第八十三話 無属性の魔法 その3
阿形さんは蛸腕を出して、ぺたりぺたりと吸盤を吸い付けて、壁を器用に登っていく。
窓がある三階へ行くと、窓を『他食の術』で取り込んでしまった。
誰も窓だけ外れているとは思わないだろう。
中に入ると、取り込んだ窓を同じように作ってはめ込んでしまう。
『さて、どんな感じかな?』
「『我が魔力を捧げる。捜し物を指し示せ、捜し物』、……この階には三人いますね。この階は牢屋ではないようです」
『おそらくは、奴隷としてここで働かせられているのかもしれんな』
すると向かいから歩いてくるお手伝いさんのような女性。
彼女の右腕には、隷属の魔道具が見える。
にび色の腕輪状になっているのと、赤い石がはめ込まれているからすぐにわかる。
「阿形さん」
『あぁ、任せておけ。所詮は物理的な鍵でしかなかった。慣れてしまえば扉と変わらんよ』
蛸腕を女性の腕にある隷属の魔道具へ伸ばす。
蛸腕で魔道具を包んだかと思うと、あっさり鍵が開いた。
同時に、女性の腕から魔道具は外し、『格納の術』でしまい込んでいた。
もちろん女性は、腕輪が外されていることに気づいていないように思える。
こうしてすれ違う度に、隷属の魔道具を外して取り上げてしまう。
この屋敷だけで、腕に填められて奴隷扱いされている人が八人。
在庫として持っていたと思われるものが十個。合計十八個手に入れたことになる。
商会の会頭がいたら魔道具を填めて言うことを聞かせてもよかった。
だが、もし腕を斬られて魔道具を回収されると困る。
そう阿形さんが指摘してくれた。
実際、僕が経験したのだから、あるといえばあるのは間違いないはず。
だからあえて、この場では魔道具の回収だけにしておいた。
『鞭や鍵があっても、本体がなければ役にたたんからな』
「その通りですね」
とりあえず、この建物の中から『隷属の魔道具』はなくなった。
僕たちは三階の窓からまた出てくる。
そのまま屋上へ出ると、僕は魔法を発動させる。
「『我が魔力を捧げる。捜し物を指し示せ、捜し物』、……あ」
『どうしたんだい?』
「はい。前に取り込んだ屋敷の隣り、領主の屋敷と思われる建物に複数反応があります。他は大丈夫ですね」
『わかった。全ていただいていこう』
屋上からそのまま上昇。領主の屋敷の屋上まで行くと着地。
そこから蛸腕で地階窓まで降りて、窓を外して侵入。
もちろん窓は戻しておく。
やはりここは領主の屋敷かもしれない。
先ほどの屋敷や、隣りにあった建物とは壁や床、天井の装飾が違う。
魔法が反応した場所へ行き、隷属の魔道具を回収する。
この屋敷で魔道具を填められていた人は六人いたが、全て外してしまった。
この屋敷で『捜し物』の魔法はもう反応しない。
回収が終わって、屋敷から一時撤退。
男爵領の東側。領主の館とは反対側に位置するあたり。
歓楽街と思われる場所の外れ、人気の少なくなったあたりで僕は立ち止まる。
僕は小声で呪文を唱えていた。
「『我が魔力を捧げる。捜し物を指し示せ、捜し物』、あの建物に ひとつだけ反応があるみたいです」
『よし、それを最後にしようじゃないか』
(はい)
『まだ気配は感じられないんだがな』
(一応、です)
僕たちはもちろん、『隠形の術』を使ったまま、反応のあったあたりまで移動する。
するとそこには、王城から数十メートル離れたあたりに、二階建ての建物がある。
一階にふたつ店舗があるようなテナントビルみたいな大きさに感じられた。
周りは暗闇に包まれているが、その建物からだけ明かりが漏れている。
(阿形さん)
『どうした? 一八くん』
(ここの二階あたりから、反応があるんですが)
『何やら歯切れの悪い言い方だね?』
(わかってしまいますか?)
『あぁ、オレはそれなりに長く君と付き合っているからな』




