第九十二話 王城内での捜索 その2
おそらく、阿形さんの腸は再び煮えくり返っている。
『どちらにしても、だ。「真綿で首を絞める」ように、じわりじわりと楽しませてもらおうじゃないか?』
(普段大人しい阿形さんを怒らせると、怖いんですね……)
『いや、吽形のほうが怖いぞ。なにせ母性が強いからな。一八くんたちを本当の子だと思っている。そんな子たちが苦しめられたとしたら、ここら一帯は消し炭も残らないかもしれんぞ……』
(もしかして、怒らせたことがあるんですか?)
『いや、そこまではない。そうなる前にオレが謝ったからな)
(あははは……)
『さて一八くん。「隠形の術」を解いて、「偽装の術」であのミルディベールの部下。何て言ったかな?』
(はい。レディエレート、でしたよね?)
『あぁ、そんな名前だったな。あいつの姿、覚えているかな?』
(はい)
『オレには興味のない者だったからよくは覚えていない。だから一八くんが「偽装の術」で化けてみてはくれないか?』
『偽装の術』は、地球で一番よく使った術。
例えば、千鶴姉さんが外を歩くと、サインを求めて近寄ってくるファンの女性がいた。
そんなとき、近くにマネージャーの斉藤真奈美さんがいないとき、僕が彼女に成り代わって『申し訳ございません』のようにやんわりと断ったりすることがある。
数え切れないくらいの回数、術を使ったのがこの『偽装の術』だった。
(――『偽装の術』。……こんな感じだったと思いますが?)
『おぉ、うんうん。確かそんな感じだったな。感心するほど見事な術だと思う。吽形は得意だったがオレはあまりうまくはない』
(そうなんですね。それで、どうするんです?)
『もちろん、「隠形の術」を解くつもりだ』
するとすぐに、レディエレートに偽装した僕の姿が現れた。
『さて、彼奴がこの王城を闊歩して、騒がれない立ち位置にいるのか? 騒ぎが起きればそれはそれだ。ある意味興味深いな』
(その、いいんですか? 誰かが来たら怪しまれないですかね?)
『そうだな。あの男がここへいるのを疑われたら』
(疑われたら……)
『そうなったらそうなったで、壁を食って逃げたらいいと思うんだが?』
(そ、それでいいんですね……)
『一八くん』
(はい。何ですか?)
『例の「捜し物」という魔法なんだが』
(はい)
『確か、具体的に頭に思い浮かぶものであれば、探せたと思うんだがな』
(そうですね)
『それをな、例えば。「この建物にいる人間」などではどうなんだろうな?』
(……あ、試したことありませんでした。『隷属の魔道具』に対しては間違いなく発動しているので、できるかもしれませんね)
『それでは悪いが、試して見てはくれないだろうか?』
阿形さんは、こんな状況下ですら検証作業をしようと思っているみたいだ。
おそらく阿形さんのことだから、全神経を尖らせて、周囲の気配察知に努めてくれているのだろう。
そこまでしてお願いをするのだから、僕にしかできないと思って協力するのは当たり前のこと。
(わかりました。ではいきますね)
『お、おう』
阿形さんも興味津々なんだろう。
(……えっと、この近くにいる人でいいですかね? 『我が魔力を捧げる。捜し物を指し示せ、捜し物』)
『ど、どんな結果が出たのかな?』
僕の中にいる阿形さんは、まるで身を乗り出しているかのような、声を上げてくる。
それはいつもの『実に興味深い』という気持ちの乗ったものだ。
魔道具の魔法陣も同様に、『捜し物』の魔法は阿形さんの知らない大好物とも言える研究対象だ。
だからこんなリアクションをするのはいつものことだったりする。
なにせ、最初にこのリアクションを見せたのが、テレビで放映されていた時代劇だった。
ノンフィクションの番組ではないのに、リアリティがある時代考証と演技力。
阿形さんはとにかくのめり込んでいた、そう吽形さんも言っていたことがある。




