた。警備員が入った時と同じように立っていた。

「おい。用は済んだから鍵をかけておいてくれ、あと私が背負っているこの娘だが……」

 言いながら、肩に手を掛けた途端警備員はそこに座り込んだ。

「えっ……おい――」

 私はとっさに警備員の服を掴み、彼が地面に倒れ込むのを防いだ。どうしたんだこいつは……。脈はある。気を失っているだけのようだ。彼を起こそうと揺さぶる。揺さぶろうとして、背中に背負っている娘が邪魔になることに気づいた。彼女を地面に丁重に下ろして彼を揺さぶった。

「う……、……先生、どないしたんですか」

 彼は目を覚ました。

「立ちながら居眠りでもしていたのか」

 彼は私にそう言われて一瞬、怪訝とした顔になった。

「おらはここにずっと立っていましたよ」

彼の言う通り、警備員はずっと立っていた。

「いや、君は気絶していたようだよ。私が入ってから何分たったか覚えているかい」

 私がその質問をすると

「先生が入ってからは数分しか経っていないはずですだ」

 私は彼に時計を見せた。

「さんじっぷん(三十分)!」

「そうだ。私がここに入ってから出てくるまでに三十分程度経っている」

「じゃあ、おらはここでなにをしていたんだ」

 彼は私にそう言われて、怖くなったようだった。どうも、意識のないまま立っていたということに気づいたようだ。

「まあ、おおかた立ちながら寝ていたんじゃないのか。そろそろ交代の時間なのでは」

 私は彼が寝ていないことがなんとなくわかっていたがそう声を掛けた。

「へえ……わかりました。こうたいのひとを無線で呼びます」

 彼が無線に手を掛けたところを私は手をかざした。

「なんです?」

「交代するまで私がここで見張っていよう」

 私はそう言って、彼をここから離れさせることにした。彼は私に促され。簡易家屋が集まっている場所に歩いて行った。そして私は彼が向かった方向とは反対方向を見つめた。

 

暗闇の中から、男が現れた。夜に溶けるコートを着込み、サングラスをかけている。

「警備員の意識を消したのは君だな」

 私が男にそう尋ねると

「そうだ。どうやってそれを行ったかを言うことはできないがね」

 男の顔はニヤついている。男は持っていた杖のようなものを私に向け、

「貴様がそこに置いているその女……、おとなしく私に引き渡せ。そうすれば手荒な真似はしない」

と言った。おそらく手に持っている杖のようなもので私を脅しているつもりなのだろう。私がなかなか地面に寝ている女の前からどかなかったため、男は

「これの威力がそんなにも見たいらしいな」そう言って、男が私に向けていたそれを地面に向けた。突然、男の持っていたそれから青い光が放たれた。光は地面に当たった。地面は一瞬青く照らされる火山特有の鉱物が焼ける匂いと湯気が立ち昇った。

「地面が焼けるとは……、おそろしい光だ」

「これを人体に当てたらどうなるかわかるよな?」

 杖が私に向けられる。

「脅迫のつもりだな」

「脅迫? 違うな。これは交渉だよ。武力を伴った武力交渉だがね」

 男が向けた杖から光が漏れ始めている。光を放つ前の充電のようなものだろう。

「で、どうするんだ。このままだとお前の体は消し炭になるぞ」

 男は依然、顔に笑みを浮かべている。

「ひ、一つだけ質問がある……」

 私は男に尋ねた。

「ほう。この後に及んで何が言いたい? 命乞いか」

「お前の後ろにあるのは何だろうな」

 私はそう言った。

「うん? なんだ」

 男は杖を私に向けたまま、私も同時に確認出来るように体を曲げて振り返った。

 

バシッ

 

それと同時に男には背後から迫った木製の警棒による頸部への一撃が襲った。

「うっ」

男がよろめいたところに、男の背後にいた人物は電撃によって相手を無力化させる装置を用いて、気絶させた。


「無線が一度入って、切れたんでおかしいと思ってとにかく見に来たんですけど、途中で前の番の人に会ったんで急いでここに来ました」

 警備員の交代要員である私よりはいくらか若い男はそう言った。

「まあ、私も途中で君が来ていることに気づいたよ。それよりもこの男だ。この男が持っていた杖は地面を焦がすほどの光を放つことが出来るようだから、むやみに触らずにその辺に転がしておいてくれ」

 私はそう言いつつ、若い警備員からロープを受け取ると昏倒している不審者の両腕と片足を結んだ。途中でうめき声のようなものを上げたが無視した。

 そして、無線機で休憩中だった別の二人の警備員と共にこの男を警備員の詰所にしている簡易家屋に運んだ。私が倉庫用の簡易家屋で見つけた娘については私が詰所とは別にある病人や怪我人を寝かせておくための簡易家屋に運び込んだ。幸い、他に寝ている者は一人もおらず、そこを担当している女医に任せた。

