異世界での仕事②
「あ~」
『お疲れさん。にしても、この資料、いくらなんでも内容が多すぎだよ。無駄なのも多すぎなんだって。まあ、それを含めて覚えたお前も無駄な努力だけどな……』
「もうそれ以上言わないでくれ。悲しくなってくるし努力を否定されたくない」
そうだ。
彼らはギルドで渡された説明書というなの、地獄の境地へと立たせるような恐ろしく長い文章だったのだ。
一見、説明書自体はそこまで“分厚くはない”。
分厚くないだけで、書かれていた文章はとてつもなく小さく数の多い文章だった。
「しばらくは文字を見たくない…………」
そんな俺もだと言ってやりたいが、それはいらぬ言葉だろうと悪魔はまるで某厨二病患者の樽みたいに(キリッ、とやっていたがまったく似ていない。
そもそも体系がまったく違うし、ていうか実態ないし。
その日はただ、内容を覚えるという単純作業のように見えて、同じような綴りを何十、何百と見せられるこちらにしてはかなりの労作業であった。
もし、この世界にも日本同様、バカという存在がいるとすればすべての内容を覚えるのにはかなりの日付を有するのではないかという位のものなのだ。
「寝るか…………」
『わかった。んじゃ俺、ちょっくら散策してくるからその間、襲われるんじゃねえぞ』
そうなのだ、たまにこの悪魔は放浪癖があるのだ。
そのくせ、自分が死ぬ、というより消えてなくなるのが嫌だといって俺にいつも死ぬんじゃねえぞと、遠まわしに言う。心配なら心配といえばいいのに、こいつは最初は違かったが今は、本心で心配してくれているのがわかる。
(本当に相棒は変わったな……)
ずいぶんと丸くなったのだ。まるで某ゲーム、四角い頭を丸くするみたいな感じに。
だから、今は気兼ねなく言えるんだ。
「いってら~」
☆
たっぷりと睡眠休憩をした彼は、日が沈みかけている夕方に起きた。
しかし、未だに相棒が帰ってくる気配は皆無だ。
相棒の放浪期間は、いつもばらばらだ。
数時間で帰ってくるときと、数週間空けて帰ってくる時。
今回は、異世界ということで二日以上は無いと思う。
だから、今日は稼がないといけないのだ。“金を”。
金を稼ぐためギルドに向かう。
特に道を間違えるわけでもなく目的地へと到着する。
(すこしはなにか起これば面白いのに……)
なぜか、異世界へ来てからというもの、性格がまるで変わっているのに自身は気づいているのだろうか? お前は、そういう面倒なことは嫌いだったろ、と突っ込みしたいが、俺はそんなことはできないのである。よく言うだろ? 神は下界には干渉してはいけないってのが、俺、一種の神だし。
当然、どこかの誰が思っていても主人公の退魔術師は気づくことは一生無いと言える。
ギルド内の依頼が張り出されている掲示板に足を運び、依頼内容を確認する
特に説明を受けてはいないが、知識としてすでに頭の中にインプットされているので、自身が、ギルドランク最下位のFランクで、ランクを上げなくては魔物の討伐系にはいけないことも分かっている。
だからこそ困る。
薬草摘みや、民家の手伝い程度では移住職代はおろか食事さえままならない。
(飛び級方法とかないのかよっ……)
このまま地道にランクを上げるか、なにか裏技を使ってすぐにでも討伐系の依頼を受けられないだろうかと考え込んでいたとき、ギルドに異様な気をもったやつが現れた。
それの存在にすぐさま反応する。
こちらに来てからは一度も使っていなかった、霊刀・炎魔龍レグナスを、今はまだ出してはいないが、常に左手から、相棒の無限倉庫から引き出す準備は整え、柄をとる体制をとっている。
こちらの異様なお出迎えに気付いたのか、先ほど入ってきた男はすぐにこちらを目を見開いて見てきた。
「なんだ、いるじゃないか。意気のいい新人が」
その声は背後から聞こえていた。
別に反応できなかったわけではない。
ただ、たったそれだけの移動で、相手がどれほどの実力を持つのかを察し、それが自分と同等かそれ以上というのを感じ取ったため、無碍な争いを避けるためにも、相棒のためにも今は動かないことにした。