異世界での仕事③
息抜きにこの作品は凄く良い。主人公をそのまま自分をトレースすることができるので実にやりやすい。
まあ、実際そんな場面に遭遇したら同じことは出来ないだろうけどね。
主人公に切りかかった男の名前が「ユーラ」になっていたのを「ヘルス」に改定。
数秒、退魔術師と入り口から剣を鞘から抜いて退魔術師の首すじに刃の部分を押し付けながらの両者二人の睨み合いの状態が続いた。
ギルド内にいた殆どの人間が二人を凝視している。
その理油は勿論、退魔術師と剣を抜いている二人の撒き散らす殺気の所為だ。
二人の殺気は、生半可な人では耐えられぬ程の威圧感を発生させており、ギルド職員は体を震わせ、ギルド加入者は、余りの実力差に身震いを。
両者が放つ殺気は、周りの人間に強者だと認識を与えるには十分だった。
「おい、お前名前は?」
抜き身の剣を退魔術師にあてている男が呟く。
「お前こそ何者だ? 貴様、纏う気が常人とは違うぞ」
退魔術師は、普段から悪魔という悪意の篭った気を持つ物と対峙していたので、自然と人間とは違う雰囲気を持った男についておかしな点に気が付いた。
「は? …………そうか。そうかそうか」
剣を退魔術師の首筋に当てていた人物は、何処か納得したように頷いて、笑った。殺気は途端に消えた。同時に、ギルド内に漂う重苦しい空気も消えていた。
殺気を消したことに一先ずの安著と、退魔術師の彼にとっては気になる点を告げただけに過ぎないのに、いきなり笑い出されて意味が分からないといった顔をしている。むしろ意味が分かったらちょっと可笑しい奴と同じかもしれないが。
「なあ、レーイ。こいつ、俺の異常な所に気が付いてるんだってさ」
殺気を消した男は入り口にいたもう一人の人物に話しかけた。呼ばれる名からしてレーイという者らしいが、こいつは目の前の男とは違い常人と変わりない気を持っていることを退魔術師は確認していた。
「珍しいな。ヘルスの事に気が付く奴がいるとは俺以外にそうはいるもんじゃ無いと思っていたが、存外いたな」
「そうだな。ちょっくら体慣らしに使って良いか?」
――体慣らし?
退魔術師は、男の言葉にまるで者扱いされている事についての苛立ちと男と戦わなければいけないという状況が発生しかけていることにめんどくささを感じずには居られなかった為、軽く気を消して立ち去ろうとした。
「おい、待てよ」
したのだが、そう、レーイとやらは気が付いてすらいなかったのだが、この常人とは違う気を発する男にはしっかりと存在を認識されていた。
これについて退魔術師の彼は避けられない運命に諦めが篭もった大きなため息を吐いた。
「何か?」
「俺と戦――」
「嫌です」
即答であった。まさに完全拒否。男のその次を言わせまいと退魔術師の彼が狙って行った行動に大して多少の驚きを示していたがすぐに元に戻った。まあ、退魔術師の彼にとっては軽い報復のつもりで行っただけであって男の言葉を断れないと判断している。
こういう類の人種は自分の価値観を相手に押し付け、たとえその価値観が通用しなくとも強制的に押し付けるような輩に違いないとハッキリと認識していた。
「戦――」
「良いですよ」
「…………え? 良いの?」
間が開いた。恐らく先程同様に断られ続けると予想していたのか、簡単に承諾してしまった退魔術師に驚いている。まあ、こういう反応を楽しむのも彼の趣味に他ならない。
――そう、ストレス発散だと思い知れこのバカ。
決して声には出さず心のうちで暴言を吐く。
「お前、今なんか言ったか?」
いかにも戦闘民族の男が此れから訪れるだろう戦いに嬉しさを顔から溢していても、退魔術師が心で漏らした暴言をしっかりと感知したらしい。感知されたそれがどんな感情を抱いてのものなのかは気づかれてはいないが、彼はやはり人とは違う何かを身のうちに秘めているのだろう。
「いや、何も」
――ただ、ふざけるなと言いたいだけだよ。バカ。
「やっぱりなんか言ったろ」
「気のせいですって」
――貴様のセンサーは一体何で出来てるんだ? バカと天性は紙一重と聞くが、やはり馬鹿なのか?
「おい」
「どうしました?」
「いや、やっぱりいい」
――ふん、悪意は感じられても反抗する利口さが足り無くて口ずさんだか。やはりただのバカだな。
「……っ!!!」
刹那、退魔術師の彼は両手を頭の僅か上に移動させ、上から振り下ろされる何かを掌ではさんだ。
「お前、俺のこと心の中でバカにしてんだろ?」
「……何のことかな?」
上段から力を常時加えられ、震えながらも奮闘する退魔術師。
そんな茶番を男の仲間が止めた。
「いい加減にしろ二人とも。特にヘルス、幾らお前が自分のことをバカにされることに敏感だからってまともに取り合うな。ただでさえバカで口で対抗することも出来ないお前が最終的にするのが不意打ちしかないって、それ、本当にバカ丸出しにしか見えないぞ。だから剣を収めろ」
――良し。言いたいことはレーイが言ってくれた。しかも想像以上の毒舌さで男、ヘルスの痛いところを付き捲った。是非賛辞を送りたい。
レーイの言葉に一度は沈めた剣を再びヘルスは上段に構えて振るった。
「あぶなッ!!」
今度は受け止めるのではなく身を交わす事で制した。
「悪かった、お前に対する気持ちはほんの出来心だったんだ。心の中でバカにすると勝手にアンタが反応するからつい、面白くって続けてしまったんだ」
退魔術師の彼はヘルスに謝罪する。ただその言葉には精一杯の嫌味を込めて。
それに同調するようにレーイが言葉を続けた。
「全くその通りだ。ヘルスはバカにされることに敏感すぎて、逆にそのことに悪戯心が揺さぶれてつい遣ってしまうんだ。これは、もう仕方がないとしか言いようが無いよ」
レーイはヘルスに言葉を綴るが本人は反応が無い。どころか下を向いたまま俯いている。
「大丈夫か?」
さすがに不味いと思ったのか、レーイは途端に表情を変えてヘルスに確認を取る。
そのヘルスから返ってきた言葉は――
「いい加減にしろッ――!!」
怒号ならぬ声の大噴火であった。
「さっきから大人しく耳を傾けていれば、俺の悪口ばかり。ふざけるな!! お前ら二人の性根を叩きなおしてやる!!」
「結局俺も参加させられるの?」
「当然だろ」
悲しくも参加についての有無に、退魔術師の彼はレーイに選択の余地がないことを。