第四十七話 他人事だと思って。
「カズヤさんと始めて出会ったときからですね、弟と同い年なのに、弟よりもしっかりしていて中身は大人っぽく感じたんです」
シファリアさんは僕の目をじっと見て、ふっと笑顔になる。
「最初は初々しくて、とても可愛らしいな、と思っていました。も、もちろん私だけでなくですね、ギルドの女性職員の中でも評判になっていたんですよ。それが段々と、依頼をこなす度に頼もしく見えてきて、ただでさえ整った顔立ちをしているというのに――」
最初は早口だったのだが、最後の方はもごもごと言い淀んでしまう。
終いには何やら恨めしそうに、上目遣いで僕を見てくるシファリアさん。
「そ、そうですか? あはははは」
『一八くんは、学校でも女生徒に人気があったからな』
(そんなことありませんって)
『謙遜することはないと思うがな。何せほら、千鶴くんが全国的に、美しいと言われているんだ。千鶴くんの従弟とはいえ、二人はよく似ている。こちらの世界は、文化的にも似ているところはある。おそらくは美的感覚も、似ているのかもしれないな。いやはや実に興味深い』
(他人事だと思って酷いですよ)
シファリアさんは自分の頬を両手でかるく叩くと、背筋を伸ばして持ち直したようだ。
「こほん。そ、それはさておきです。五等級になるとですね、王都の外門を抜けて外に自生している薬草の採取依頼だけでなく、普通の獣などになりますが、簡単な狩猟依頼を受けることができるんです」
狩猟依頼という言葉を聞いて、僕は少しだけ嬉しくなった。
なにせ、漫画などで読んだことがある展開だったからである。
「そうなんですね」
「狩猟をする人の中にはですね、数日かけて遠くへ遠征する人もいるんです。その際は気をつけなければならないことがあります」
「それはどういうことですか?」
「ここから東へ街道沿いに進んでいくと、途中、道が少し狭くなっている場所があるんです」
「はい」
「その先には、隣国との国境がありまして」
「はい」
「その先は困ったことに、あの、ファルブレスト王国が存在するんですね」
「ファルブレストですか。僕も話には聞いたことがあります」
(そのファルブレストとは色々ありました。さすがに言えないから誤魔化すしかないんですよね)
『あぁ、あったな』
まさか僕が、殺されそうになって――死んだかどうか、定かではないが――こちらへ避難してきたとはさすがに言えない。
「このソムルエール王国はファルブレストと過去に色々とありまして、現在は隣国でありながら国交を結んでいないのです」
『隣り合わせでいながら国交を結んでいない。それはかなり険悪な間柄だと思うんだが?』
「話を聞く限りですが、詳しく知らない僕でも、かなり険悪な間柄だと思うんですけど? どうなんでしょう?」
僕は阿形さんの感じた疑問を、そのままシファリアさんへ投げかけてみる。
すると、目を閉じて何かを考えたような表情のあと、
「そうですね。なのでできるだけ、国境から東にはいかないようにお願いします。……その、カズヤさんの身に何かあると困りますので」
「それってどういうことですか?」
「国境付近には盗賊も出ると言われています。その盗賊がファルブレストの手による者の可能性も、否定できないものですから」
「なるほどです。わかりました。気をつけます」
「その、まだ、迷宮の周りであれば、冒険者もいると思いますので」
『ほほぅ。こちらでも迷宮があるんだな』
(はい。そうみたいですね)
「迷宮、ですか?」
「はい。この国の北側には、凄く高い山が見えます。ここから東へ行くとですね、その山の麓に迷宮の入り口がありまして、そこは小さな町のようになっているんです。その周囲であれば、冒険者が常駐していますので、比較的安全だと思うのです」
「なるほど、そういう意味なんですね」
「はい。詳しくは、後ほどお渡しする地図にありますので、よく読んで活動する場所をお決めていただけたらと思います」
「はい。よろしくお願いします」
そうしてひとつ僕に会釈をすると、シファリアさんは受付の奥へ戻っていった。




