第五十一話 僕が売られる予定だった場所。
南にしばらく歩くと外門が見えてきた。
今日はこの国の衛士であり、入国管理担当のソルダートさんがいる。
「こんにちは。一八です。薬草採取のため少し遠くまで行ってきます。遅くとも明後日には戻る予定です」
そう言って僕は、首元から革紐に下がった外して身分証を見せる。
「丁寧にありがとう。それでは気をつけて行ってきなさい」
「はい。いってきます」
身分証を首にかけ直して僕は外門から出て行く。
(そういえば、シファリアさんが『数日かけて遠くへ遠征する人もいる』って言ってましたけど)
『言ってたな』
(ソルダートさんの感じでは、そうする人が案外少なくないみたいですね)
『あぁ、そのようだな。おかげでオレたちも数日いなかったところで、怪しまれないで済むというものだ』
そのまま東へ向かう街道を歩いて行く。辺りに人の気配がないのを確認して、
(――『『隠形の術』』)
別に口に出さなくとも、頭に思い浮かべ、どうなってほしいというイメージを強く持つだけで、僕も阿形さんたちの術が使える。
魔力が枯渇状態だったあのときと違って、僕の身体は問題なく辺りと同化して目に見えなくなっていた。
(あのときはやはり、魔力が切れていて術が使えなかったんですね……)
『なるほど。「あのとき」だな? 基本的にオレたちの術は、魔力ありきだからな。枯渇したときに術を行使する検証はしたことがなかった。なるほど実に興味深い』
姿を消して、しばらく行ったあたりのこと。
(それじゃ、お願いします)
『あぁ、わかった』
僕の身体の中にいる阿形さんに『飛翔の術』をお願いした。
すると、少し周りに風が舞うような感じが起きると、僕の身体はふわりと浮きはじめる。
さすがは阿形さんの『飛翔の術』だ。
あっという間に空へ上がっていった。
街道に沿って東へ向かう。
前と違って、今回は阿形さんは全力で飛んでくれている。
ほぼ全力、前にスマホのGPSで測ったとき、時速二百キロほどだったと思う。
風の影響を考慮して、阿形さんはマテリアルでシールドのようなものを出してくれている。
だから目が乾燥して辛くなるようなことはなかった。
しばらく飛んでもらっていると、なんとなく見覚えのある景色。
街道が少しだけ雑になっているような感じがする。
おそらくこの先辺りが国境なのだろう。
国境だからといって、関が設けられているわけではない。
ただ、街道の整備にこちらの国側の手が入らない部分が出てくる。
そういう意味なのだろう。
「阿形さん。そろそろですね」
『あぁ。このまま徐々に南へ進路を変えよう』
上空どれくらいの高度かはわからないけれど、街道を外れて南の海側へ向かってくれてる。
海はまだ見えてこないけど、そのうち林の切れ目があるはず。
確かそんな感じに、地図にはブルガニール男爵領があった。
ファルブレスト王国の南西、海側にはそこしかないことも記憶していた。
『現在十一時を過ぎたあたりだ。確か、王都を出たのが十時くらいだった。なるほど、西側はこれくらいの広さなんだろう』
前にソルエール王国へ来る際は、町を探しながらだったこともあり、速度はそれほど出していなかった。
だが今回は地図があるから位置関係ははっきりとしている。
阿形さんがそれなりの速度で飛んでくれていたとしたら、ソムルエール王国から二時間もあればファルブレストまで到着できるだろう。
阿形さんがタコマテリアルで僕の全身を保護してくれているから、彼が全力で飛んでもそれほど苦しくはない。もちろんしっかり呼吸もできてる。
『そろそろ林が切れるころだろうか?』
「はい。しっかり見ておきます」
僕が見ておくのは、どこに町があるか。
阿形さんとは持ちつ持たれつ。
任せっきりにするわけにいかないからである。
「あ、南へ向かう街道もありますね」
『その先に、目的地もあるはずだ』
「はい」
返事をしたつい今し方林を抜けた。
街道の先には、港町が見える。
おそらくそこが、ブルガニール男爵領なのであろう。
『塩田らしきものがあるな』
「はい、ですがおそらく」
『塩の生産だけでは領地経営などはできないだろう。交易が主な収入か、それとも……。まぁ、オレにはそんなものに興味はない』
「そうですよね。阿形さんの目的はおそらくあれですね?」
『そうだ。オレの目的はここに必ずあるはずの』
「はい」
『あぁ。「隷属の魔道具」そのものだ』
僕が思った通りだった。
阿形さんが欲しがっていたのは『隷属の魔道具』なのである。




