第五十二話 男爵領に到着。
『もしだぞ? 対象の魔力を吸い上げる。衝撃を加えることで激痛を与える。この二つの機能しかないものを「隷属の魔道具」と呼ぶのであればな』
「はい。あと、『どうでもいいや』という気にさせるような効果もあったと思います」
『なるほどな。それにしても、だ。あまりにも粗雑すぎる。とても「召喚術式」とやらを編み出した国が作ったものとは思えない』
「確かにそうかもしれません」
『だがな、粗雑だからこそつけいる隙もあるだろう。だからこの機会に手に入れて分解したい。そうして、オレも知らないファルブレストの技術力を手に入れるたいところだ。どのような形状のものかは知らんが、いずれオレたちは「召喚術式」を手に入れるだろう。そのときそれを、オレが読み解くことさえできれば、その「召喚術式」に対する「送還術式」がなかったとしても、なんとかする術ができるだろうからな』
無の状態から宇宙船を作り上げてしまう阿形さんだからこそ、こういうときはとても頼もしく思える。
『とはいえ時計の魔法陣ですら、まだ読むことすらできないでいるんだ。実に情けないところではある』
「それはきっと、言語理解のある僕にも読めませんよ」
『なるほどそうか。一八くんが一緒なら、文字単位、または部品単位での解析が可能かもしれない。そうだな、その手があったか。試して見る価値はある。実に興味深いな』
そういえば僕はその魔法陣を見たことも読んだこともない。
もしかしたら、何かしらのヒントを手に入れることが可能なのだろうか?
阿形さんと雑談をしながら、石壁のようなもので囲まれた、ブルガニール男爵領の領都らしき部分の上空を抜ける。
海に近い場所まで来ると、塩田のある浜辺から少し離れた場所で阿形さんは着地してくれる。
『街道沿いは外門があり、衛兵などもいるだろうな。もちろん、港にも出入りを管理する場所はあるだろう。だが、塩田にはないように思えるが』
(そうですね。このまま姿を消していきましょうか?)
『あぁ、そうすることにしよう』
『格納の術』により取り出した地図は、『隠形の術』を使っている僕たちの衣類と同じように透明になっている。
だが、僕たちにはしっかりと地図として見えている。
港の位置や街道の位置を見る限り、ブルガニール男爵領で間違いないだろう。
僕は地図を鞄にしまう感覚で、『格納の術』で取り込んだ。
実に便利な術だと思う。
塩田近くに降りてもらったから、付近には人はあまりいない。
だが、港には交易でやってきたと思われる商船が停泊している。
だから船員などがそれなりの数がいるようだ。
『町中へ入る前にだな、腹ごしらえをしてから、調査に出ようじゃないか?』
(はい)
女将さんから持たせてもらった二人前の弁当。
軽くボイルされた葉野菜と、ローストされた薄切りの肉がたっぷりパンに挟んである。
飽きのこない濃い味付けで、それを僕らは一人前ずつ食べている。
『美味いな』
(はい。美味しいですね)
『いいな。飯が美味いというものは』
(はい。嬉しいですよね)
前にファルブレスト王国へ潜入する際は、あの『無味無臭魚肉たんぱくブロック食品』を食べていた。
こうしていると、食生活だけは安定したなと改めて思った。
風も陸から海に向かって吹いている。
人のいる地区までは距離があるから、弁当の匂いは届かないだろう。
もし風向きが変わったとしても、町中にもそれなりに食べ物を売る店があるだろうから、あまり気にならないはずだ。
食事も終わり、残った容器などは使い捨てだった。
だがそれを捨てることなく、阿形さんが『他食の術』を使ってマテリアル化してくれた。
(そういえば阿形さん)
『どうした? 一八くん』
(部屋で台帳を読んでいたときに、ブルガニール男爵領から収めていたものは、塩以外もあったんです。それは何やら魔石と書いてありました)
『ほほぅ。確か魔石が手に入るのは迷宮のはずだ。位置的にはかなり離れているはずなのだがなぁ。どうやって手に入れているのだろうな? それはそれで興味深い』
塩田らしき場所の手前を通り抜け、男爵領の領都と思われる、出入管理をしている外門へ到着。
ここにもまた剣や槍を携えた兵士らしき男性二人。
けれど僕たちは既に『隠形の術』を発動し終えている。
だからあっさり素通りできてしまった。




