第九話 ところで質問なんだが?
珍しく阿形さんが饒舌になっていた。
普段口数少ない彼は、たまにこうなることがある。
放っておくといつまで続くかわからない。
だから僕は軽くツッコミを入れなければならないだろう。
(阿形さん、阿形さん、落ち着いてください)
『あ、あぁすまん。あとは一八くんとオレをこの世界に誘拐した召喚術式だったか。どのようなものかはわからんが、少なくともオレたちが元の世界へ帰るにはその召喚術式とやらが必要になるのは間違いない。オレたちを誘拐した事実は腹立たしくは思うが、魔道具とやらも含めて、それはそれで実に興味深い』
(そうなんですよ。僕がこっちの世界で目を覚ましたときは、スマホも何も持っていなかったみたいです。もしかしたら、取り上げられてしまったのかもしれません。だから、あれからどれだけ時間が経っているか、まったくわかんないんですよ)
こちらへ連れてこられたあの日。
僕は最低限、スマホと財布は持っていたはず。
どこにいってしまったんだろう?
もし、ファルブレスト王国が持っているなら取り返さないといけない。
『そうだな。オレも、所有していたはずのマテリアルをほぼ全て失っている。おそらく、こちらの世界へ連れてこられた際に、なんらかの力が働いたのかもしれないな』
(なるほど。……ってあれれ? 僕の服、斬られて破損してるはずなんですけど?)
『あぁ、それはオレが再生しておいた』
(あ、そうなんですね。ありがとうございます)
阿形さんは錬金術師だから、僕の服くらいは簡単に再生できてしまう。
なにせ彼は、ゼロから部品単位でコツコツと、宇宙船を作り上げてしまうほどの人なのである。
『いやいや礼には及ばないよ。たいした手間ではなかったし、それにいつも世話になっているからな』
(ほぼ全て失った、ということはあれですか?)
『あぁ。マーカーどころか、「金剛」への通信も試したが反応がなかった』
『金剛』というのは、阿形さんたちの船にある、制御コンピューターのような存在。
(そうなんですね)
マーカーというのは、阿形さんたちのマテリアルを生物や場所に埋め込んでおいて、位置を特定したり、その周囲の情報を得ることが可能なもの。
阿形さんたちの身体を構成する生体素材で、ごく小さなものだと教えてもらっていた。
安全の為にも、僕や姉さん、近しい人たちにも埋め込まれていた。
その際、埋め込まれたことすら気づかないほどに、痛みを感じることはない。
『困ったことに、一八くんの身体にあるはずだった、吽形との繋がりが感じられないんだ』
(え? それってどういうことでしょう?)
『これも仮定でしかないんだが、おそらく一八くんはあのとき一度、死んでいたと考えるのが妥当なんだろう。ただ、一八くんとオレとの繋がりが切れていないのは、たまたまオレが一八くんの中にいたからなのかもしれない。以前話をしてあげた、一八くんが死んだら絆が消えるかもしれないというのは、あくまでも仮説でしかなく、確たる証拠はなかった。まさか、このような結果になるとはオレも思わなかったよ』
(……姉さん、大丈夫かな?)
『あぁ、千鶴くんには吽形がついている。何があっても守ってやれるだろう』
(それなら安心です)
『とにかくだな。ここが地球からみてどこに位置するところなのかを判断しなければならない。召喚術式とやらがあるのだから、送還する術式もあるはずだ。なければないで、召喚術式とやらを元にして、オレが何か方法を考えたらいいだけだ』
(はい)
こういうときの阿形さんはとても頼もしく思える。
『帰るための方法を探るためには、まずその「召喚術式」とやらを手に入れる。それまでは生き残らなければならない。肉体的にだけではなく、精神的にもだな』
(はい。そうですね)
立ち上がったときに確認したんだけど、斬られて破損したはずの服は、阿形さんが修復してもらった上に汚れまで落としてくれた。
それは阿形さんが、錬金術師だから可能だったのだろう。
『ちょっといいかな? 一八くん』
(なんですか?)
『オレたちは服装というものにそれほど依存してはいないから、なんとも言えないのだがな』
(はい)
『今一八くんが身につけているものは、君の物なのか? あのときあちらでの服装とは似ても似つかないと思うのは、オレだけだろうか?』




