第6話 ツンデレ剣士リアナ
「セイー、おなかすいたー!」
元気いっぱいの声が朝の通りに響く。
ミミはぴょこぴょこと跳ねるように歩きながら、セイの服の裾をちょんちょん引っぱってくる。
「まったく、若いもんはこれだから困るわい……。働かざる者、食うべからず、じゃぞ?」
「えーっ! わたし、ちゃんとお手伝いしてるよ?」
初依頼を終えてから数日。
薬草採取に荷物運び、掃除など軽い仕事は何でもこなし、宿代と食費をどうにか繋いできた。
今朝も新しい依頼を探そうと、《こもれび亭》を出てギルドへ向かっているところだ。
そんな中、セイが突然ぴたりと足を止め、眉間に皺を寄せた。
「……どうしたの? お腹すいた?」
心配そうに覗き込むミミ。
しかしセイは空を仰ぎ、ぽつりと呟く。
「……この世界、何かがおかしい」
「え? なにが?」
「ワシが、あまりにも都合よくスキルを覚えておる」
森では《威圧》。野犬との戦いでは《加速支援》。
どちらも“必要だと感じた瞬間に突如獲得”したものだ。
「おそらく──“生活知識大全”や“魔法知識大全”に加えて、“発想展開”や“世界法則書き換え”が、無意識に補助してくれとるのじゃろうな」
「……つまり、セイが『欲しい』って思ったことがそのまま力になるってこと?」
「まあ、そういうことじゃ。ただし、本当に必要なときに限るようじゃが」
ミミは一瞬首をかしげたが、すぐにぱっと表情を明るくした。
「わたしにも、なにかスキルあったりするのかなあ?」
「それなんじゃが……ミミ。魔法を使えそうだと感じたこと、あるか?」
「うーん……ない、かな。たぶん、なにも持ってない気がする」
その答えに、セイは小さく肩をすくめた。
「やっぱり、そうか」
「……え? やっぱりってどういう意味? ねぇセイ、わたしのこと……置いてったりしないよね?」
袖をぎゅっと掴んで見上げるミミ。
その目は、不安に揺れている。
「置いていくわけなかろう。ワシはおぬしの味方じゃ」
「……でも、わたし、このままじゃ役に立たないから……」
ミミの声がかすれて落ちる。短い沈黙が二人の間を流れた。
「む……そう思うなら、修業じゃな」
「えっ?」
「適性を調べ、鍛えればよい。運命は自分で切り拓くものじゃ。魔法かスキルが見つかれば、ギルドにも正式登録できるはずじゃしな」
その時だった。
【新スキル】
《魔法適性鑑定》:対象の魔法資質(属性傾向・適性魔法・覚醒状態)を視覚的に把握する。対象に触れる、もしくは意識集中で発動。
「……まったく、テンプレ勇者さまさまじゃな」
セイはそのままスキルを起動し、ミミへ視線を向けた。
淡い光が彼女を包み、浮かび上がる文字列が視界へ流れ込む。
【対象:ミミ】
・属性傾向:光/水
・適性魔法:癒し・浄化・支援
・覚醒状態:未覚醒
「ふむ。やはりヒーラー寄りの資質じゃな」
「ヒーラー?」
「つまり、回復や補助を得意とするタイプじゃ。……すでにおぬしが“舐めて癒す”行動をとったときに、力が働いていたのも納得がいく」
「そっか……なんか、嬉しいかも。セイ、どこか怪我してない? 舐めてあげるよ!」
「遠慮しておくわい」
「えへへ……どこでも癒してあげちゃうよ」
「……お、おぬしはな、そういうことを軽々しく言うでないわ」
セイはわざと咳払いをし、視線を逸らした。
そのまま二人は村の裏手にある草地へ向かい、簡単な訓練を始めた。
セイが魔力の流れを示し、ミミは真剣な眼差しでそれに応える。
最初は手をかざしても反応がなかったが、数時間の訓練ののち、ふわりと温かな光がミミの指先にともった。
「やった……! これ、魔法?」
「うむ、第一歩じゃな。よくやったぞ、ミミ」
ミミは嬉しそうに頬を染め、空に手を伸ばす。
そんな穏やかな時間を破るように、森の奥から――
「ぅああああああああああああっ! 誰かあああああああああああっ!」
