第百話 シファリアさんのお願い。
『――どちらにしても、だ。オレたちが帰るにはファルブレストを制圧し、召喚術式とやらを手に入れる必要がある。だから慌てずに、共に強くなろう。一八くん』
「はい。わかりました。阿形さん」
阿形さんはこれからも、この空間で作業を続けるとのこと。
僕は迷宮に潜るようになるため、四等級に上がることを目標にする。
『今度オレは基本的に、この「仁王」の中で作業をしている。日中は寝ているかもしれないが、一八くんが外に出るときは「仁王」を持って外へ出てくれたらいい。声は聞こえているから、何かあれば呼んでくれても構わない』
「はい。そうさせてもらいますね」
翌朝、食後に冒険者ギルドへいつものように向かう。ホールに入るといつものように、三つあるうち一番右の列の最後へ並んだ。順番待ちの列が進むと、僕の番になった。
「おはようございます、カズヤさん。あの、ですね」
「はい、おはようございます。なんですか?」
「お願いしたい依頼があるんです」
シファリアさんは笑顔を作ろうとしてはいるが、何やら複雑な感じの表情をしている。
「え? 僕にですか?」
「……その、カズヤさんに、というよりですね」
「あぁ、誰も受けてくれない状態になった依頼、ですか?」
「そうなんです」
やはり塩漬け状態になってしまっている依頼があったようだ。どこかの掃除か、それともまた農場なのだろうか?
「いいですよ。僕で受けられる等級の依頼であれば、お手伝いさせてもらいます」
僕がそう言うと、シファリアさんの表情は安堵したような、ほっとした感じになった。長いこと誰も受けてくれなかった他に、何か理由があってどうしても僕に、ということなんだろうね、きっと。
「そう言ってもらえると助かります。あのですね、依頼というのはここから馬車で半日ほど行った町からなんです」
「半日、というと結構離れていますね?」
「そうなんですが、でもご安心ください。移動や宿泊ににかかる費用はこちらでもたせていただきます」
「ありがとうございます。そうしていただけると助かります。それでその、どのようなものなんでしょう?」
馬車で半日の距離で、掃除とかそういうのはないとは思う。
「はい。依頼内容は『畑を荒らす獣の調査』ということになっていますね」
「駆除ではなく調査ですか? そこまで条件がいいのになぜ誰も受けないんです?」
「それがですね。調査対象の獣が出るまで、待たなければいけないというのがありまして」
「あぁ、そういうことですか。ということは、もしかして、結果が出るまで現地にいなければいけないとか?」
「……はい。お察しの通りです」
「そうなんですね」
いつ出るかわからない調査対象を待たなければいけない。
まるであちらの世界の、『猫探し』や『浮気調査』をする私立探偵のような依頼だったわけだ。
「報酬をとるか、ギルドへの貢献をとるか。どちらかというと、後者の依頼になってしまうんです。赤字にはなりませんがその――」
「いいですよ。僕は早く等級を上げたいですから」
「本当ですか? やっぱりやめた、は駄目ですよ?」
「あははは。大丈夫です。二言はありませんから」
こうして僕は、畑を荒らす獣の調査依頼を受けることになった。
「助かります。……あ、すみません、つい」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。それとですね、カズヤさん」
「はい」
「無理に駆除をしようとしないでくださいね? 危険な獣が現れるかもしれないんです」
「あの。僕は一応、腕には自信あるんですけど」
「だとしても、です。わかりましたか?」
あ、まるで千鶴姉さんに注意されているみたいな感じがする。
見た目は違うけれど、シファリアさんは年上のお姉さんなんだなと、改めて思った。
「はい、無理はしません。約束します」
「絶対ですよ?」
しまった、シファリアさんは僕の手をぎゅっと握ってる。
あぁ出てる出てる蕁麻疹、かゆいかゆい、マジでかゆい。
「わかってます、……はい」
でも我慢我慢我慢。
嫌がるわけにはいかないから、笑顔で乗り切ればいいだけの話。
(笑顔になっているか、心配ではあるんだけどね)
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「それじゃ女将さん。数日空けますので」
「あぁ、頑張ってくるんだよ? これ、途中で食べておくれ」
「はい。ありがとうございます。ではいってきます」
依頼を受けた翌朝、朝食を終えてから僕は道標亭を出る。
今日から数日、冒険者ギルドの依頼を受けて、王都から離れることになった。
もちろん阿形さんも一緒。
先日阿形さんが作り上げた魔道具みたいなもの、『仁王』の中でまだ寝てるはずだ。
『仁王』本体は僕が鞄に入れて持ち歩いているから、このままでも問題はないだろう。




