第五十話 阿形さんからの提案。
「僕もちらっと聞いただけですけど、なんでもあっちは奴隷制度があるとか?」
「あぁ、はい。私も聞いただけの話ですが、あちらは税が厳しいらしく、生まれた子供にもかかるらしいのです。それで税が払えない場合は、そういうこともあるそうでして……」
僕が質問した途端、シファリアさんの表情が曇ってしまった。
これはまずいような気がする。
「そういうことだったんですか」
「この国は違いますよ? 奴隷制度なんてありません。税も厳しくないです。もちろん、後から税を納める必要がないように、カズヤさんたちの報酬からも、ギルドの報酬と税の分をですね、少しずついただいているんです」
『なるほどな。拠点とするなら、この国で間違いはなかったということなのだろう』
(はい。そうですね)
「なるほど、そうなんですね。ありがとうございます」
「いえいえ。頑張ってくれているカズヤさんですものね。あ、これなんですが、よろしければお持ちください」
小さな手帳みたいなものだった。
中を見ると何やら綺麗な絵が描いてあって、説明書きがあった。
「カズヤさんはまだ薬草の採取をされていなかったので、お渡ししていませんでした。これは採取できる薬草などを記した手引き書のようなものです。参考になると思いますので、どうぞお持ちください」
「ありがとうございます。ぜひ読ませていただきますね。では、明日またお邪魔しますね」
「はい。お疲れ様でした」
ファルブレストや迷宮のことなど、詳しい話を聞けてよかったと思った。
僕たちはシファリアさんにお礼を言って今日は帰ることにした。
僕は冒険者ギルドを後にする。
どうせあのまま受付で粘ったとしても、シファリアさんは僕に依頼を受けさせてくれなかったはずだから。
『なかなか有意義な話が聞けたな』
(はい、そうですね)
『ファルブレスト側もまた、迷宮の探索をしていた可能性が高い。もちろん、魔物を倒せば相応の利益が望める。だが何らかの理由で、一八くんような外の人間を攫うようにして召喚術式を使ったのかもしれないな』
(そうかもしれませんね)
『あぁ。昔から、火のない所に煙は立たぬというが、これだけ毛嫌いされるのは、それだけの何かをしたのだろうな』
阿形さんが、ここまで誰かのことを厳しく言うのは珍しい。
だから正直僕は、驚いている。
僕と違って、阿形さんがこちらで目を覚ましたのは、ファルブレストの外だった。
だから直接目にしたわけではないはずなのに、かなり腹を立てているみたい。
それはそうだろう。
大事な吽形さんと離ればなれになった原因でもある。
僕もそうだ。千鶴姉さんたや、母さん、父さんたち、家族と離ればなれになってしまったのだから。
まだ時間は昼前にもなっていない。
早々にギルドの受付から追い出されてしまったのだから仕方のないことだろう。
(そういえば、依頼を受けさせてもらえなかったから、何もやることがないですね)
『あぁ、そうだな。それならオレに提案があるんだ』
(それってどんなことですか?)
『そうだな。今現在は、以前よりも資金的に余裕があるかな?』
(ありますね)
『そこでだ。例の地図にあった、ブルガニール男爵領とやらへ調査に出たいと思うのだが、どうだろう?』
(あ、なるほど。それはいいと思います)
『もしかしたら帰りは明日、いや、明後日になるかもしれない。最低限、女将殿へ伝えておいたほうがいいかもしれないな』
(わかりました)
僕たちは早速、食料などを買い込んで一度部屋に戻った。
もちろん女将さんに『明後日には遅くとも戻ります』と伝えておいた。
「なるほどね。気をつけて行ってくるんだよ」
気持ちよく見送ってもらえた。
なんとその際にお弁当を持たせてもらった。
それも二人分。
確かに助かるが、僕はどれだけ食べると思われてるんだろう?
なるほど、阿形さんの分を、毎回おかわりしていたからかもしれない。
『地図によると、ブルガニール男爵領はファルブレスト王国の南西、海沿いにあるんだったな?』
(そうですね。もしかしたら、あのときの塩はもしかして?)
地図で見る限り、海沿いにある領地はブルガニール男爵領だけだった。
台帳を全部見たわけじゃないからなんとも言えないが、おそらくそうなんだろうなと思う。
『あぁ、そこで作られている可能性もあるだろう』
阿形さんも同じ意見だったみたいだ。
そうして僕たちは準備を終えて道標亭を出ることになった。




