第五十七話 魔族ってどういう?
垂れ気味の目元に見え隠れする深紅。
ハニーブラウンの巻き毛質の髪に頬も色白。
顔の造りもふんわりおっとりしていて、僕に優しげな眼差しを向けてくる。
確かにイヴさんの瞳の色は、この世界に来てから初めて見る色だ。
「詳しく説明したいところだけど、それにはまだちょっと魔力がね、足りなくてね……」
「あ、すみませんでした」
「それよりもね、カズヤさん」
「はい?」
「ちょっとだけで構わないから、痛くしないから」
「はい?」
「首筋は眷属にしてしまう可能性がある、儀式的な『あれ』の意味もあるからするべきではないと思うけど、腕ならそのような心配はないだろうし、きっとそれほど痛くはないと思うからね、そのね」
イヴさんは先ほどの落ち着いた感じと打って変わって、そのおっとりとした見た目からは思えないほど饒舌になっている。
それよりも眷属とはどういうことだろうか?
「いい匂いがね、もう、我慢できないんだ。だからね? ね? お願いだよ?」
僕にすり寄って、壁ドンならぬ木ドンして、僕に迫ってくるイヴさん。
「ななな、何をですか?」
「何をって決まってるじゃないか? 血をね、わけてもらえないだろうか?」
「血、ですか?」
「そう、血液のことだよ。普段は大丈夫なんだけれど、魔力が足りないときにはこう、喉が渇いてしまってね。それに血をもらえたなら、魔力の回復も早くなると思うんだ。これだけ良い匂いがするんだから、とても美味しいんだろうなと思うと我慢ができなくなってしまってだね」
(阿形さん、魔族で、血が欲しいとか、もしかして?)
『あぁ、物語に出てくる吸血鬼、なのかもしれないな。まぁ、カズヤくんのことだ。大丈夫だと思うぞ。……実に興味深い』
(僕の心配じゃなく、そっちですか)
阿形さんは、僕の身体の心配ではなく興味のほうが勝っているようだ。
僕は仕方なく、右腕の袖をまくった。
「わかりました。はい、どうぞ」
「い、いいんだね? やっぱりやめたとか、言わないよね?」
「言いません。どうぞ」
花が咲いたような笑顔を見せるイヴさんは、両手で僕の腕を支えるように、まるでハンバーガーを頬張るかのように、大きく口を開ける。
するとそこには、八重歯よりも少し立派な、犬歯に似た牙が姿を現していた。
「ありがとう。では、いただきます」
ぷつっと、採血をするときのような刺す痛みがあった。
そのあとすぐに、柔らかいイヴさんの唇と舌の感触がとてもくすぐったくて、彼女の髪がからなんだかいい匂いがして、ちょっとだけ落ち着かない気持ちになってしまう。
イヴさんは夢中でこくり、こくりと喉を鳴らし、僕の血を飲んでいる。
僕の腕から口を離さず、呼吸は鼻で行っているようにも見える。
そんなに僕の血は、彼女にとって美味しいものなのだろうか?
かなりの血が出ている感じがあるのだが、貧血のような症状になったりしない。
おそらく斬られて目を覚ましたあのときのように、僕の身体には造血作用もあるのだろう。
飲まれては増えてを繰り返す感じが続く。
採血どころか献血何人分飲まれたのだろうか?
するとやっと、イヴさんの唇が僕の腕から離れていく。
「――ふぅ。ごちそうさまでした。美味美味絶品。いいねいいね。魔力が一気に回復してきた感じがするよ。いやいやこれほど素晴らしい血に巡り会えるとは思っていなかった。できることなら眷属に迎えたいところだけど、あたしにはまだ眷属がいないからその、だね……」
何やら頬を染めて、もじもじし始めるイブ。
するとすぐに何かを思い出して僕の腕を見るんだ。
「あぁすまないね。でも大丈夫。あたしの唾液には治癒を促す――おや? 傷がもう埋まっているじゃないか?」
「あ、はい。僕、傷の治りが早いんです、……あれれ?」
「どうしたのかな?」
そういえば、僕の腕に蕁麻疹が出ていない。
もしかしたらイヴさんは女性ではないのだろうか?
「僕、女性に触れられたところが痒くなる体質を持ってるんですけど、イヴさんが触れたところは違うんです。もしかしてイヴさんって男性だったりし――」
「これでもあたしは女だっ!」
イヴさんから食い気味に怒鳴られた。




