第四十話 今のうちに女将さんへ。
手持ち無沙汰になってしまった僕はとりあえず、身分証を手に入れたことなどをソルダートさんにお礼を言いに行こうと思った。
「あ、明日は今日くらいにまた来ますので」
「は、はい。明日もよろしくお願いいたしますね。カズヤさん」
シファリアさんはやっと手を放してくれた。
そのとき彼女が名残惜しそうな表情をしていたのは、気のせいだろうか?
でも助かった。
再生の速度はかなり速い、だから徐々に痒みも治まっていく。
やっと痒みから解放されたのである。
笑顔のシファリアさんに見送られて僕たちはギルドの建物を後にした。
『まぁ、あのような場面だと、男は我慢、しかないだろうな』
(そうなんですけどね……)
この『女性アレルギー』と思われる症状は、もちろん阿形さんも興味を持った。
同時に、漫画家で取材や資料漁りが好きな鈴子先輩も、同じような気質を持っているからか興味を持ったらしい。
人体実験まではいかないが、ほぼ一日どっぷりと、二人に色々と検証作業に付き合わされたことがあった。
僕が鈴子先輩に触れられると、どんなシチュエーションでも必ず『女性アレルギー』の症状は起きる。
だが、僕と同じ体質を持つ男性の阿形さんが千鶴姉さんに触れられても、鈴子先輩に触れてもアレルギー症状は起きない。
となるとおそらくは、阿形さんと吽形さんの眷属となった、僕だけに現れた変異だったのだろう。
鈴子先輩の『ネタにしてもいいかな?』とか、阿形さんの『実に興味深いな』という言葉で、結論づけられて検証作業は終了となった。
そんなことを思い出しつつ僕はギルドの建物を南に進み、突き当たりにある外壁に沿ってしばらく歩いて行くと、外門が見えてきた。
そこにはソルダートさんの姿が確認できる。
「あの、ソルダートさん」
「お、おぉ、君は昨日の少年だね?」
僕を覚えてくれていたようで、笑顔で迎えてくれた。
「はい。一八といいます。昨日はお世話になりました。おかげさまで、身分証を作ることができました」
僕はソルダートさんに、襟元から革紐に吊られた身分証を取り出してみせる。
「それは何よりだった。冒険者ギルドにしたのなら納得だ。うん、無理せず頑張って欲しい」
「はい。ありがとうございます」
「では仕事に戻らせてもらうよ」
「はい」
お辞儀をすると、手を振って応じてくれる。
この世界に来て、この人に最初に助けられた。次は女将さんだった。
人の縁は本当に、大切にしたいと思った。
『世の中、捨てたものではないな』
(はい。そう思います。……あ、お金があるうちに、女将さんに返しておかないと駄目ですね)
『あぁ、そうしたほうがいいだろうな。一宿一飯の恩義に報いる。それは必要なことだとオレも思うぞ』
『一宿一飯の恩義』とか、なかなか思いつかない言い回し。
時代劇を見るのが大好きな阿形さんならではだと、僕は思った。
(もう三食たべさせてもらいましたけどね)
『まぁ、それはそれだ』
僕はこの世界へ連れて来られた際、全裸だった可能性が高い。
そのため、僕らが持っているのは何もない。
色々と買っておきたいものもあるが、せっかく稼げたから先に宿代だけでもという、僕の提案に阿形さんも同意してくれた。
そうするため、寄り道せずに道標亭へ戻ることにした。
道標亭のドアを開けると、まだ夕方から開店前なのかお客さんは誰もいない。
僕と同じように、この道標亭に住み込みで働いている女将さんの姪御さんのリムザさんはまだホールに出てはいない。
キッチンを見ると、女将さんが夕方の仕込みをしているようだ。
僕の姿を見ると声をかけてくれた。
「お帰なさい、カズヤくん。さて、どうだったのかな?」
「ただいま、女将さん。はい。身分証は作ってもらいました」
そう言って僕は、首からさげている身分証を見せたんだ。




