第三十八・三話 良い知らせと悪い知らせIN地球 後編(Girl's Side)
吽形の言う『良い知らせと悪い知らせ』、それはまるで漫画のような展開だった。
それを聞いた千鶴は、思わず苦笑いしそうになる。
吽形も、この言い回しは千鶴たちと一緒に生活するようになり、彼女から漫画を見せてもらうようになってから覚えたものだ。
『やはりここは、定石通りに良い知らせだと思うのですが、どうでしょう?』
「それはわたしが選ぶんじゃ――はい、それでお願いします」
吽形の声から察するに、困った感じではあったが、深刻そうではなかった。
だから千鶴は、吽形に任せることにした。
『千鶴さん。これを見てもらえますか?』
「はい」
宇宙船のコントロールルームにある、金剛のメインコンソールでもあるちゃぶ台。
その上にある液晶ディスプレイみたいなもの、そこには何かが映し出されている。
「何でしょうね、この横になった白い直方体。……あ、どこかで見たことがあるようなないような?」
『えぇ。ここにもありますよ』
ピンク色のゆるキャラデ的なフォルメタコさんの姿をした吽形は、ちゃぶ台の上から軽々と飛び降りると、走って奥にある倉庫へ。
するとすぐに戻ってきた彼女が持っていたもの。
それは千鶴もよく覚えている、ある意味拷問器具とも言える物体。
「あー、これってもしかして。『魚肉タンパク製無味無臭ブロック食品』だったりしませんか?」
『はい。画面に映るこの物体は、これと同じものでしょう。そしておそらくこの外側は、一八さんの手のひらだと思われます』
「……もしかしてこれ、本当にやーくんなのかしら?」
食い気味に吽形の傍へ近寄る千鶴。
『あの日からずっと金剛にですねずっとお願いしていたのです。一八さんのマーカーから反応を得られなくなり、わたくしとの間にある血の絆を頼りに、阿形の痕跡だけでもとを探してもらっていました』
あの日というのは、一八と阿形が姿を消し、行方不明になってしまった日のこと。
「はい」
『これまでずっと、画面も黒いままでした。ですが今朝方、この画像が映し出されていたのです。少なくとも、これが食べ物だと知っているのは、わたくしの星で生まれ育った者と、一八さん、千鶴さんだけです』
「ということは、阿形さんは生きているかもしれない。もちろん、やーくんも」
『えぇ、その可能性は高いと思われます。何せ、わたくしたちは、一八さんから魔力エネルギーを提供していただかないと時間の経過と共に枯渇してしまいます。一八さんからの供給が絶たれてしまえば、いずれまともに活動するのも辛くなるほど。一八さんに依存しているのと何ら変わりはありません。今は千鶴さんには感謝していますよ』
「いえいえ、どういたしまして。ですが、他の生物から魔力エネルギーを得ている、ということは?」
『いえ、その可能性は低いでしょう。なぜならあの人たちはこの瞬間、食べる物に困っているはずなのです』
「あー、あれ、わたしも食べたことあるけれど、まずいですからね」
『えぇ。それでもあの人がですね、虎の子であるあの食料を手渡すだなんて、一八さんくらいしか考えられないと思いませんか?』
「そうかも、しれませんね」
前に聞いたが、吽形が言うには、阿形には友人と言える人がいない。
いわゆるぼっち体質なのだ。
そんな彼が、数少ない貴重な食べ物を分け合うだなんて、一八の他にはいないだろう。
それは千鶴にも納得がいったのである。
『さて、ここまでが良い知らせ、にあたるのですね』
「え? といいますと?」
『ここからが悪い知らせ、となるわけです。心の準備はよろしいですか?』
千鶴は深呼吸をする。
「はい……」
吽形の眷属となったことにより、以前よりも更に、飛躍的に肺活量も上がっている。
だから『そこまで大げさにしなくても』とツッコミが入りそうなくらい、深呼吸をして心を落ち着ける準備をした。
『「金剛」のはじき出した結果ですが、あの人たちは同じ次元に存在することがわかりました』
「それは、良い知らせじゃないんですか?」
『いいえ。問題はこれからです。この地球からおおよそ、一万光年以上、離れた場所にあの人の反応はあり、同じ場所からこの画像が送られてきたということになるのです……』
「い、一万光年以上も、ですか……」




