第五十四話 目的のもの。
僕たち最初に見つけた部屋の扉には鍵がかかっていないようだった。
もちろん、僕ではなく阿形さんが蛸腕を使って開けていく。
これは僕の指紋が残らないようにするためである。
(何ですかね? 衣類部屋でしょうか?)
『もしかしたら、奴隷となっている人のためのものだろうか? それとも、使用人のためのものだろうか? どちらにしても、貴族が纏うような派手なものではないように思えるな』
(そうですね。正直僕には、どちらとも判断はできません)
最初に入ったこの部屋からは魔道具が出てくることはなかった。
そうして、扉を開けては探して繰り返していたとき、鍵のかかっている部屋をみつけた。
阿形さんにかかってしまえば、鍵はあってないようなもの。
鍵は思ったよりもあっさり開いた。
中に入るとそこには、阿形さんが求めていたものがあった。
『ここが当たりだったようだな』
(はい、これはなんとも……)
収納棚のようなものがあって、『隷属の魔道具』と、その鍵となる鞭が一緒に保管されていた。
よくみると、鞭の柄を外すと、鍵になっているみたいだ。
『やはり鞭と魔道具は対になっていたんだろう。なるほど、興味深いな』
阿形さんは蛸腕にとって眺めている。
けれど、あのときとは一つだけ違っている部分が僕にもわかった。
それは、填められている石のようなものの色が無色半透明で、赤黒くなっていないことだ。
『違いを調べるのは後でもいいだろう。さて……』
この部屋で、魔道具が収納されていると思われる引き出しは二十四あった。
(どうしますか?)
『ここにあっても、人のために使われるとは思えん。それならここに置いておく必要はないだろう。……そうだな、どうせなら、この部屋にある書類の類いも全ていただいていくことにしようじゃないか』
阿形さんの声が楽しそうだ。
阿形さんなりに何かしら、腹に据えかねていたものが出てきてるんだろう。
『全ていただく』、それは僕も同じ意見だったからである。
(そうですね。残しておいてもろくな使われ方はしないでしょう)
阿形さんは蛸腕を伸ばして、もの凄い速度でこの部屋にあるものを『格納の術』で取り込んでいく。
二分ほどで、まるで引っ越し前のような状態になってしまった。
部屋を出てすぐに、阿形さんは鍵穴に蛸腕を差し込んだ。
(何をしたんですか?)
『あぁ。鍵の内部をな、少しだけ癒着させておいた。水辺が近いからな。こういうこともあるだろう? これで開けるのに少し手間取るくらいだろうか。まぁ、ちょっとした嫌がらせみたいなものだがな』
(あはは)
『さて、目的のものは手に入ったんだが、魔道具関連の資料がないか探しておきたい』
(わかりました)
続けて僕たちは一階を探し続けた。
魔道具に関連する資料らしきものが残っていないか探してみたのだが、これといってめぼしいものが見つかることはなかった。
『さて、一階は全て探し終わったようだが、どうする?』
(はい。僕は阿形さんが言ってた『動かない気配』が気になってしまうんです。もしかしたら僕みたいな……)
『わかっている。とりあえずは見るだけだぞ? あとは状況に応じて考えよう』
(はい。ありがとうございます)
僕たちは階段へ近寄ってみた。
それは、地階と上に続くものだった。
『地下に気配はない。上の階にひとつだけ気配がある。だがその気配は、オレたちが入る前から動いていない』
(わかりました。上へ行ってみましょう)
僕は阿形さんが言うように、階段を二階へ上がってみる。
ここは三階建てのようで、その二階にさしかかったときだった。
『一八くん。この階に動かぬ人の気配があるな』
(はい)
通路がまっすぐ延びていて、左右に部屋がある。
どこも内開きの扉があり、開け放たれている。
一番手前の部屋を覗くとそこは、一メートルくらい入ったあたりに牢屋のような鉄格子がある。
だがなにかおかしい。
牢屋のわりには、見た感じ掃除が行き届いていて清潔感がある。




