第四十四話 厩舎はなかなかどうして。
翌日僕たちは、朝食をご馳走になって真っ直ぐに冒険者ギルドへ向かった。
昨日シファリアさんと交わした約束の通り、僕は『白猪厩舎の掃除の手伝い』の依頼を受けた。
前回の依頼と同じく作業着を支給されたことにより、今回も汚れ仕事だとすぐに理解することができた。
「いってらっしゃいませ。カズヤさん」
そう、笑顔でシファリアさんに声をかけられた。
その上なぜか、他の職員さんも揃って一緒に見送ってくれる。
おそらくそれだけ、放置され続けてきた依頼だったのだろう。
それに何故か、シファリアさんの声には、以前よりも優しげで、声にも気持ちが入っているように思える。
……そう思ってしまうのは、僕の勘違いかもしれない。
そうれほどに、聞き心地の良い背中を後押ししてくれるかのような、シファリアさんの『いってらっしゃい』だった。
ちょっとだけ千鶴姉さんの『いってらっしゃい』にも似てるような気がする。
(何て言うかその、何だかなぁ、とでも言いますかね?)
『あ、あぁ、そうだな』
僕も阿形さんも少し苦笑いしまっていた。
王都中心部からみると、南西に位置するところに国営の農場があるそうだ。
作業着などが入った大きめのリュックを背負い、僕たちは徒歩で向かっている。
しばらく歩いていると、確かに牧場のような場所がみえてきた。
王都の端にあるとは思えないほど、とにかく広い牧草地がある。
王都から離れたその一番外側に、厩舎が建てられている。
そこで飼育されているのが大白猪という品種の獣。
猪のような短い牙を持った、短く白い体毛がびっしりと生えている、豚そっくりフォルムを持つ丸々と育った獣だった。
ただ僕の知っている豚や猪と違うのは、その大きさ。
おおよそ体高が二メートル以上はありそうなこと。
僕の身長では、見上げてしまうほどの大きさだと思われる。
例の阿形さんが見たという、巨大な野犬がいるのも頷けるというものだろう。
ちなみにここで飼育されているのは、この大白猪だけでないそうだ。
厩舎の反対側に位置する牧草地の端のほうで、これまた大きな獣が複数頭見ることができる。
それは、マンモスみたいな牙を持つ、これまた丸々と大きく育った牛そっくりな大牙牛というそうだ。
フォルムは牛なのだが、違う部分は白い体毛が長く、牛のような角は生やしていない。
後でわかったのだが、大牙牛は体腔が三メートル、体長が四メートル以上あるらしい。
大白猪も大牙牛も、地球で見た豚や牛の倍以上はある。
どれも元は魔獣だったらしい。それを飼育して、何代もかけていまの状態になったとのこと。
僕はこの光景を見て、改めてここが異世界なんだなと思った。
大白猪は食肉用の獣で、大牙牛は乳牛の扱いだそうだ。
どちらも餌をよく食べ、よく育つ。
よく食べる分、よく糞をする。
その糞を集めて堆肥にして、農場で根菜や葉菜を栽培しているそうだ。
僕の仕事はその厩舎の掃除ではない。
堆肥にするための加工場へ、敷き藁みたいなものと一緒に糞を運搬するだけの簡単なお仕事。
単純作業なのだが、やはり汚れる可能性が高いのと、臭いがこの依頼を不人気にしている要因なのだろう。
(これは昨日よりはきついですね)
『あぁ、結構くるな……』
なるほど、嫌がられるのがよくわかる。
僕の実家近くでも、牛や豚の飼育がされていた。
とはいえ、ここまで臭いが強烈ではなかった。
昨日のドブ掃除の数倍、臭いがきつい。
これは確かに慣れるまで泣きそうになる。
それは僕だけではない。
阿形さんもかなり引き気味だったからよくわかる。
作業自体は、ちょっとした力仕事だった。
僕のような駆け出しの女性の冒険者では、ちょっと作業的に効率が悪くなるかもしれない。
運搬は昨日使ったリヤカーみたいな台車を使う。
敷き藁ごと糞をスコップで台車に乗せて、ひたすら台車を押して歩くだけ。
決まった場所へ降ろして元の位置へ戻る。
あとは行ったり来たりの、単純作業みたいなもの。
作業手順としては、それほそ難しいことはないと思う。




