第十三話 あれは確かにね
(あの男は、僕のせいでこの商人さんは死んだ。そう言ってました)
僕にとって、聞いたことのない衝撃的な言葉だった。
だからよく覚えている。
『それは違うぞ』
(はい、ですが、僕にまったく責任がなかったわけはない。僕はそう思うんです。僕はこれでも『正義の味方』を自負していました。それならば僕は、『隷属の魔道具』に負けることのない鍛錬を積むべきだったのでしょう。……無力ですみませんでした。安らかに眠ってください)
『それならオレにも責任の一端はある。気負いすぎないでほしい。……だからここは安らかに。そう願おう』
僕が運ばれてきたところには、商人さんの身元になるものが残されていなかった故に、名前もわからない。
おそらく馬車に残されていた荷物ごと持ち去ったのだろう。
だから僕たちは、こうして手を合わせるしかできなかった。
『さて、これからどうしようか? 一八くん』
(そうですね。そういえば僕、『隷属の魔道具』のせいかわからないんですけど、王女のエレノオーラと言う人と侍女と思われる二人にうっかり本名を名乗ってしまったんです)
『一八くんほど慎重な子が、うっかり名乗ってしまう状況か。おそらくは、誘導尋問に似た、催眠術のような効果があるのかもしれないな。実に興味深い。……うん。そういうことなら、オレから提案があるんだが』
(それってなんでしょう?)
『まずはここでしばらく英気を養い、蛸腕が二本出せるまでにマテリアルを回収して回復促す』
(はい)
『その後に、ファルブレスト王国へ戻り、潜入して、使えそうなものを色々と頂いてしまおうとも思うのだが?』
(え?)
『オレたちはそれだけ迷惑を被っている。なぁに、責任をとらせるため、成敗して回ろうというわけではない。その代わりの迷惑料としてなら、安いものだろう? 本来であるなら、オレたちに用がないのであれば、もといた場所へ送還するのが筋というものだからな』
(正論ですけれど、かなり強気ですよね?)
『あぁ。ファルブレスト側の戦力もわからない状況での潜入だ。もしみつかったらすぐに逃げなければならない。だが万が一、その聖剣とやらが見つかれば、だ。いただいてマテリアル化してもいいだろう。そうすることで、相手の戦力を削ぐことが可能だと思わないかい?』
(そうなん、でしょうか?)
『まぁ、聖剣云々の話は見つけたら潰しておきたい。ただそれだけだ。正直、使い道はないだろうからな。それよりも今後のため、少しでも情報が欲しいところだ。ファルブレスト王国と関係のない国を探して、腰を落ち着けるのはそれからでも遅くはないはずだ。そうは思わないかい?』
(情報ですか、……確かにそうかもしれませんね)
すっかり忘れていた。阿形さんは普段、とても優しい人なのだが、時代劇大好きで、『悪人は成敗するべきだと思うんだがな』という非情な面もあった。
阿形さんはそう言いながらも、『犯人は警察に撒かせるべき』という姉さんの提案に沿って、僕はそのスタンスで活動してくれていた。
だから、僕たちはそれが冗談だと思っていた。もし成敗することがあったとしたら、どうなっていたのだろうと思うこともあった。
色々と阿形さんと軽い討論をした結果。
この場でゆっくり休み、蛸腕が二本出せるようになるまで、『他食の術』によりマテリアルを集めようということになった。
さてどこから始めようと相談を始めたときだった。
僕も阿形さんも共に『ぐぅう』音がお腹から鳴ってしまう。
(そういえばお腹、空きましたね……)
『あぁ、そうだな』
(どうしましょう? 食べ物も何も持ち合わせていません。水はどこかを探せば川くらいあるかと思いますが)
僕は何も持たされずに輸送され、あの場で斬り捨てられた。
だから食料なんて持っているわけがないのである。




