第七話 どうなってるの? その2
『千年以上普通に生きていることから、もしかしたらオレや吽形には、不死に近い何かがあるのかもしれない。それ故にオレたちの眷属になった一八くんの身体にも、それに近いものが備わったのかもしれない。ただそれだけの話だと思うんだが?』
(ただそれだけ、ですか。確かにそうかも、しれませんね)
地球で生まれ育った僕たちとは違う進化を遂げた、異星人である阿形さんと吽形さんのことを考えると、あり得ない現象が当たり前に感じられる。
最初のころはあれこれ驚きはしたが、途中からはいちいち驚くのはどうかと思った時期もあったくらいだ。
『一八くんにその瞬間の記憶が残っているのであれば、刀で斬られたのはまず間違いないだろう。だがその、斬られたはずの腕が元に戻っている状況に一八くんは疑問を抱いている。それに答えてあげるとするならだが、生命活動を終えるより速さよりも、一八くんの再生能力が勝っていた。そう仮説を立てるのが妥当だと思わないかな?』
(確かにそうすね。ただ僕には、斬り落とされたはずの腕が、どのようにくっついたのかは想像ができませんけどね)
『そうだな。一八くんが死んだ可能性がある時間帯では、一八くんは意識がなかった。オレも覚醒する前だった。だからオレも一八くんも、その場で見ていないからなんとも言えない。だがおそらくは、なんらかの現象が起きてそうなったんだと思う』
阿形さんの言っていることはもっともだと思う。
僕が生きていたか死んでいたかの瀬戸際だったとき、僕も阿形さんも意識がなかったのだから、確認のしようがない。
平たく言ってしまえば、その状況を目で確認しながら、腕を切り落としてみないとその結果はわからない。
確かにあちらの世界で僕は、ここまでの怪我を負った経験がなかった。
だから僕の身体が、どうなってしまったかはわからないのである。
『あくまでも仮定でしか言ってあげられないのは、オレとしても心苦しいと思っている』
(はい。わかっています。でもこんなに血が流れていて、僕、大丈夫なんですかね?)
土に染みこんでるとしても、かなり流れている。
(こんな血だまりになるくらいだから、へたすると致死量に達したりしてないかな?)
『状況から察するに、何やら一八くんの身体は、破損した分だけ再生し、失った分だけ造血作用が働いたのだろう。実に便利な体質になったものだ』
(なったものだって……)
先ほど同様、阿形さんの返答はあっさりしている。
確かに以前、走ったときに感じる疲れは、その都度再生の能力が働いて解消されていた。
打撲や切り傷では確認できてはいただ、それ以上の怪我に対する回復力を目にしたのは今回が初みたいなものである。
だから確かに、阿形さんが言うとおりなのだろう。
『流れた血は取り込んでマテリアル化はできるだろうが、必要はなさそうだったから放置してある。それよりよく見なさい。あちこちに足跡があるのがわかるかな?』
(はい、確かにそうですね)
足下をよく見ると、何やら獣の足跡が確認できる。
だがそれは同時に、常識を外れた大きさのものでもあった。
『足跡は一八くんの靴と比べると、倍以上あるのがわかるだろう。その足相応とも言える、やたらと大きい野犬のようものが複数、一八くんの血に引き寄せられて集まっていたんだが、適当に痛めつけて追い払ってある』
(やたらと大きいって、どれくらいだったんだろう?)
『そうだな。以前映像で見た、クロサイ程度の大きさだったと思うが』
クロサイといえば三メートルはあるはず。
あちらの世界では、そこまで大きい野犬はそうそう存在しない。
それを聞いて改めて、ここが異世界だと認識せざるを得ない。
それに動じない阿形さんは阿形さんで、大概だと僕は思う。
(……そ、そんなに大きいんですか?)
『海洋生物のほうが大きいと思うな。まぁ、頭の良さそうなシャチやらは、近づいたら食われると思っていたのかどうなのか知らんが、オレたちに近づいてくる個体はいなかった。だから大きさは知識で程度でしかないんだがな』
(シャチとかが恐れる阿形さんたちって……)
『ということでだな、この血は色々とこのままのほうが良さそうだと思ったんだ』
(ということって、……それなら阿形さんに任せます)




