第七十六話 魔法などの知識について その3
「あまり使い道はないのですが、無属性魔法の基礎として魔法運用を理解するのにいいと言われています」
サリーナさんは、腰のあたりから革製と思われる袋を取り出してテーブルの上に置く。
その中から銅貨を一枚取り出した。
「カズヤさん、手、いいですか?」
「はい」
銅貨を一枚僕に持たせてくれる。
「この簡単な呪文、読めますか?」
「はい」
「では書かれている通りに、唱えてみてください」
「はい。えっと、『我が魔力を捧げる。捜し物を指し示せ』――あ」
阿形さんが魔力を僕から『もらう』と言ったときのような感じがあった。
おそらく僕から、魔法の発動に必要な魔力が消費されたのだろう。
その結果僕の目には、目の前にある袋がぼんやり光を帯びているように見えた。
「あの、その袋がぼんやり光って見えるんです」
「はい。正解です。この袋には、同じ銅貨が入っています。これが『捜し物』の魔法というわけですね」
「ということはこれ、薬草を探すのに」
「はい、ある程度使いこなせていたなら、可能でしょうね」
「おぉおおおお。僕もついに、魔法使いになってしまったんですね」
「はいはい、興奮しない。落ち着いてくださいね」
サリーナさんは苦笑している。
ちょっとだけ恥ずかしくなってしまった。
でも僕はこれで、魔法使いになったんだ。
これが興奮しないでいられるだろうか?
「他にも、無属性魔法はこちらの書物に載っています。合わせて、こちらの書物も参考になると思います。両方ともシファリアに尋ねたら、貸し出しをしてくれることになっています」
「ありがとうございます。『基礎魔法大全』と『能力大全』ですね? 借りて読んでみようと思います」
「では次に、迷宮についてです」
「はい」
地図みたいな巻物に似たものを開いてくれるサリーナさん。
「これが、このソムルエール王国を中心とした広域地図になります」
四国みたいな形をしてるけど、かなり大きな大陸みたいで、右上から左下に緩やかな斜めに山脈が走っているのがわかる。
阿形さんが山脈を飛び越えるのは無理だろうと、回り込んで裏側へ行くにも時間がかかりすぎると言っていたから、東西にかなり広さがあるのだろう。
先日シファリアさんに見せてもらった地図同様、やはりこの地図も山の北側が曖昧になっている。
地図の中央にソムルエール王国があるのだが、小さく書いてある。
東の端のほうにファルブレスト王国が書いてあるのがわかる。
おそらくこれは広域地図なのだろう。
とにかく山脈が占める割合が大きかった。
「巨大な山脈の地下、ほぼ全域が迷宮かもしれないと言われています」
「……え?」
「それだけ広大で、無数に伸びています。それがこの大陸にある迷宮なのです」
「はい」
「同時にですね、迷宮の心臓とも言われている迷宮核を複数持っていて、複雑に絡みあっているかもしれない。そうでなければ、とうに攻略されていて、迷宮がなくなっているはずなんです」
「それはまた、凄いですね……」
サリーナさんは一冊の本を開くと、ある絵を見せてくれる。それは、先日こっそり見に行った迷宮の入り口らしき場所そっくりだった。
「これって、どこかの神殿か何かですか?」
僕はあえて知らないふりをしてみる。
もちろん、こっそり見にいったことは内緒。
「いいえ、迷宮の入り口です」
「え?」
ここは驚いてみせないと駄目だと思った。
「迷宮はですね、ただの洞窟ではありません。迷宮自体が意思を持った生き物だと思われています。……そうですね、ではカズヤさん」
「はい」
「動物が住んでいそうな洞穴と、このような綺麗な迷宮。どちらに入ってみたいと思いますか?」
「もちろん、こっちですよね」
「はい。普通はそうなりますね。その上迷宮はですね、入り口に立つと、とても良い匂いがするんです」
「え?」
「時に果物や花のような、時に清涼感の感じられるようなものだったりします」
「え?」
「迷宮には、魔物が多数存在しています。その魔物を倒すと、魔石などが手に入る場合があります。その上希に、宝を落とす場合もあるのです」
「はい」
「そのように匂いや宝などをエサにして、人を、獣を寄せ付けて、取り込んで更に大きくなろうとする。それ故に、迷宮は生きていると思われているのです」




