第八十話 魔法などの知識について その7
シファリアさんは僕が『空間収納』を使えると勘違いしてくれている。
実際は阿形さんの『格納の術』を使ってるだけ。
だからこういうときも、『そういうこと』だと思ってくれている。
その点、魔法の世界は非常に助かると思った。
僕はリュックに手を入れて、何かを取り出すフリをする。
『格納の術』を使って銅貨の入った袋を取り出した。
慣れたもので、もう阿形さんを頼らずにできるようになっている。
「ではえっと、……十枚。これに五つ並べて、と。これで五十枚ですね」
僕は軽く両手を添えて、前に銅貨を押し出すようにした。
すると、シファリアさんの指が僕の指に覆い被さるようにして当たった。
僕は慌てて手を引っ込めた。すると、
「あら、ごめんなさいね」
「僕こそすみません」
互いに愛想笑い。
同時にシャツの袖に隠れているあたり、蕁麻疹が出たり引いたりを繰り返している。
(うわ、出ちゃってる。かゆい、マジで痒すぎる。冷や汗出てないかな? それとも照れてると思ってくれてるかな? そうだと助かるんだけど……)
「……確かに五十枚受け取りました。ではサリーナさんに報酬を渡しておきますね」
「は、はい。四等級に上がったら迷宮を案内してもらう約束をしたんです。そのときはまたお願いしますと、ありがとうございましたと伝えてください。よろしくお願いします。では僕は、薬草採取にいってきます」
「え、えぇ、お伝えしますね。いってらっしゃいませ。カズヤさん」
「あ、そうそう。書籍を一冊借りていきたいんですが?」
「はい。どのようなものですか?」
「確か、『基礎魔法大全』だったと思います」
「あぁ、それなら置いてある場所はわかります。ちょっとだけ待っていてくださいね」
すぐに書棚のところへ行くと、あっさり戻ってくるシファリアさん。
「えっと、はい。これで手続きは終わりです。どうぞ」
「ありがとうございます。ではお借りします」
「いえいえ、どういたしまして」
シファリアさんは手を振って笑顔で送り出してくれる。
僕は踵を返して、受付カウンターを後にした。
(いーやさっき、痒かった痒かった。銅貨を渡すときに指が触れちゃったんだ)
『やはり、イヴ殿は特別だったのかもしれないな。いや、魔族であることがそうなのだろうか? 魔族の女性ならば、一八くんは耐性があるのかもしれないな。実に興味深い』
(イヴさんが魔族だから、なんですかね? と、とにかく油断してるとさっきみたいに思いっきり痒くなるときがあるんです。我慢してたの顔に出てなかったかな? とは思ったんですが。今は蕁麻疹が治まってはいますけど、あれだけはどうにもなりませんって……)
『まぁそのなんだ。お気の毒様だな』
だからって今更ながら、普段から手袋をつけておくのもおかしいだろう。
あっちの世界みたいに薄手のものがあるとも限らないから、厚手の手袋なんてつけてたら、銅貨なんて数えられないだろうから。
違和感だらけになってしまうのも困ってしまう。
思えば、阿形さんたちの眷属になったのは、僕が小学校の六年だった。
あのときはまだそうでもなかったんだけれど。初めてこの症状が出たのは確か、中学三年くらいだったはずだ。
症状も大したことはなくて、何か別のアレルギーだと思っていた。
阿形さんも吽形さんも、色々調べてくれてはいた。
だが、行き着いた先はやっぱり、二人の眷属になったことで、二人の体質を受け継いだことによる副作用だろうということになった。
僕がもう少し大人になって、女性と接する機会が増えて、それでも治らなかったら、そのときは諦めてくれと阿形さんが笑ってて、吽形さんが阿形さんを怒っていた覚えがある。
それはそれで別に構わない。
阿形さんと吽形さんのおかげで僕は、あのとき千鶴姉さんを悪人の手から守ることができた。
憧れていた正義の味方になることができた。
こうしてこの世界に連れてこられた今も、阿形さんは助けてくれている。
油断さえしなければ、案外簡単に乗り越えられるイベントみたいなもの。
姉さんが言ってたように、ちょっとしたデバフみたいなものだ。
それを上回るほどの能力を得たことを考えたら、大したことじゃないと思う。




