第八話 なるほど、納得です。
阿形さんはついさっき目を覚ましたそうだから、これまでのことを一切覚えていないとのこと。
そこで改めて、僕はここまで起きたことを阿形さんに話した。
『――なるほどな。その王女が言うにはだ、『迷宮を挟んで対局の位置にいるという、魔族の脅威にさらされている』ということだな。その脅威とやらから助けてもらうために、一八くんを召喚したというのが建前なんだろうな』
(そうみたいですね。僕は、彼女たちが必要としていた加護を持っていなかったから、聖剣の担い手になれなかった。だから『勇者』じゃないんだそうです)
『魔力を必要とする聖剣か、……何らかの加護とやらが必要で、それでいて魔族とやらに対抗すらできない剣など無意味だ。それよりもオレは、任意のタイミングで痛覚を刺激し、激痛を与えるという「隷属の魔道具」のほうに興味があるな』
阿形さんは聖剣に興味がないのか、見事にばっさり切り捨てた。
(それがわかったとき、王女はもう僕には興味がなかったらしくて、やり直せばいい、みたいな感じだったのが不思議だったんです)
『おそらくだが、そいつらが欲している加護を宿した者が現れるまで、召喚し続けるつもりなんだろう』
(はい。あとですね、『前回の失敗のおかげでただでさえ、召喚に時間がかかってしまっている』と、あの王女が言ってたんです)
『なるほどな。おそらくだが、一八くんの前にも、同様の被害者がいて、奴隷として捕らえられている可能性が高いということなんだろうな』
(はい。もし、可能であればその、……助けたいですね)
『あぁ、そうだな。一八くんらしさが戻ってきて何よりだ。その機会があるのなら、そうすることにしよう』
(ありがとうございます。それでですね。あの隷属の魔道具をつけている間は、とにかく全身がだるくて、逆らう気力もなくなっていた感じがするんです)
『なるほどな。隷属の魔道具とやらは、魔力を吸い上げて大人しくさせるもの、……なるほどそういうことか。こちらへ連れてこられた際に、なんらかの理由で魔力エネルギーが枯渇して、一八くんから供給されなくなった。そのため、オレの覚醒が遅れたと考えるならば、この世界の魔力と、オレたちが言う魔力エネルギーは、おそらく同じものなのだろう』
(魔力エネルギーが、ですか?)
『魔力エネルギー、いや、……そうだな。ややこしくなるからこれからは魔力と呼ぶことにしよう』
(はい)
『オレはな、魔力は精力や活力に等しいものだと思っている』
(はい)
『一八くんたち人間も含めて、あの惑星の生命体は微量だが、魔力を食物などから取り入れ、回復することができるんだ』
(はい)
『だがな、オレや吽形は逆に、魚や獣などの血から微量に魔力を摂取することしかできない』
(なるほど。そうだったんですね)
『あぁ。それでだな、オレも吽形もそうだが、一八くんと初めて出会ったあの日。お供も置かれる習慣がなくなり、同時に嵐が続いていたこともあってだな』
(記念館ですものね、お供えは)
『そうなんだ。恥ずかしい話、飢餓状態に近い空腹だった。身体を維持するために魔力を削ってしまっていたのだろう。だから魔力も枯渇に近い状態だった。身体を動かすことが難しくなり、魚を追うことが出来なかったわけだな』
そういえば以前、阿形さんから聞いたことがある。
阿形さんたちは姿形を変える際にも魔力エネルギーを消費する。
魔力エネルギーが枯渇すると、身動きが取れなくなることがあると。
(そうだったんですね。あれ? ということは、馬車の中で僕、身体がおかしかったのは)
『その通り。一八くんは、隷属の魔道具によって強制的に「大人しくさせられて」いたから、身動きするのが難しかったのだろう。それとだな、あくまでもオレの仮定でしかないが、その隷属の魔道具とやらは一八くんから魔力を吸い上げ、その赤黒い宝石のようなものへ蓄積していたのだろうな――』




