第六十七話 収穫と『格納の術』 その2
僕は鞄からナイフを取り出した。
刃渡り十五センチあるかないかのもの。
あちらの世界の日本だと、職務質問されたなら逮捕されてしまうサイズだろう。
帯剣の許されているこちらの国ならそういう心配はない。
「このあたりをこう、残して、ここからズバッと切ってしまう。よし、こんな感じでしょ」
研いだ包丁ほどではないが、それなりによく切れる。
だから薬草を切る程度であれば不便はなさそうだ。
薬草を手のひらに乗せて、握らない程度に意識する。
僕が一番イメージしやすい言葉がやはり『格納』だった。
今現在、魚の串塩焼きが収納されている場所。
その場所へ送り込むようにイメージをして『格納』と口ずさむ。すると、
「あ、消えた。えっと」
そのまま手のひらを上にしておいて、
「『薬草一つ』」
すると、『格納の術』で格納したばかりの薬草が姿を現した。
「おぉおおお。これは凄い。とにかく次いってみよ。『格納』。うん、ちゃんとできてる」
『格納の術』はなんとか使えているようだ。
これだけ短期間で使えるようになったのは、持続させる術ではなく、発動時だけのこつをつかめばいいからなのかもしれない。
とにかく僕は、次の薬草を探すようにして、西へと歩いていくことにした。
薬草を探して、それなりに遠いところまで歩いてきた。
おそらくだが、薬草は自生してはいるが、群生はしていないように思える。
もともとそういう性質なのか、それとも採取されてしまったのかはわからない。
これまで見た感じ、薬草は二株以上生えてることがなかった。
手引き書にはそんなこと書いてないから、わからなかった。
そういうのはきっと、やってみて覚えるものなのかもしれない。
「こんなとき、漫画にありそうな鑑定のスキルなんて持っていたら便利だったんだろうけどね」
そうぶつぶついいながら探していると、やっとみつけた薬草一株。
そっと摘み取って『格納』する。
うん、今度も問題なく発動している。
その後僕は、街道沿いの浅いところは探さずに、山の麓に近い深い位置にあるものを探していった。
薬草を見つけては、丁寧に採取して取り込んでいく。
それを何度繰り返したかわからない。
正直疲れるという感覚に疎くなってるからかもしれない。
だからどこで一区切りをつけたらいいのかも半端な状態になっている。
途中、お腹が『くぅ』と鳴った。
ここでやっと、お弁当を食べて一休みしようという気になった。
時計を持っていないのは、こういうときに困ると思う。
僕はスマホを持ち歩いてたから腕時計をつける習慣がなかったが、もしつけていたとしてもあちらに置いてくることになったのだろう。
こっちに連れてこられたときは、全裸だったみたいだからそれは仕方がない。
今日のお弁当は、鶏の肉を焼いたものと葉野菜を挟んだパン。
甘塩っぱいソースがかかっていて、前に食べたとき美味しかったから今回も買ってみた。
「うん、美味しい。でもあれだよね。やっぱりもう少しお金を貯めてさ、時計買わないと不便だよね」
『そうだな。時計はあったほうがいいとオレも思う』
「あ、」
危うく言葉にして、阿形さんに返事をするところだった。
(阿形さんおはようございます。昨日、遅かったんですか?)
『辺りに人の気配はない。声に出しても大丈夫だと思うぞ』
そう言うと、阿形さんはゆるキャラっぽいデフォルメタコさん形態で姿を現した。
彼が言うからには本当に、辺りに人はいないのだろう。
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
『昨日はつい、遅くなってしまったんだ。眠ったのが朝方だったものでね。これまで困ったことはなかったかな?』
「はい、大丈夫です。『格納の術』もうまく使えています。あ、お腹空いてないですか?」
『あぁ、何か食べたいところだな。魚の串塩焼きが残っていたかと思うのだが』
「えっと。魚の串塩焼き。お、出た出た」
『ほほぅ。うまく使えるようになったんだな。ではいただこう。……うん。それなりだが、美味いな。もう一本いいかな?』
「はい。えっと、んー。はいどうぞ」
『助かる。……うん。ごちそうさま。なになに? これが薬草、なのかな? かなりの数が入っているようだが』




