第六十五話 阿形さんのちょっとしたお願い。その2
阿形さんから説明を受けた感じでは、食べた物と『他食の術』で取り込んだものは基本的に扱いが違う。
食べた物は阿形さんの血肉になって、『他食の術』で取り込んだものは瞬間的にマテリアルにするそうだ。
『他食の術』と『格納の術』、双方とも取り込む空間は同じだが、前者はマテリアルに変換して、後者はそのまま保管されるとのこと。
地球にいたとき、取り込んだマテリアルは基本、船に置いてあったたそうだ。
それでもある程度は持ち歩いていたとのこと。
あの日、僕がビルから降りたときは、あのとき持っていたマテリアルを使って、僕に怪我がないように蛸腕で守ってくれていた。
だから召喚術式でこちらへ強制的に連れて来られた際、マテリアルをほとんど失ってしまったとのことだ。
(阿形さん)
『あぁ、今は三時少し前あたりだな』
(時間を聞こうとしたのを、よくわかりましたね)
『付き合いが長いからな』
阿形さんが、『格納の術』で時計を取り込んでいるおかげで、彼に聞けば今は時間がわかる。
けれどもう少し余裕ができたら、時計の魔道具を買おうかと思ってる。
銀貨五枚するから買うことはできるけれど、まだちょっと手を出しづらい。
魔道具って案外高級品なんだなと思った
『さて、ささっと終わらせて帰ろうかね。あと半分もしないうちに必要分は集まると思うから』
(はい)
僕はお昼ごはん前と同じように、ひたすら西へ歩いていった。
▼
『一八くん。五時を回ろうとしている。そろそろ終わろうか?』
(もう必要分は集まりましたか?)
『あぁそうだな。つきあってくれてありがとう』
阿形さんは蛸腕を二本出して、『飛翔の術』により吸盤のようなところから水蒸気の混ざった風を噴射するようにして低くホバリングする。
そのまま東へ水平移動してくれた。僕が歩き始めたあたりまであっという間に到着。
着陸すると、蛸腕をしまいこんだ。
『この辺りで大丈夫だろうか?』
(はい。ここなら近いですからね)
僕は南にある街道へ歩いていく。
街道に出ると、道に沿って東へしばらく歩くと外門に到着。
係の人に首から提げた身分証を見せて王都の中へ。
今日は朝からソルダートさんがいなくて残念だった。
昨日はいたからきっと、休みの日なのかもしれない。
『そうそう。さっきの串塩焼きだが、美味かったから買って置いてくれないか?』
(ちょっと見に行ってみますね)
『ありがとう』
僕は食品を扱う商店の多い地区に足を伸ばした。
すると、いい匂いが漂ってくる。
これは間違いなく魚を焼く匂い。
ここは海沿いではないのに、こういうものがあるのは珍しいなと思った。
でも商材の種類や珍しさをアピールする方法だと知ったのも、後からだった。
道標亭の晩ごはんが魚のときもあるけれど、毎日ではない。
肉料理が三で魚料理は一の割合だろうか?
輸送の際に冷やすための魔道具を使っていると聞いたことがあり、海が遠いこの王都で海の魚介類が食べられるのは、おそらくは魔道具のおかげなのだろう。
海まで阿形さんに飛んでもらった感じ、一番近い場所であれば一時間ほどで海が見えてくる。
ここの国と取引のある港だと、どれくらいかかるだろうか?
どちらにしても、馬車なら二日以上かかるだろう。
阿形さんに飛んでもらえば、それほど遠く感じない。
馬車の速度の数十倍で飛べる阿形さんはある意味チートなのかもしれない。
「あ、その串塩焼き、五本全部ください」
「まいどあり」
僕は銅貨と引き換えに、串塩焼きをもらう。
そのまま鞄に入れるふりをして、『格納』と呟く。
うまくいけば僕でも『格納の術』が発動する。
失敗してもそのタイミングで阿形さんがフォローをして『格納の術』を使ってくれるわけだ。
そんなとき阿形さんは『何事も鍛錬だ。気にすることはない』と言ってくれる。
そういえば料理を教わっていて失敗したときに、よく父さんにも言ってもらえた。
阿形さんはもう、そんな存在だったわけだ。




