第六十八話 収穫と『格納の術』 その3
阿形さんには僕が取り込んだ薬草の量が正確にわかるとのこと。
僕はぼんやりした感じしかわからないから、そんなにあるように思えなかった。
「そんなにありそうですか? 数えないで淡々と作業を続けていたものですから」
『おそらくはリュックに入りきらないくらいはありそうだぞ? とりあえず詰めてみて、入りきらないようなら一度、冒険者ギルドへ戻ったほうがいいかもしれないな』
「わかりました。ちょっとやってみます」
僕は手のひらを上にした。
きょろきょろと辺りを見回すと、
『大丈夫だ。オレがこうして姿を現してるんだ。人も獣すら気配はないぞ』
「そういえばそうですね。ありがとうございます。えっと、薬草を全部」
そう言った途端、どさどさと手のひらの上に現れてはあっさりと溢れてしまい、足下を埋めそうな勢いで落ちていった。
「あらららら……」
『あははは。だから言っただろう?』
「まさかこんなになってるとは思わなかったんですってば」
僕はその場にしゃがむと、一枚一枚丁寧に重ねてリュックに詰め込んでいく。
ちなみにリュックの中はからっぽにしてある。
地図なんかは『格納の術』でしまってあるからだ。
「これをこうして、なるべく傷にならないように、……と」
足下に溢れていた薬草をなんとか詰め込み終わると、リュックはパンパンに膨れ上がっていた。
とても背負える状況ではないだろう。
だから僕は仕方なく、前に抱えるようにして持っていくことにした。
「これじゃリュックになりませんよね。あははは」
『楽しそうで何よりだな』
「はい。こっちに来て、くよくよ悩んでいた僕の背中を、阿形さんが押してくれたからです」
『お、おう……』
こんな感じに言葉を詰まらせているときは、照れているのがよくわかる。
阿形さんは、出会った当時は無口な人だと思ったけれど、最近はよく話してくれるようになった。
そんな阿形さんは、照れるとこんな感じになるのも知っている。
吽形さんがその都度阿形さんが照れてると教えてくれて、僕も千鶴姉さんもよく一緒に笑っていた。
歩いて帰るにはやや遠いから、『隠形の術』をかけて『飛翔の術』で空を飛んでくれることになった。
ある程度近場まで連れて行ってもらうと、辺りを警戒しつつ人気がないおを確認して、『隠形の術』を解いた。
そこから普通に歩いて外門へ到着すると、慣れた手順で王都に入った。
冒険者ギルドに戻ると僕は、受付カウンターのいつもの列に並んだ。
カウンターの近くにある時計を見ると、時間は五時前になっていた。
結構遅くまでかかって採取してたんだなと思った。
(やっぱり時計買わないと駄目ですね。銀貨二十枚くらいしかありませんけど、帰りに見ていこうと思います)
『そうだな。ここの営業時間を過ぎてしまったら、せっかく採った薬草などが駄目になってしまうともったいない。まぁ、「格納の術」で取り込んであれば翌日に持ち越すことはできるんだろうがな』
(そうですけどね)
まるでファーストフードの注文待ちのような列の並び。
なぜそう思うかいうと、列が進む度に『いらっしゃいませ――』という声が聞こえるからだ。
その列が徐々に前に進んでいき、僕の番がやっと回ってきた。
並んだ列の担当は、いつものシファリアさんだった。
三分の一の確率とはいえ、案外よく当たるな、と思っていた。
だが、僕が邪魔にならないように並んでいた右端の列は、彼女の担当だと後日判明したのである。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。……あら? カズヤさん。今日は――あぁ言わなくてもわかるわ」
シファリアさんは僕の顔を見て、更に笑顔になっていく。
すると彼女は後ろを振り向いて、手を上げる。
「シファリア、買い取り入ります。カウンターお願いできますか?」
すると、奥から代わりの女性職員さんが出てきてシファリアさんと入れ替わってくれる。
「買い取りはですね、カズヤさんから見て、一番右奥になるんです。移ってもらってもいいですか?」
「はい、わかりました」




