第四十五話 牧場のごはんも美味だった。
農場での作業が進み、お昼になるとここでお昼ごはんが出される。
もちろん、農場の施設でお風呂に入ってから。
そうしないととてもではないけれど、体中に染みついた臭いでごはんなんて無理だった。
隣接している施設内にある食堂は、厩舎の臭いなど感じられないほどクリーンな空間。
厨房からはとても良い匂いが漂ってくる。
幸い、食堂でいくらでもお代わりしていいと言われた。
これなら、阿形さんがいても安心だった。
ここは場所柄、肉料理が多いとのこと。
今日の昼ご飯は、パン、サラダ、大白猪のすじ肉の煮込み。
長い時間かけて煮込んでいるようで、軟骨部分がとろりととろけていて、とてつもなく美味かった。
『これはたまらないな。稼げるようになったら、少しだけ酒が飲みたくなる味わいだ』
(余裕ができたら、ご馳走しますよ。こっそり買ってきますから)
僕の姿のままではお酒は売ってもらえないだろう。
だが、僕には必殺技がある、そう、姿形を自在に変化させる『偽装の術』。
お金さえ稼げば、阿形さんのリクエストにも応えられるというものだ。
何度かの一休みを挟んで、日が落ちる手前の夕方まできっちり働いた。
これでなんと、銀貨二枚もらえるらしい。
普通の人からしたら思ったよりも重労働かもしれないが、再生の力がある僕にはどうということはなかった。
ただなにより、臭いがきつい。
だから重労働というよりも、臭いだけで塩漬け依頼になってしまうのだろう。
なぜ冒険者ギルドにこの依頼が来るのかはわからない。
おそらくは、国側も色々とあるのだろう。
(なぜ、冒険者ギルドにこれらの依頼が来るんでしょうね?)
『さぁな。国側にも色々あるのだろう。きっとな』
冒険者ギルドに戻ると、農場で風呂に入ったのだが、薦められたのでギルドでも風呂に入った。
その後に、受付でシファリアさんから報酬をもらう。
あらかじめわかっていたことだけど、本当に銀貨二枚もらって驚いた。
「カズヤさん、ありがとう。本当に助かりました」
「いえいえ、どういたしまして」
「カズヤさんがここに来てくれて、本当によかったと思っています。感謝してもしきれ――」
今日も何やらシファリアさん、感激してたから危なかった。
「いえ、それでは僕、買い物があるので失礼しますね」
僕はシファリアさんに捕まる前に、手を引っ込める。
「あら、そうなんですね。では、お気をつけて。お疲れ様でした」
昨日みたいにならないように、接触しないように気をつけたんだ。
そしたらなんとか誤魔化すことに成功したんだ。
彼女が悪いわけじゃなくて、僕が悪いんだから。
そこは間違えないようにしないいけない。
こうして一週間ほど、汚れ仕事として敬遠されていたらしい塩漬け依頼を受けていた。
幸い僕は、疲れを感じにくい身体を持っているから、単純労働を続けていても心が折れることはなかったんだ。
臭かったのは臭かったけど。
手持ちの銀貨が二十枚を超えた辺りでやっと、女将さんがお金を受け取ってくれた。
けれど部屋代と食事代で銀貨一枚だけで、それ以上受け取ってくれない。
しばらくは『お金を貯めなさい』と言われてしまう。
もう少し受け取って欲しいと言っても、頑なに首を縦に振ってくれない。
女将さんもかなり頑固な性格のようだ。
ちなみに女将さんに銀貨を渡す際、ちょっとだけ手が触れたんだ。
やっぱり出ちゃったね、蕁麻疹がさ。
でもすぐに治まってくれたから助かったけど。
姪御さんのリムザさんが言うには、女将さんはそういう性格だから自分で言ったことは絶対に曲げないそうだ。
だから諦めて受け入れたほうがいいとのこと。
そんな女将さんの人柄もあって、酒場兼食堂の一階は繁盛しているから生活にも困っていないって聞いてる。
『まぁ、好意に甘えるのも必要なことだと思うぞ。オクターヴだったときもそうだが、一八くんは一八くんで、周りの人の役に立とうとしているんだからな』
(ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです)




