第九十話 再び王城へ潜入。
対象を発見、それは待機している女性だった。
深夜だというのに起きていて、じっと座って何かを待っている。
見た感じの服装から思うに、おそらく使用人なのだろう。
ただ、腕には『隷属の魔道具』が取り付けられている。
そのことから、ここへこうしているのが、ただの雇用関係とは思えない。
阿形さんは蛸腕を伸ばし、対象に気づかれぬよう、鍵を開けて魔道具を回収した。
ここまでは目視してから一分と経っていない。
慣れというものは凄いなと僕は思った。
(『我が魔力を捧げる。捜し物を指し示せ、捜し物』、……この建物にはもうありませんね)
『了解、次へ行こう』
「はい」
僕と阿形さんは、奴隷となっている人を助けるのが目的ではない。
僕たちの今日のミッションは、『隷属の魔道具』だけ消えるという奇妙な事件を起こして、局所的な騒ぎにすること。
それだけで十分だと思っているからだ。
『得体の知れない者に迫られているのは、恐ろしいと思わないかい?』
「僕だったら絶対に嫌です」
ここへ来る途中にそう、冗談を言い合った僕たちだったからであった。
そうこうしながら、王城を除いて回収すること十一個。
(『我が魔力を捧げる。捜し物を指し示せ、捜し物』、……あれれ?)
『どうしたんだい?』
(それがその、反応がないんです。もう少し王城へ寄ってみませんか?)
『そうしてみよう』
僕たちは徒歩で王城近くへ向かう。
王城に入る前、時計を確認したところ午前一時を回っていた。
辺りはしんと静まりかえっている。
僕は隷属の魔道具を『格納の術』の空間から採りだして左手に持ち、王城を見上げるあたりの場所で、『捜し物』の魔法を発動させる。
(……やっぱり反応ありませんね)
『なるほどな。おそらくはだ、王城内には奴隷の身分にある人を入れない何かがあるのだろう。だから男爵領へという話が一瞬でも出たのではないだろうか?』
(あ、そうかもしれませんね)
『もしやと思うが、王城内で一度魔法を発動させてみてはくれないだろうか?』
(構いませんよ)
『捜し物の魔法などから感知されないような、そんな結界が張られているかどうか? 調べておきたいんだ』
(わかりました。行きましょう)
僕たちは、前回と同じ経路で潜入することにした。
とにかくこの王城は無駄に大きい。
前回潜入した際、タイムリミットまで捜索したとき、一階しか見ることができなかったくらいだ。
同じ搬入路、同じ扉を調べると、これまた同じように鍵がかかっている。
阿形さんはあっさりと解錠。
内部に潜入すると、そのまま鍵をかけ直してくれる。
『オレにも、人の気配は多数感じられるな』
(はい。では)
僕は隷属の魔道具を『格納の術』の空間から採りだして左手に持つ。
(『我が魔力を捧げる。捜し物を指し示せ、捜し物』、……反応がありませんね)
『この王城にだけ、一八くんの使う魔法などの無効化領域を作り出している』
(そうでしょうか?)
『とは思えないんだ』
(あらら)
『一八くんに話してはいかなったかもしれないが』
(何をです?)
『オレと吽形以外にも、人間より勝っている生命体がいるのを教えたことがあるな?』
(そうですね)
『そのような存在が、害意を持って侵入してこないかを、マーカーと「金剛」で監視していたんだ』
(そう、だったんですね)
『オレですら、そういう危機意識を持っている。それなのにこのザルさ加減。正直笑えてしまうんだよ』
阿形さんは冗談を言っているわけではないだろう。
(もしかしたらですよ?)
『あぁ』
(『召喚術式』の被害を受けたイヴさん以外、その魔族さんがこのファルブレストへ入り込んだことがないのかな? と思うんです)
『おそらくそうだろう。だから、自分たちが最上位だと思っている奢りがあるんだろうな』




