第四話 揺られ揺られて。
「……ん? あれ?」
何やら揺れている。
本当ならば、これだけ揺れていたなら普通は起きているはずだ。
それでも寝ていたというのはおそらくだが、それだけ消耗しているということなのかもしれない。
ちなみに僕はどこかの、硬い何かの上に寝ていたようだ。
辺りは真っ暗闇で、目を開けても何も見えやしない。
どうやら僕は、窮屈な場所で壁に沿うようにして横たわっていたらしい。
身体の節々が痛い。
力が入らない。
全身がだるくて仕方がない。
痛みを感じるということは、これもきっと夢ではないのだろう。
(そうだ、阿形さんは? 阿形さん、……阿形さん? やっぱり駄目か……)
こちらの世界へ無理矢理連れてこられる前に、僕と一緒にいてくれた人。
異星人の阿形さんに声をかけてみた。
けれど何の反応もしてくれない。
もしかして、こちらへ召喚された際に、別れ別れになってしまったのだろうか?
そうだとしたら、僕はどうしたらいいのだろう……。
力が入りにくい状態の身体を、僕はなんとか起こして胡座をかく。
左手で右手の手首を触ってみる。するとそこにはあの腕輪があった。
(確か、隷属の魔道具だったっけ?)
あれは酷かった。
これまで味わったことのないほどの、気絶するくらい、とんでもない痛みだったことだけは覚えている。
もしここに、阿形さんがいなかったとしても、僕だけでも何ができるか思い出して、最後の最後までなんとか凌がないとならない。
そうじゃないと、阿形さんに笑われてしまう。
(あれ? そういえば僕、暗いところでもある程度見えたんじゃなかった?)
僕は阿形さんたち眷属になって、彼らの不思議な体質を引き継いだ。
何が変わったのか?
どんなことができるのか?
色々と試したり、調べたりした。
その中に確か、『薄暗い場所でもそれほど不都合なく活動できる』のがあったはずだと思い出す。
だがどうしたことだろう?
どれだけ目を凝らしても、何も見えやしない。
(どうなってるんだろう? 駄目みたいだ……)
僕は『偽装の術』を使えば、ある程度、思った通りに姿を変えることができる。
けれどそれはこの場を乗り切るには、意味がないかもしれない。
『隠形の術』を使えば姿を消すことができるはずだ。
けれど今は暗くてよく見えない。
だから姿を消せているかの確認が難しい。
もし、『隠形の術』を失敗していたとしたら命取りになるだろ。
そう考えると、この術も難しいと思ってしまう。
(あとは、……阿形さんがいないとできないことばかりだよ)
あちらの世界での僕は、罪を犯した犯人が例えナイフを持っていようとも、恐れることなく捕らえることができていた。
だがそれは、阿形さんがいてこそだったのかもしれない。
そう思うと情けなくなってしまう。
(こうなっちゃうと僕って、案外なにもできないんだな。とにかく、立ち上がることも難しいくらいに、身体がだるいんだ。これだけどうにかなってくれたら、走ってでも逃げられるのに)
そんなとき、あることを思い出した。
それはこの『隷属の魔道具』の効果だ。
確かあの侍女は『魔力を吸い上げて大人しくさせる』などと言っていた。
そうするとおそらくだが、この全身を襲う気怠さは、『隷属の魔道具』が起こしている現象なのかもしれない。
僕が阿形さんたちの術を使えないのは、魔力エネルギーが足りていないから。
もし魔力エネルギーが、この世界の魔力と同じなのであれば、術が使えない理由になるかもしれない。
この『隷属の魔道具』さえなんとかできたなら、この状況を打開できるだろう。
少しだけでも前向きになるべく、僕は意識をはっきりもつことを心がけた。
外から聞こえるのは、規則的に何かの軋む音と何かの足音。
僕はダメ元で声を出して呼びかけることにした。




