第六十九話 薬草採取の報酬。
僕はリュックを抱えたまま、列を外れて右奥のカウンターへ移動した。
すると、依頼を受ける受付カウンターより少し低くて、広いカウンターがそこにはあった。
あちらのカウンターは僕の胸くらいの高さだったが、こちらは僕の腰くらい。
幅は少し広くて一メートルくらいだろうか?
確かに上には『買い取り』ってプレートがつけてある。
なるほど、『そういうわけね』と僕は思った。
「カズヤさん、こちらに出してもらえますか?」
カウンターに近寄ると、奥行きも思った以上にある。
これなら上にリュックの中を出してもこぼれ落ちることはないだろう。
「はい」
僕は丁寧に少しずつ出していたんだけれど。
「一気に出しても大丈夫です。集計は私も手伝いますので」
そう、シファリアさんが言ってくれる。
「あ、はい。こうですか?」
リュックから少し取り出すと余裕が出てくる。
軽く振るとどさっと落ちるようにして中にあった薬草を出すことができた。
「かなりありますね。うんうん。手引き書にある通りの丁寧な採取で助かります」
「見るだけでわかるんですか?」
「はい。この仕事はそれなりに長いので。……ほら、ここを見るとわかります。根がついていませんからね」
シファリアさんは、薬草を手早く綺麗に並べていく。
慣れているだけあって手際がいいこといいこと。
それを見ているだけで、さすがにプロフェッショナルだなと思った。
「地面からこれくらいの場所で切るように書いてありましたからね」
「そうなんです。それくらい残しておかないと、次が育たなくなってしまうんです。初心者だとそれがなかなかできないんですよね。なのでちゃんと手引き書を渡して読んでもらった上で、根が付いていたら買取額を低くして、わかってもらうようにしているんです」
「なるほどなるほど」
「その点、カズヤさんは合格です」
満面の笑顔、僕もちょっと嬉しく思ってしまう。
「ありがとうございます」
「この薬草は、群生するものではないので、これだけ集めるのは大変だったでしょう?」
「やっぱりそうだったんですね。夢中でやっていたので、あまり気にならなかったんです」
「そうでしたか。それでですね、一株あたり銅貨五枚の買い取りになります。それでえっと、五十二株になりますから、……銀貨二枚に銅貨六十枚となりますが、いかがですか?」
「はい。それでお願いします」
思った以上に報酬が高くて驚いた。
「でもなんでこんなに高いんですか?」
「はい。先ほどご説明させていただいた通りにですね、薬草は群生していないのでそれなりの価格で取引されています。もちろんここだけでなく、商業ギルドでも同じ価格で買い取りされているんです」
「はい」
「これはですね、『治癒の水薬』の材料になります。『治癒の水薬』は、治癒魔法が使えない人には必須の薬で、迷宮探索にも欠かせないんです」
「そうなんですね」
「そのため、いくらあっても買い取りできるんです」
「なるほど、では明日もまたよろしくお願いしますね」
「こちらこそです。ではお疲れ様でした。カズヤさん」
「はい。お疲れ様でした。あ、あのですね」
「はい、なんでしょうか?」
「持ち運べる時計を売っているお店を紹介してもらえませんか?」
「はい、それでしたらここがいいかと――」
シファリアさんは簡単な地図を書いて、僕に渡してくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして」
僕はほくほくした気持ちで冒険者ギルドを出てきた。
『治癒魔法とはな。なるほど、そのようなものがあるわけだ。実に興味深い』
(そうですね。魔法もそうですが、案外、薬草の採取ってお金になるんですね。驚きました)
『いや、一八くんのようには普通ならいかないだろう』
(そうなんですか?)
『例えば、獣などが襲ってきたらどうする? 一八くんならそれほど慌てずに対処できるかもしれんが、普通の同世代の少年少女ではどうだろうか?』
(あ、確かに。猪とか野犬とかいても、あまり怖いと思いませんからね。強盗に比べたらそうでもありませんから)
『普通は野犬よりも盗賊や強盗を恐れるものではないか?』
(強盗は刃物を持っていますし、ごく希に飛び道具も持っていたじゃないですか? まだ野犬とかのほうが対処しやすいと思いますよ)
『なるほど。一八くんは少々特殊な経験をしているからだろうな。一八くんのような経験の浅い冒険者であるなら、本来であればおそらくは、必然的に外門より近い場所での採取になるだろうと予想できる。そうなると、競争率も変わってくると思わないか?』
(確かにそうですね。僕みたいに遠くまで来ることは、身を守る手段がないと無理ですね)
『そういうことになるな』