悲鳴が響き渡った。
「いかん、急ぐぞミミ!」
「う、うんっ!」
二人は草地を蹴り、森へと駆け込む。
木々の隙間から見えたのは、魔獣と対峙する一人の騎士。
銀の胸当てを身につけ、赤いポニーテールを揺らす少女。
鋭い眼差しと整った顔立ちは、戦場を離れれば貴族令嬢と見紛うほどの美少女――
リアナ・フェルグリム。
「っ、このっ……っ! 一体、なんでこんなところに魔獣がっ!」
任務の途中、縄張りに踏み込んでしまったのだろう。
黒毛に覆われた狼型の魔獣が、鉄を噛み砕きそうな牙を剥きながら迫ってくる。
「っ、クソ……ここまでとは……」
剣を振るうも、圧倒的な力に押し返される。
吹き飛ばされた衝撃が背を走り、腰が痺れた。
(まずい……! 足が……逃げられない!)
鋭い牙が太腿に食い込む。焼けるような痛みが走り、血が飛び散った。
「きゃあっ!」
悲鳴とともに剣の柄を叩きつけ、どうにか引き剥がす。
だが片足はもう思うように動かない。
(誰か……お願い、助けて……!)
視界が揺れ、血の気が引いていく。魔獣がじりじりと歩を進め――
「伏せろッ!」
――ドンッ!
大地を揺らす衝撃とともに、目に見えぬ圧が空気を裂いた。
魔獣の動きが一瞬で止まり、怯むように牙を引く。
「っ!?」
リアナは反射的に身を伏せ、顔を上げる。
魔獣の正面――その一歩先に、一人の青年が立っていた。
「ご無事かの、お嬢さん?」
腰に手を当て、粗末な装いとは裏腹に、妙に場慣れした空気を纏っている。
いいように言えば“主役”のような存在感だ。
「……なによ、誰よあなた!」
「セイじゃ。“テンプレ詰め込み勇者”じゃよ」
「はぁ!? 意味わかんないんだけど!」
反射的に食ってかかるリアナに、セイは肩をすくめただけだった。
「ミミ、彼女を頼むぞ。ワシはあやつを抑える」
「うんっ、任せて!」
ミミはぱっと駆け寄り、リアナの肩を抱き上げる。
「大丈夫? 歩けそう?」
「い、痛くて……ちょっと、無理かも……」
「じゃあ、わたしが支えるね。とりあえず、安全なところに移動しよ!」
明るい声とともに、リアナの体重をしっかりと受け止めるミミ。
「え、えっ? わ、わたしけっこう重いのに……」
「平気だよ。こう見えて力には自信あるんだ!」
ミミはにこっと笑い、リアナは驚きつつも体を預ける。
二人は肩を寄せ合い、森の小道をゆっくり戻り始めた。
少し歩いたところで、リアナが息を整えながらぽつりと尋ねる。
「ねえ……名前、聞いてもいい?」
「ミミだよ。セイがつけてくれた名前なんだけど……すごく気に入ってるんだ」
「ミミさん……そっか。私はリアナ・フェルグリム。みんなには“リアナ”って呼ばれてるわ」
「じゃあ……リアナちゃん、だね!」
「うん。よろしく、ミミさん」
「えへへ……よろしくぅ!」
森が開けた場所に抜け、ミミがリアナを木陰にそっと座らせたその瞬間――
奥から鋭い咆哮が轟き、続いて大地を叩くような衝撃音が重なった。
セイは魔獣との戦闘を繰り広げていた。
咆哮とともに突進する巨体を前に、セイはスキル《加速支援》を発動させる。
刹那の隙を突き、渾身の拳を叩き込むと火花が散り、魔獣の顎が砕けた。
――だが、それでもなお立ち上がる。
「まったく……しぶといのう。ここで新スキルが出んということは――もう決着は見えておるの」
セイは地を蹴り、跳躍の勢いそのままに魔獣の頭上へ。短剣に魔力を収束させ、全力の一撃を振り下ろす。
「――これで終わりじゃ!」
振り下ろした一撃。
爆発のような轟音とともに、魔獣は崩れ落ちた。
土煙が晴れるころ、セイはゆっくり拳を下ろし、小さく息を吐く。
森には、再び小鳥のさえずりが戻ってきた。
「終わったみたいだね。リアナちゃん、足のケガ見せて?」
木陰に寄りかかるリアナの顔は汗で濡れ、呼吸も荒い。
「いえ、大丈夫です」
「傷……けっこうひどいよ」
