異世界での仕事
主人公の『』は心の中の悪魔に対していっている言葉でして、決して肉声ではないですよ。
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フードの子を助けたあと、無事開いている宿を見つけ泊まることができた。
その宿には、自分と同じくらいの少女がいてとても目の保養になっているし、ご飯はおいしい。
なかなかの高物件で、いろいろと得をした退魔術師はホクホク顔で異世界生活最初の日の幕を閉じた。
が、そう簡単にうまくはいかなかった。
だって彼は常に非日常に巻き込まれる、いや、常に中心にいるような人間だからだ。
すでに、裏の世界の住人たちの間に退魔術師の造形は知れ渡っていた。
幸い、彼の能力のことは漏れてはいなかった。当然、バレるような使い方もこれからしないが、すでに日本では――
☆
翌朝、時間感覚で言うと6時くらいの健康的な朝を迎えた彼は、部屋に備え付の洗面台らしき場所で顔を濯いでパッチリと目を覚ました。
その後、給仕らしき女性が部屋をたずねてきて、食事ができたことを知らせにきてくれたので部屋をでて、食事場に向かった。
食事場には自分とは似て非なるような格好をした人たちが数人いた。
一人は、いかにも戦士といった感じの、大剣を背負ったガタイの良い高身長のオッサン。
一人は、ローブを着ていて体系はあまりわからないが、戦士ほど体は良さそうではなく、軽めの少し大きな杖を片手に持っていた。杖の先には、日本で存在する宝石のような輝きを宿した淡いブルーのものが治まっていたので魔法使いあたりだろう。
一人は、戦士とも魔法使いとも言えない中世的な体つきで、動きは早そうだが、剣技に重みはなさそうで、その代わりテクニックや剣速などに優れていそうだ。それに、腕につけている装飾品に、先ほどの宝石のようなものがついているが、魔法使いらしきものがつけていたよりは輝きは薄く、力がなさそうに見える。多分、この人は魔法も使えるし、そこそこ剣技もありそうな両対応をしている人であった。
それらの人を見てへーと、いろんな人がいるもんだなと感心していた。
まあ、異世界なので当たり前なのだが、どこか抜けてる退魔術師であった。
促された席で出来上がった朝食が運ばれてきた。
運ばれてきた食事は、日本の朝食に似たようなサンドイッチに、肉厚の良い肉に、香ばしい香りを漂わせたソースに腹は限界を超えて大きく、グウゥーーとなった。
その自身の腹に笑いながら出された食事を口に運ぶ。
「―――うまい」
ただそれだけだった。
肉がおいしかったのももちろんあるが、人の手によって作られたこのソースがなんともいえない。
日本でも、よく母親には肉料理をチョイスしてもらっていたりしたので、此方でもおいしい肉料理が食べられると明日を生きていくのも楽しくなるもんさ。
食事を終えた退魔術師と悪魔は昨日と同じギルドに向かった。
昨日、宿に備え付けであった街の地図を見て頭には叩き込んである。
なので、問題なくギルドに到着できた。
昨日同様に、活気の増したギルド内でカウンターにいる少女を見つけた。
向こうもこちらに気づいたようで、笑顔で手を振ってきた。
思わずでたその行動にドキっとしたが、持ち前の切り替えの速さですぐに押さえ込んだ。
「カードを受け取りに来ました」
陽気の良いお兄さんって感じに語りかけるように言ったが特に反応することなく事務的に処理された。
「はい、昨日のお方ですね。少々お待ちを――――」
昨日と同じように裏方へと消えた。
『おいおい、相変わらず美人さんに目がないですね? 相棒さんは年中欲情しているのかしらね?』
ブチ!、と心の奥底から伝わる声に退魔術師の堪忍袋が切れた。
『おいてめぇ!! いくら一心同体ですごしてきた中でも俺の美的センスを疑うことは許さん!!』
はあ? と思わず悪魔の口からこぼれる。
あくまで皮肉を退魔術師に言ったつもりがどこか違う感情を呼び起こしてしまった理由がわからず悪魔は呆けていた。
『あのカウンターの女性は美しい!! あの人の顔を見れば誰だって惚けるはずだ。お前がそうでなくても、俺がそうであったと主張する!』
あれ? 最初こんなキャラしてたっけ? ていうか、この小説ってこういう展開もアリなの? てっきりこの異世界で非日常に巻き込まれてハーレム展開を発動させるのではなく、女の子に引かれそうなキャラしてていいの? そんなんじゃ持てないよ? 当然、ご都合主義みたく主人公の容姿はある程度優れていて持てるのに、それを自虐してしまうのか?
この時まさしく悪魔と読者と作者が主人公にたいして同じこと、いや同じとまで言はないが、似たような感情は出てきたはずだ。
――お前《主人公》はなんぞや? と。
そして、俺たちと同じくカウンター裏から戻ってきた女性は退魔術師の彼をジト目でみていたことには気づかない。
それが小説の中の主人公だ。
「お待たせしました。此方が貴方様のギルドカードになります。そして此方が入国証明書でさらにギルドに関する不足な知識を補うための説明書になります。これを今日はしっかりと熟読し、その制約を守ってギルドをご利用ください」
先ほどの退魔術師の行動を見なかったことにしたギルドカウンターで営業する女性は、懲りてないのか、わざとなのか前日同様、笑顔で彼を送り出した。
もし、今回のをみて失望したかたは言ってください。
ただ、me ギャグというか悪魔と主人公の掛け合いをもっと濃いものにしたかっただけなのですが、なんかこっちにきてしまったのです。