第51話 クリムゾン・ジャッジメント
「おはようございます! みなさま!」
まだ朝靄が薄く残る早朝。
食卓に、モフルの張りのある声が響いた。
「おはよう、モフル。長い間留守にするけど……大丈夫かな?」
ミミは椅子に腰を下ろしながら、にこりと笑いかける。
「ご安心ください。この家は、わたくしが責任をもってお守りします」
「ほう、頼もしいのう」
セイが豪快に頷く。
「聖女も……おはよう」
「はい。おはようございます」
エリシアも柔らかく応じた。
かつてはその神聖な気配を怖がっていたモフルも、今では少しだけ慣れた様子だ。
皆が朝食の席についたところで――
「おはよう」
階段を下りてきたリアナが声をかける。
「おはよう! リアナちゃん。昨日はよく眠れた?」
ミミが元気いっぱいに返した。
「ええ……その、おかげさまで」
少し照れたような口ぶりに、セイが笑みを浮かべる。
「それはなによりじゃ。今日から長旅になるからな」
「……そうね」
リアナは小さく頷き、視線をそらす。
パンを頬張りながら手を振るミミの無邪気な笑顔に、昨夜の会話がふとよみがえり、頬がわずかに赤くなった。
やがて食事を終えると、リアナは背筋を伸ばし、真剣な表情で口を開く。
「……それじゃあ、改めて旅程を確認しておきましょう。目的地は《霧の大森林シルヴェリオン地方》にある街 《ベランド》。ここから馬車で――およそひと月の距離ね」
卓上に広げた地図の上を、指先がすっとなぞる。
「ルキア村を出て最初に寄るのが宿場町 《ドランベル》。その次は交易で栄える 《カルディナ》。ここまではギルドの定期便があるから安心だけど……問題はここから先。公的な交通手段がなくなるから、馬車を借りるか、別の移動手段を探すしかないわ」
彼女の言葉に合わせ、地図の上へ視線が集まる。
出発:ルキア村
→《ドランベル》 ……最初の宿場町
→《カルディナ》 ……交易で栄える町
→《ヴァルネッタ》 ……砦を兼ねる軍事拠点
→《セリオット》 ……平原に開かれた宿場町
→《ランベルク》 ……大森林入口の関門町
到着:《ベランド》 ……依頼の発信地となる街
「……というのが、大まかな流れね」
「わぁ……こんなに街を通るんだ。ほんとに遠いんだね」
ミミが目を丸くする。
「馬車でひと月というても、まっすぐ行ければの話じゃろ?」
セイが肩をすくめた。
「そうね。お金の都合もあるし、途中はギルドの依頼をこなしながら進むしかないわ」
「となると……実際はもっとかかるかもしれませんね。帰りのことまで考えると、本当に長旅です」
エリシアが小さく息をつく。
「でも大丈夫だよ!」
ミミがぱっと顔を上げ、明るく笑った。
「みんなと一緒なら、きっと楽しく過ごせるし!」
その言葉に、場の緊張がふっとほぐれる。
「――よし、出発じゃ!」
セイが勢いよく立ち上がり、手を打ち鳴らした。
それを合図に、皆は荷を背負い直し、椅子を引いて立ち上がる。
玄関先では、すでにモフルが姿勢を正して待っていた。
「どうかご無事で……皆さまの帰りを、心よりお待ちしております」
深々と頭を下げるモフルに、リアナが柔らかな笑みを返す。
「ありがとう、モフル。しばらく留守をお願いするわ」
「うん、いってきまーす!」
ミミは元気いっぱいに両手を振り、声を弾ませた。
扉を閉じると、澄んだ朝の光が石畳の通りを照らす。
向かうのは発着場――ギルドが管理する定期便の出立場所だ。
通りにはすでに商人や冒険者の姿があり、荷車を押す声や馬の嘶きが行き交っている。
出立前の活気に、広場は満ちていた。
木造の屋根付き待合所の横には掲示板が立ち、墨字でこう記されている。
『第一便・ドランベル行き ――まもなく出発』
「ふぅ……間に合ったみたいね」
リアナが小さく息を吐く。
「ふふっ、楽しみです」
エリシアが胸に手を当てる横で、ミミは馬車の大きな車輪に目を輝かせた。
「わぁ〜! これが定期便なんだね!」
「さあ、乗り込むぞ」
セイの声に、一行は乗合馬車へと足を踏み入れる。
こうして彼らの、シルヴェリオン地方を目指す長い旅路が始まった。
◇
馬車は大きく揺れながら石畳を離れ、街道を進んでいく。
幌を叩く風の音、車輪の軋む音。最初のうちは、誰もが無言で揺れに身を任せていた。
やがて道が安定し、空気が少しやわらいだころ――
