第四十六話 やらかした?
僕の懐は、数日前と比べてかなり余裕ができてきた。
阿形さんのリクエストもあって、仕事の帰りに『偽装の術』で髪の色や服装、顔かたち、体格も変えて大人の男性として姿を変えた。
そのメカニズムは、僕が『オクターヴ』の姿に変わっていたのと同じ。
千鶴姉さんのように『僕の臭いを知っている』人でない限り、見破ることはできないはず。
そんな状態でもちろん、怪しまれずにお酒を少し買いこんだ。
もちろん、露天で売られているおつまみも忘れない。
その夜から、阿形さんは晩酌を始める。
酒の肴は露天で買った、魚の串焼き。
海のある町から輸送されてきたもので、塩だけを振られたシンプルなもの。
それでも、脂の乗った実に美味しいものだと阿形さんは言っていた。
『いや、たまらないな。まさか、こちらでもこう、酒が飲めるとは思わなかった。ありがとう、一八くん』
「いいえ、どういたしまして」
もちろん、空になった瓶は『他食の術』でマテリアル化したそうだ。
翌朝、僕たちは冒険者ギルドへ、いつもの時間に赴いていた。
「カズヤさん。少しは休んでください」
身分証を登録した日から、七日以上休まずに通っていた。
ただそれだけでなぜか、冒険者ギルドの受付シファリアさんにって呆れられてしまった。
理由は『そうして身体を壊して、やめていった冒険者がいた』からとのことだ。
(そうは言われてもですよね)
『あちらにも「ブラック」という労働環境があったように、こちらの世界にもそういう考え方があるのかもしれないな』
僕は休まなくても疲れることがない身体だったから、気づかなかった。
それに、一日も早く生活できるようになりたかったから、焦っていたのは確かである。だが働き過ぎて注意されるとは思わなかった。
冒険者ギルドって、案外ホワイトな組織なんだと改めて思った。
「それとですね、言い忘れるところでしたが。カズヤさん」
「は、はい。なんでしょう?」
先ほどまで呆れた表情をしていたシファリアさん。
それが急に、いつもの笑顔に戻っている。
「五等級になりました。おめでとうございます」
シファリアさんは、パチパチと拍手をしてくれる。
近くにいる職員さんも一緒に。
それも、椅子から立ち上がって、スタンディングオベーション。
「え? あ、いや、その、はい。ありがとうございます」
するとシファリアさん、右手を上げて後ろを振り向いた。
「すみません。シファリア、説明入ります。受付お願いします」
その報告と同時に、女性の職員さんがシファリアさんのいた場所に入って受付を交代したようだ。
「ご説明しますね。ではこちらへどうぞ」
シファリアさんはホールを右に進む。
四つ並んだ部屋があって、一番左端のドアをノックする。
中から声がしないのを確認して、ドアにあるプレートをひっくり返し、『使用可』から『使用中』に表示が変わった。
その後、シファリアさんはドアをあけてくれた。
「どうぞ、お入りください」
「はい。ありがとうございます」
「カズヤさんはこちらへお座りくださいね」
「あ、はい」
僕はテーブルを挟んで手前の席に座るように促された。
シファリアさんは僕の横を通り過ぎて奥の席へ。
「それでは説明させていただきます。まず、ですね。カズヤさんは新人の冒険者さんとしては、ものすごぉく早い昇級なんです」
「え? そうだったんですね」
「はい。それはもう。カズヤさんは、長い間誰も受けてくれることになかった『塩漬け依頼』を片付けてくれている。それがギルドへの貢献度が高いと認定されたことが要因とも言えます」
僕はそのように、ギルドに貢献したということで、等級が五等級に昇級したとのことを知らされた。
「はい」
僕は日本人の平均身長より少し高いくらい。
座っている状態でこうしてみると、シファリアさんとの身長差がはっきりしてくる。
先ほど歩いていたときも感じたが、彼女の目線が少し低い感じがする。
千鶴姉さんと同じくらい、もしくはもう少し低いのかもしれないと思った。




