第五十五話 軟禁部屋か、座敷牢か。
部屋の中にはベッドがあって、柔らかそうなマットレスのようなものも敷いてある。
テーブルもあるし、壁を見ると扉があるから、もしかしたらトイレもあるかもしれない。
だが向かい側の壁にある窓には鉄格子がはめられている。
こちらとあちらの鉄格子さえなければ、まるでちょっと高級な宿屋の部屋みたいな感じもする。
(これって、牢屋。……なんでしょうか?)
『おそらくは幽閉などに使われるんだろう』
僕は部屋を出てくる。
右を見ると、ずっと同じような部屋が続いている。
共通して言えるのは、どこも薄暗い。
突き当たりは右へ折れる通路になっている。
その先は、ここと同じような造りになっているのだろうか?
阿形さんは気配を感じることを出来ても、位置までは特定できないらしい。
だから、僕たちはひとつひとつ確認しながら進んでいく。
突き当たりまで来ると、道なりに右へ折れていく。
右に折れて一つ目の部屋に入ったときだった。
『一八くん』
(はい、僕にもわかります。誰かいますね)
ベッドの上に体育座りのように膝を抱えて座る女性の姿。
彼女の右腕には、赤く鈍く光るものがはめ込まれている、見覚えのある腕輪が填められていた。
(阿形さん、あの魔道具)
『あぁ。そうだな。いただいた魔道具と同じものだ。違いがあるとするなら、石の色が赤黒いところだな』
(そうですね)
『なるほど。あれは魔力を吸い上げて、石へ蓄積させていたのか』
(はい、おそらく――え?)
『どうしたんだ。一八く――これはどうしたことだ?』
座っている女性がいつの間にか、身体ごとこちらを向き、じっと僕たちを見ている感じがする。
ゆっくりと彼女は、力なく少し頭を傾げたようだ。
見た目は若い女性、というより少女、のようにも思える。
「そこに誰か、……いるのかな?」
力なく、絞り出すような声だったが、間違いなく僕たちに向けられた言葉だ。
(阿形さん、僕たち以外の気配って?)
『いや、この建物には、入り口の衛兵以外は、この女性の気配しか感じられない』
阿形さんの言うとおりなら、彼女は間違いなく僕たちに、いや僕に話しかけてきているようだ。
「そちらからね、とても、いい匂いがするんだ。あたしにはわかるんだよ。この目に見えなくても、耳に聞こえなくてもね。匂いだけは嘘をつかないから」
まるで姉さんのときのように、『隠形の術』の弱点である匂いに気づかれてしまっている。
『さて、どうする? 一八くん』
(助けましょう。阿形さん、鍵、お願いできますか?)
鍵はかかっている。だが、阿形さんなら難しいことはない。
『あぁ、構わんよ』
阿形さん何の苦労もなく、蛸腕を鍵穴に忍び込ませるとあっさり鍵は開いてしまう。
僕は鉄格子のある部屋へ入っていく。
すると、彼女は僕のいるはずの空間を目で追っている。
間違いなく匂いで、僕の位置を把握しているのだろう。
「あたしはほら、これのおかげで、魔力が枯渇状態にあるんだ。だからね、四肢に力が入らなくて、身動きがとれないんだよね」
そう言って彼女は右腕を力なく上げてみせる。
僕はその隷属の魔道具をつけられた右腕を受け取る。
すると彼女の姿も『隠形の術』の効果効果に入ったことで、僕たちと同じように消えてしまう。
同時に、僕の姿が彼女の目にも、見えるようになったのだろう。
「おや? 男の子だったんだね?」
「はい。その、歩けますか?」
「支えてくれたら歩けると思うけれど、ね。試してみない、と、わからない、かな?」
「それなら失礼します」
僕は彼女を抱き上げた。
「いやいやいや、……支えてくれるだけで構わないんだけど」
彼女は、何やら恥ずかしそうにしている。
「暫くは、お静かにお願いします」
「あぁ、わかったよ。ありがとう」
「いえ。まずは、脱出することに集中しましょう」
牢屋と思われる部屋から通路を抜けて、階段を降りて一階へ。
あとは衛兵のいる入り口だけ。
それでも僕たちの気配にも存在にも気づくことはなかった。
拍子抜けするほどに、あっさりと通り抜けることができてしまう。
僕に抱えられている彼女も、僕と衛兵を交互に見て不思議そうにしていた。




