第八十九話 阿形さんの思うこと。
ブルガニール男爵領を出て、ほどなく王都へ到着。
町の中へは『隠形の術』をかけたまま潜入する。
時間を確認すると、十二時を過ぎたあたりだった。
『捜し物』の魔法を発動させるが、町側には反応がない。
(えっと、町中には反応がありません。……それにしても久しぶりですね)
『あぁ、相変わらずザルだな――いや待てよ』
阿形さんが『ザル』だと表現したのは、この区画を見て、『警備が手薄だ』と言っているのだろうか?
確かに、センサーのような魔道具は存在しないように思える。
それに、城下町から貴族が住むと思われる区画へ渡るための橋の検閲は、兵士二人が行うというアナログな手法をとっている。
(どうかしたんですか?)
『あのな、一八くん。オレは思ったんだが』
(はい)
『あくまでくオレの仮定でしかないんだが、「召喚術式」とやらはある意味、オレたちの世界で言うところの、ロストテクノロジーなのかもしれないぞ?』
(……はい?)
僕はその概念をなんとなく知っている。
だからこそ、その発想には、はさすがに困惑した。
『ある意味と言ったのはな、この時代に組み上げた術ではない可能性が高いという意味だな』
(……はい。阿形さんの言うことはなんとなくわかるような、わからないような。何を持ってそう言っているのか、正直、よくわからいです。はい)
『あははは。あのな、一八くん。代々使われてきたから使い方がわかっているだけで、どうやって動いているかがわかっていない、というものだ』
(なるほどです。例えば、魔法がなぜ発動するのか僕はわかりません。説明できないけれど使えてしまう。そういう意味で、ロストテクノロジーなんですね?)
『厳密には、発動する原理はあるんだろう。だが、使っている側がどう動いているかを理解していない場合があるだろう。「召喚術式」がそれにあたるのではないか? 俺はそう思っている』
(はい)
『先日サリーナ殿から講義を受け、一八くんが魔法使いになったではないか?』
(そうですね、とても嬉しかったです。僕が、阿形さんたちの力に頼り切りになることなく、ファンタジー世界の住人になれたんだという、そういう嬉しさですね。時代劇が好きな阿形さんならわかってもらえると思いますが)
『あぁ、その嬉しさはわかる気がする。そこでだな、確かに魔法が存在するのはわかった。だがこのファルブレストが、あの「召喚術式」のように壮大な魔法を使う割に、これらの警備やあのミルディベールとやらの体たらく。どう考えてもチープすぎる。落差が大きすぎるんだ。そこをな、ザルだと思ってしまったんだ。どうだろうか?』
(確かに、そう説明されたなら、僕もその落差が気になります)
『イヴ殿の住む魔族の領域はわからないが、もし、この世界のテクノロジーレベルがソルエール王国を標準とするならだな』
阿形さんがファルブレストではなくソルエール王国を標準に持ち出すのはわかる。
確かに、見た感じはあちらのほうが町という感じがするから。
(はい)
『案外この国の王城、オレたちだけで落とせるかもしれないぞ』
(えぇええええ?)
『まぁ、それは折々わかることだろう。今はじわじわと、真綿で首を絞めるように攻めさせてもらおう。一気に潰れてしまっては、こちらとしても面白くはないからな』
(あ、あははは)
『さぁ、一八くん。続きを始めようじゃないか』
(……はい)
城下町を抜けて、阿形さんが『ザル』と表現した検閲のある橋を渡り、東側へ行くと複数の反応があった。
橋からこちら側の区画にある建物は、その材質や調度品の違いからおそらく商家か貴族たちの屋敷なのだろう。
最初に検知できた建物へは、男爵領・領主の屋敷と同様に、屋上から潜入する。
いくら阿形さんに『隠形の術』を使ってもらっているからといって、これほど簡単に建物へ潜入できてしまうのも、確かにセキュリティレベルが低すぎる。