向かいの席に座っていた三人組が、こちらに視線を向けてきた。
「あなたたちも、冒険者ですか?」
「うむ。ということは……おぬしらもか?」
セイが応じると、男は頷き、仲間へと視線をやる。
「ええ。僕たちは三人で組んでいます。僕がリーダーのカイル。そして隣が――見てのとおり剣士のジン。その隣の、ちょっと気の強そうなのが魔法使いのメリサです」
「ジンだ。よろしくな」
剣士が軽く手を上げる。
「……メリサよ。馴れ合う気はないけど、敵意もないわ」
そっけない口調だったが、声は凛としていた。
「ふむ。では今度はワシらの番じゃな」
セイが胸を張り、仲間を順に示す。
「この小さな娘が魔法使いのミミ。こちらが騎士のリアナ。そして聖女のエリシア。
リーダーはこのワシ、セイじゃ!」
「……っ!」
“魔法使い”と紹介された瞬間、ミミの瞳がきらきらと輝いた。
小さな体をぐっと起こし、胸の前で両手をぎゅっと握る。
「えへへ……ちゃんと魔法使いって紹介してもらえた……!」
口元を押さえながら、足をぶんぶん揺らす。
その勢いのまま、ぱっと顔を上げて宣言した。
「ねっ、パーティ名もちゃんと言わなきゃ! わたしたちは――《キラキラ☆おひさま団》だよ!」
「……あー、あなたたちが」
カイルがわずかに目を見開き、声を漏らす。
「実力はさることながら、とても素敵な名前だと思ってたんです」
「へへへ、ありがと。わたしが考えたんだよ! じゃあさ……」
ミミが身を乗り出し、期待のまなざしを向ける。
「そっちはパーティ名、なんて言うの?」
その一言に、カイルの目が怪しく光った。
「……よくぞ聞いてくれました」
カイルとは対照的に、ジンとメリサは耳まで真っ赤にして、同時に視線を落とした。
「《断罪の焔刃 (クリムゾン・ジャッジメント)》」
カイルが低く告げる。
「えっ?」
セイが眉をひそめて聞き返すと、カイルは決意を込めるように立ち上がり叫んだ。
「《断罪の焔刃 (クリムゾン・ジャッジメント)》!
僕たちのパーティ名は、《断罪の焔刃 (クリムゾン・ジャッジメント)》だ!」
その宣言が馬車の中に容赦なく響き渡る。
次の瞬間、ジンとメリサは深く身をかがめ、できるだけ存在感を消して座席の隅へと縮こまった。
ただひとり、ミミだけが目を輝かせて叫ぶ。
「めちゃくちゃ素敵です!」
「……さすが、分かる人にはこの良さが分かるんですね!」
カイルは満足げに頷き、胸を張る。
それ以外の者たちは、何事もなかったかのように前を向き、馬車の進む先をただ黙って眺めていた。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】34
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き(「魔法使い」と紹介されて嬉しさを隠しきれない)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。ひと晩寝て体力ばっちり
- 補足:今回の旅で、その独特すぎるネーミングセンスが「特定の人種」に深く刺さることが判明
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き(ミミへの告白以降、どうしても意識してしまう)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:黒を基調とした剣士風ドレスを装備。内心は昨晩の告白の余韻でガチガチ
- 補足:旅程をきちんと整理すると、思った以上に遠くて自分でも少し驚いてた
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。しっかり睡眠をとって肌ツヤも良好
- 補足:なんかリアナの様子がいつもと違ってソワソワしているのを、ひそかに気にかけている
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それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
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