「でも……これくらいなら、街に戻れば……」
「……無理しないで。ちゃんと見せて」
リアナはためらいながらも、裂かれた太腿をそっと開いた。
血で濡れた布の奥、深く抉られた傷口が覗いている。
ミミは膝をつき、真剣な眼差しでそれを見つめた。
「……やっぱり、けっこう深い……でも大丈夫! わたしが治してあげるから」
息を整えたミミは、少し照れたように笑う。
「私ね、舐めることで、人の傷を癒すことができるんだ」
リアナは驚いて目を丸くし、思わずミミを見つめた。
ミミは頬を赤らめつつも、真剣な声で続ける。
「この前も、セイが怪我したとき舐めてあげたら……ほんとに治ったんだよ!」
そう胸を張り、すぐさま優しく問いかけた。
「だからね……リアナちゃんの傷も、舐めていい?」
リアナは一瞬ためらい、言葉を探すように口を開きかけ――
けれどすぐに柔らかな微笑みに変わり、小さく頷く。
「……お願い、してもいいですか?」
「うん!」
ミミはそっと身を寄せ、リアナの傷ついた太腿へ顔を近づけた。
舌先を慎重に動かし、血に濡れた傷口を優しくなぞっていく。
じんわりとした温かさが広がり、リアナを蝕んでいた痛みがふっと和らいだ。
「っ……不思議……あったかくて、やさしい感じがする……」
「ふふっ……よかった。もう少しだから、じっとしててね……」
「……ミミさん」
「うん?」
「ありがとう……すごく、安心しました」
その言葉に、ミミは嬉しそうに微笑む。
しかし次の瞬間、落ち葉を踏む気配が森に響いた。
ミミとリアナが同時に顔を上げると、木々の影から見慣れた姿が現れる。
「おぬしら、無事かの?」
血に濡れた短剣を下ろしながら、セイが歩み寄ってきた。
肩には擦り傷があるものの、表情には安堵が浮かんでいる。
「セイ!」
「ふたりとも、本当によく頑張ったな。ミミ、とくにおぬしは……えらかったぞ」
「えへへ……ありがと!」
リアナも頬をほんのり赤らめ、そっと視線を外した。
「……助けてくれて、感謝してるわ。ほんとに」
「礼はよい。さて――街に戻って、手当と報告を済ませるかの」
三人は森をあとにし、ルキア村への帰路へつく。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】7(+2)
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定(New)
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:中(自分も役に立ちたいと魔法を練習中)
- 能力傾向:回復系(未覚醒)/ヒーラー適性あり
- 状態:衣服・装備も整い、冒険の準備はひとまず完了(直近の依頼報酬にて)
- 補足:ヒーラー適性があると分かり、嬉しすぎてつい変なことを言ってしまったと後で反省
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、
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もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!
しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。
それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、
ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。
皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。
それでは、次回もぜひよろしくお願いします!




