第一話 プロローグ
『――あとは、よろしくお願いします』
こうして近隣の警察署の前で引き渡したのは、いつものように、僕たちが捕らえた二人の強盗犯。
二人を引き取ってくれた男性の警察官さんは敬礼をして見送ってくれる。
「いつも助かってます。ありがとう、オクターヴ」
『いいえ、それが僕の勤めですから。では――』
敬礼してくれる警察官さんの前から立ち去る際、僕の両肩から伸びる蛸腕――タコの触手みたいな腕の先に大きな五本指の手がついている――にある吸盤のような部分から、水蒸気を上げながら上昇して飛んでいく。
前にビデオに撮っておいて、どんな飛び去り方がかっこいいか、研究しながら何度も練習した。
そのおかげできっと間違いなく、映画のヒーローみたいに神々しいはずだと僕は思っている。
見た目はもしかしたら、ダークヒーロー寄りかもしれない。
それでもニチアサヒーロー番組が大好きな、千鶴姉さんも大絶賛だったから、結果オーライだと思っている。
僕の名前は八重寺一八。
十八歳、高校三年生。
僕はいわゆる『ご当地ヒーロー』。
変身して、『オクターヴ』と名乗って、この沖縄で正義の味方みたいな活動をしている。
ちなみに『オクターヴ』とは、タコの足八本と、音楽における八つ目の音を現した名前になっている。
この『オクターヴ』のデザインをしてくれた人は、僕たちの秘密を知っている。
千鶴姉さんの親友で、姉さんと同い年で僕より三つ年上。
千鶴姉さんと同じ大学に通っていて、僕が通っている付属高校の生徒会長だった先輩。
先輩は今、もの凄く人気があるプロの漫画家の先生。
そんな先輩がデザインをしてくれたから、『オクターヴ』の姿はとにかくかっこいい。
両肩から黒い蛸腕を携えてるから力強いイメージがあるし。
サーカスのピエロ調なデザインだけど、モノトーンでダークヒーローっぽくていい感じ。
日本の戦隊ものヒーローというよりは、ハリウッドのアクションヒーローのようなデザインで。
実はこれ、コスチュームではなく、阿形さんたち異星人テクノロジーの『偽装の術』を使って本当に変身している。
少し離れたビルの屋上にとりあえず降りて変身を解いた。
オクターヴの姿から人間、僕の姿に戻って一息ついた。
今日も人々の役に立つことができている。
阿形さん、吽形さん、姉さんたちに応援してもらっているから、そんなかっこいいオクターヴとして、僕はヒーローをやれている。
『一八くんは相変わらず優しいな。あのような輩はこう、成敗するべきだと思うんだ。特に今回は危なかった。我々でなければ、怪我を負っていた。一つ間違えたなら、命を落としてしまう場面もあったではないか?』
確かに犯人は、どこから手に入れたかはわからないが、銃器を持っていた。あの程度であれば、僕たちなら対応はできる。それでも、警察官では危なかったかもしれないとも言えるだろう。
「確かにそうかもしれません。それでも阿形さんが取り押さえてくれたので、事なきを得ました。いつもありがとうございます」
『お、おう。……でもな、いつか痛い目に遭うかもしれない。そんなときは躊躇せずにだな』
僕の耳に届くこの声は、僕の相棒のひとりであり、先生でもある阿形さん。
昔よくテレビなどで見たことがある、火星人みたいなイメージのタコではなく、本当に海にいるリアルなタコによく似た姿をした異星人の男性。
彼には奥さんの吽形さんがいて、二人はいつも僕の助けをしてくれている。
「わかっています。それでも今の日本は法治国家なんです。もし犯人を成敗しちゃったりしたら、僕が容疑者として追われることになってしまいます。そんなことにならないように、警察に引き渡して法の裁きを受けてもらうんです。それが一番いいって、姉さんも言ってたじゃないですか?」
そう。
『犯人を生かして捕らえるように』と提案したのも、千鶴姉さんだった。
『それは確かに千鶴くんも間違ってはいない。吽形も同意していたからな』
なぜ阿形さん、吽形さんと呼んでいるのか?
彼らは千年ほど前に地球に観光に来て居着いてしまい、ずっと守ってくれている神様みたいな人たちだった。
阿形さんたちは元々、僕の母方の実家がある八重寺島で守り神のように奉られていた。
タコが後ろ足で立ち上がったような姿を形取ったご神体。
シーサーや狛犬のように、腕を広げて口を開けているような姿が阿形さん。
腕組みをして口を閉じているような姿が吽形さん。
だから僕は、彼らを阿形さん、吽形さんと呼ぶようになった。
僕たちは阿形さん、吽形さんの名前を教えてもらったのだが、残念ながら発音できなかった。
そのため、ご神体にならって阿形さん、吽形さんと呼ばせてもらうことになった。
僕と阿形さんたちはちょっとしたきっかけで出会い、ちょっとしたアクシデントから僕は、血の契約のようなものを支わして彼らの眷属となったのである。
僕は彼らの体質を少しだけ受け継ぎ、その上で彼らの地球にはないテクノロジーを使って、正義の味方の真似事をすることができているのであった。
「阿形さん僕、ちょっとその先のスーパーで買い物があるので、寄ってもいいですか?」
『あぁ、構わない。確かに腹は減っている。早く買い物を終えて戻ることにしよう』
「はい、そうですね。姉さんも吽形さんもお腹を空かせて待ってくれているでしょうから」
吽形さんは、阿形さんの奥さんで、彼と同じ異星人である。
吽形さんも姉さんも料理はちょっと苦手。
だから僕が、ごはんを作っているのであった。
『あぁ、そうだな』
阿形さんの蛸腕にある吸盤を使えば、壁を伝ってビルの下へ降りることもできる。だから僕は、いつものようにひょいと飛び降りた。阿形さんも大きく蛸腕を広げてビルにつかまろうとしていた――その瞬間だった。
雷でも落ちたかのような光に包まれて、僕の視界は真っ白になり、意識が遠のいたところまでは覚えていた。
不定期連載の予定ですが、新作ですのでどうぞお付き合いくださいませ
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