第六十一話 迷宮の近くまで。
王都へ抜ける街道の分かれ道から、しばらく北へ歩いていると、道の西側に何かが見えてくる。
近づいていくとそれは、町にも見える場所。
シファリアさんに聞いていた、迷宮の入り口にあるという町みたいなところ。
それがおそらくここがそのようだ。
僕の目にはよく物語にありそうな、宿場町のように見えている。
(あ、馬車が出てきました。おそらく王都に向かってるんでしょうね)
『あぁ、そうだろう』
こっそり村らしき場所に入ってみる。
そこはやっぱり漫画などで読んだことがある宿場町みたいな感じだった。
ただ違うのは、街道沿いにあるとはいえ、バカでかい山肌にべったりと寄り添う感じにこの場所は作られていた。
(阿形さんあれ)
『……あ、あぁ。これは驚いたな。実に興味深い』
それは知らない僕たちには違和感でしかなかった。
何の変哲もない山肌にきっちりと作り込まれている神殿のような入り口。
天井も壁も床も石造り。
まるで大理石のような滑らかな石材。
そこに冒険者さんと思われる人たちが数人単位で行き来している。
(あれが迷宮の入り口なんですかね?)
『おそらくはそうなんだろう。それにしてもだな』
(はい。王都の舗装技術よりも上ですよね)
『あぁ、まるであちらの世界で見た、高級なホテルの床材に負けていないな』
そう。
僕たちが元いた、日本のホテルみたいな滑らかな床に負けず劣ろずというところだろうか。
ただ違うのが、入っていく人たちは旅行者やビジネスマンではなく、腰に剣を携えたり、弓や槍を持ったり、杖のようなものを持っている。
見た感じおそらくは冒険者さんたちなのだろう。
(あ、入り口で身分証を確認してますね)
僕が冒険者ギルドで手に入れた身分証と同じものを見せてから、冒険者と思われる人たちは迷宮へ入っていく。
『おそらくは低い等級の者が紛れ込まないようにしているんだろうな』
(僕みたいな人が入らないようにですね)
あたりを見回してみた感じ、僕のような初心者と思われる冒険者の姿はない。
それでも、何かの間違いで迷い込まないように注意しているのだろう。
『あぁ』
(あの杖を持った人って、もしかしたらイヴさんみたいな、魔法使いさんじゃないんですか?)
『確かにイヴ殿は魔法と思われるものを使っていた。迷宮へ向かった者もあの様相では、杖を使って肉弾戦をするようには見えないからな』
僕の住んでいたあちら側で、インターネットの動画サイトで見たものの中に、杖を使ってそれで打ち合う武術もあった。
だから一概に、あの杖で戦わないということはないのだろう。
だが阿形さんが言うように、これまでの彼の長年の知識から、そうではないだろうと言い切れる何かがあったのだろう。
(そうですよね。冒険者ギルドに行ったらシファリアさんに、魔法や魔族について聞いてみようと思います)
魔族だというイヴさんのように、人間にも魔法が使える人がいるかもしれない。
もしそうなら、魔力のある僕にも使えるようになるかもしれないと思ったからだ。
『そうだな。元の世界に帰るために役立つ知識であるなら、手に入れるべきだろう』
ざっと見て回った感じでは、この村は宿場町というより迷宮のための拠点みたいなものらしい。
剣などの武器の修繕を行う鍛冶師や、補給物資などの商店。
小さいけれど酒場や宿屋などもある。
ここに来る際にみかけた馬車は、物資の輸送や冒険者さんたちが乗っているようだ。
誰も歩いてここまで来る人はいなかったこともあり、王都からは馬車で来るのが普通なのだろう。
一通り見終わると、無理をしないで僕たちは王都へ戻ることにした。
ただ潜ってそっと見て回るだけならば、『隠形の術』を使えば比較的安全に行けると僕は思っている。
だが、イヴさんのように匂いで『隠形の術』を看破する魔物がいるかもしれない。
同時に、匂いでなくとも、看破する魔法があるかもしれない。
そう思うと、無闇やたらに入るのはどうかと思う。
その辺は阿形さんも同じ考えのようだ。




