第三・一話 召喚の裏側(Enemy Side)
ファルブレスト王国王城にあるとは思えないほどに、質素な装飾の部屋。
そこにはキングサイズより大きなベッドがあり、その前はにエレオノーラと名乗ったこの国の王女が椅子に座っていた。
この部屋の主はベッドに寝ていたのだろう。
側仕えの侍女に支えられて気怠そうに身体を起こす。
部屋の主はやや血色の悪そうだが、エレオノーラに少し似た感じがする、美しい妙齢の女性。
「お母様、お加減はいかがですか?」
エレオノーラにそう呼ばれた女性は、メレオノール・ウィズ・ファルブレスト。
人前に姿を現すことはほぼないが、このファルブレスト王国の女王である。
「いつも通りよ。キーラあれをちょうだい」
「はい。メレオノール様。本日はどちらにいたしますか?」
メレオノールはちらりと、備え付けの時計を見る。
すると困ったような表情になった。
「そうねぇ。体調が優れないから、迷宮産のものをお願い」
「はい。承知いたしました」
キーラと呼ばれた側仕えの侍女が手に持つものは、煙管のような吸い口のある魔道具と宝石箱のようなものを二つ持っている。
片方の宝石箱を開けると、そこには不揃いの形をした赤黒い宝石の原石のようなものが複数入れてあり、そこから二つぶ手に取った。
魔道具の先には受け皿のようなものがあり、そこに形の悪い赤黒い石が二つ込められる。
キーラはメレオノールに魔道具を手渡す。
メレオノールは吸い口に口を付けて、そこから軽く吸い上げる。
魔道具の先にあった受け皿部分が一瞬、燃えるように真っ赤に光る。
メレオノールは少し眉をひそめるが、頬に赤みがさして血色が良くなっていく。
「――はぁ……。迷宮産のものは味が良くはないけれど、強いから楽になるのが早くて助かるのよね。ありがとう、キーラ。下がっていいわ」
メレオノールは深く息を吐くと、キーラに魔道具を手渡した。
「はい。では何かありましたらお呼びください」
キーラは一礼をして部屋を出て行く。
ドアが閉まると、メレオノールはエレオノーラに向き直った。
「さてエレオノーラ。勇者殿の召喚は、どうなっているのです?」
「申し訳ありません、お母様。まだ条件に合う勇者様が見つからず、召喚するまでに至っていないのです」
メレオノールは、此度の召喚を失敗として終わらせたことを知らないのだろう。
「……そうなのですか。次の勇者殿を、できるだけ早く迎えてくれると助かるわ。粒の大きな迷宮産の魔石が残っている間はいいのだけれど……」
メレオノールは慢性的な魔力欠乏症である。
こうして、魔石から魔力を補給しないと、身体を起こして執務を行うことができずにいる。
「はい、わかっています」
「人工魔石の魔力はね、味はとても良いのだけれど、効果が低すぎるの。迷宮産の魔石はね、味は酷いのだけれど、効果は高いわ。味が良くて、魔力の高いものがあれば、助かるのだけれどねぇ……」
「継続して迷宮産の魔石を手に入れつつ、質の良い人工魔石を集めさせます」
「ありがとう、エレオノーラ。いつも済まないわね」
「いいえ、お母様」