「ひとまずはこんな感じだな」

 現在、男は警備員の簡易家屋の椅子に括り付けてある。ちなみに椅子も簡易家屋の柱に括り付けてあって、よほどの怪力でなければ動ないようになっている。

 なぜ、警備員や私がこんなにも易々と不審人物の捕縛に成功しているのかというと、日ごろから鍛えているからだろう。というのも、この発掘現場自体が多かれ少なかれ、盗賊団に襲撃を受ける可能性があるからだ。その証拠にこの島国から海峡を挟んだ大陸にある発掘現場はニ、三回武装した盗賊団に襲撃されている。そのためある程度の護身用の武装が許可されているのだ。

「起きろ」

 私は男の頬を抓った。

「うぐっ」

 男は私の与えた痛みで覚醒した。

「目が覚めたようだな。不審者、……いや強盗未遂を行った者と言った方が正しいだろうか」

 私がそう声を掛けると、男は私を睨み付けた。男の顔は意外に若く、見たところ上級学舎を卒業して数年といった風貌だった。

「これは……」

 男は自身が縛られていることに気づいた。椅子を揺らして「この縄を直ちに解けぇ!」と叫んだ。椅子を揺らせば揺らすほど、男の腕には縄の跡がついていくようだった。

「それは出来ない相談だ。君はどこの者の差し金で、この現場に入ったんだい」

 私が優しい感じで尋ねると「……」男は黙ったまま動かない。

「そうか。そういえば、夜食がまだだったな」

 私は警備員達に声を掛ける。一瞬、警備員達は怪訝な表情になったが、私の察しろという目線で気づいたようで

「わかりました。簡単なもので良ければ用意します」

 警備員の中でリーダー格の者が、いくつかの缶詰を開け、飲み物のボトルを棚から出し軽食を用意してくれた。

「ありがとう」

 私は小皿に盛り分けられた軽食を一口食べ「食事と言うものは余裕を持って食べるのが一番だな」と言って杯に注がれた飲み物を口にした。

 縛られた男はそれを見て、私の行動の意味が解らないという顔をしていたが私の意図に気づいたようで男の額から汗が垂れた。

「さあ、今夜は長い。なにから尋ねようか」

 尋問が長丁場になることに男は気づいたようだ。


夜が明けた。男はあれから、じっと縛られたまま、何も喋らなかった。とは言え、男を縛ったままでは我々側が監禁罪で捕まってしまうので、無線機を使いこの国の警備隊の支部に連絡をした。

 場所と、男を捕縛した時の状況を説明すると「すぐに向かいます」と警備隊の男は通信口でそう言った。

「へー。いつごろに来れそうなんですか」

 私がそう尋ねると「今からだと三十分程度で行けそうです」と答え、私は「そうですか、まあ気長に待ちます」と返答した。


 それから三十分の間は、再び男に質問を与えることにした。

「警備隊に連絡をしたのか……(まあいい。奴らの方が出しぬける)」

 男は小声で何かを言ったようだった。

「ふん。話せたんだな」

 私は一晩、何も話さなかった男がつぶやいた言葉を聞いて皮肉を言った。

「……チッ」

 男は苛立っているようだった。

 そういった、言葉の応酬を行っている間に警備隊が来たみたいだ。外で警備隊のサイレンが鳴っている。

 簡易家屋の外に出ると、警備隊の車両が見えた。警備隊の車両は大きさとしては中くらいのもので車両としてはごく一般的なサイズのものだった。荒野を走るためにタイヤが強靭な造りになっていて、タイヤがダメになった時のための予備のタイヤが後ろにつけてある。

 車両から、警備隊の隊員が二人出てきた。

 隊員の一人が近くにいた作業員になにかを尋ねているようだった。作業員は私を指さした。隊員は小走りで私の方に向かって来た。

「通報受け、こちらに来ました。イシガミ・タカシさんですね」

 隊員は私にそう尋ねた。

「はい」

「では、いくつか質問をしますので答えられる質問にはきちんと答えてくださいね」

 そう言って隊員は手帳と筆記具を出した。

「捕縛者を捕縛したのは何時頃ですか」

「たしか。夜十二時頃だったと思います」

「その時点では、我々に連絡を何故して下さらなかった――」

 隊員がそう言いかけると、一緒に来ていたもう一人の隊員が耳打ちをした。

「いえ、すいません。ある程度の尋問がここでは認められていたことを失敬しておりました」

 前述したとおり、発掘現場には盗賊が現れるため警備隊の権限の一部を行使することが出来るのだ。とはいえ、条件付きで時間制限があるのだが。

「捕縛者は火炎放射器のようなもので、地面を焦がしあなたを脅したということでよろしいでしょうか」

「ええ。そこは通信で話した内容と同じです」

「なにかこう。この男に狙われるような発掘物はあるんでしょうか」

 隊員は尋ねた。

「発掘物ですか……」

「いえ、すいません。発掘物について尋ねるのは確か、許可が入りましたね。まあ今回も単なる盗賊でしょう」

 そう言って隊員は男に手錠を嵌め、車に押し込み警備隊の地方基地に連行していった。



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